いつもと変わらない一日だと思ってた。


最早、良いのか悪いのかさえ分からなくなった体調のまま仕事をこなしていた夜、終礼で報告を終え一礼した時にそれは起きた。





ほんの一瞬途切れた意識。





気が付いた時には、目の前は床。

グラグラと波打つ視界と膝の痛み。

そして周りから聞こえる焦りの声。



何が起きたかわからなかった。



あーやばい。やってしまった感じかなこれ。


咄嗟に浮かんだのは疑問。そして追いかけて来るように感じたのは取り繕わなきゃという焦り。



あー、ごめんなさいっ!!

びっくりしましたよねー。

今のなんだろう。

大丈夫です!!大丈夫。



笑いながら早口で捲し立てた。

気にしてほしくなくて明るく笑いに変えて欲しかったのに、帰ってきた反応は心配ばかり。




大丈夫なことを伝えたくて、助けようとしてくれたであろう私を半分抱え込むように側にいた同僚たちに礼を言い、立ち上がるつもりだった。



でもできなかった。



私の意に反して力が入らない身体に焦りばかりがつのる。



結局は椅子まで引き上げてもらい少し落ち着くのを待った。



恥ずかしかった。

そしてそれ以上に自分の言うことを聞かない身体にイライラした。



幸いにもあまり長くは続くことも無く、数十分で動けるようになり帰宅となった。




しかし、その症状は一度で治ることはなく日々繰り返しおきるようになっていった。

意識が途切れることは無かったが、突然横から押されたようにふらついたり、椅子に座っているはずなのに落ちてしまうのかと思うほどの目眩を感じることもあった。



目眩=メニエール病。

そう思っていた私は迷わず耳鼻科に駆け込んだが、診断結果は片耳の突発性難聴と目眩。

耳がおかしくなっている自覚なんて全く無かった私はますます混乱した。




病院から処方されたお薬では改善する様子もなく

その後は更に強い薬に変えてもらうこととなった。

それでも改善は見られず、日々続く症状に困り果てていた私は『大きな病院を受診した方がいいのではないか』と言う上司の言葉を受け、土曜日に総合病院で診察を受けた。



受付に症状を説明し、まずは総合内科へと案内された。

先で待っていた先生は私の病状をよく聞いたうえでいくつかの質問をされた後、『可能性は2つあるのでその一つをつぶしたいから』とCTを手配してくれた。




CTを撮り終え、大きな病院特有の長い待ち時間を経てようやく診察室に私を呼んだ先生は意外なことを告げた。



「脳はとても綺麗でした。そちらは何も問題ありません。ですので可能性は1つです。あなたは耳鼻科に行きましたけど、はっきり言って治るわけないです。あなたが行くべきところは診療内科です。」



ん?

診療内科?



目が点になっていたであろう私を見て先生は、自分は企業の産業医もしていること、『話を聞く限り間違いない。早急に診療内科へ行き休職する事をすすめる』と比較的強い口調で仰った。