今まで修司さんにワガママなんて言った事なかった。
しのはもう少しワガママ言っていいんだよ。
ずっとそう言われていた。
でも昨日、終始落ち着いて喋ろうとする私に対して、修司さんは、
コロナ禍なんだから仕方ないでしょ。
ワガママ言わないでと言わんばかりの態度だった。
それがとてもショックだったし、癇に触った。
そんな事言ってない。
ただ連絡も取らずドタキャンしたくせに、それを反省する事なく宥めてくるような態度にイラッとしただけ。
男の人は仕事だから仕方ないっていう態度を振りかざして来るけれど、それは私だって勤め人。重々分かってる。
そうじゃなくて、事前に無理なら無理と一言伝えて欲しいだけ。
そう言ったけど、伝わらなかった。
怒りもあった。
でも何より悲しかった。
こんな風にギクシャクするのも、修司さんに呆れるのも、それなのに好きだなんて思ってしまう自分にも。
好きだよ。なんて何を思って言うんだろう。
別れたくない。どの口が言うんだろう。
悔しくて悲しくて、やっぱりその日もなかなか寝付くことは出来なかった。
それから程なくして、コロナが全国的に見て猛威をふるい、私が住む県にもポツポツと感染者が出始めた。
会社自体は生活になくてはならないもののため、店舗を閉鎖するという措置は取れないものの、時短営業で交代勤務という話が、にわかに現実味を帯びてきていた。
私のいる部署も店舗に先立ち、1週間交代で休みを取ることで密を防ぐ事になった。
1週間勤めに出ないのは子供を出産して以来初めて。
まさか我が身にこんなことが起きるなんて想像もしなかった事態に、コロナの深刻さを垣間見た気がした。
それだけ社会も変化している。
最近ずっとしのは切羽詰まった顔して仕事してるよ?
とりあえず、しのから休みな?
仕事が一区切りしたタイミングで、4月から人事異動で我が部署に来た上司が、私を呼び出しそう言った。
1人で抱えすぎなんだよ。
なんでも言いな?
うまく隠してるつもりだろうけど、あんたのこと新人の時から見てるんだから、隠し通せるわけないでしょ。
そう言って笑う上司は私の新人時代の先輩。
社会に出ることの責任感も皆無で子供だった私に、それこそ働く意味も含め、仕事への心の持ち様も、全て一から教えてくれた厳しくも優しい上司。
心配かけてしまった事への申し訳なさと同時に、よく見てくれているんだというありがたみを感じた。
私は恵まれてるなぁと思うと同時に猛省。
休暇もいただきますし、気持ちを切り替えてまた元気に働きます!!
そう言った私に、上司は優しく頷いた。
それからは、長期休暇に備えてバタバタの日々を送っていた。
会議の準備、報告物。
仕事だけは山の様にあった。
それをこなす日々の中で時折修司さんからラインが来ることもあったが、心が揺さぶられる事はなかった。
少しずつ、少しずつ、修司さんに依存しない心持ちが出来上がっている事を自覚し始めていた。