修司さんとの繋がりを削除してから気がついたことがある。


時々登録外の番号から着信があること。

時間は決まって夜、8時過ぎ。

私がまだ家に帰らないけれど仕事が落ち着いてくる時間。

決して長くはなく、数回震えた後静かになるスマホ。

数日に1回程度の頻度で繰り返されるそれに思い当たる人物は1人しかいない。




あの時は勢いで消したけど、よく考えたら向こうからかけてくる可能性があることをすっかり失念していた。



馬鹿だ。



後悔と共に吐き出した嘆息。

そんなことで解決するものでもないし着信拒否の仕方調べなきゃと思うけれど、なんだかそれもできなくてスマホが鳴り止むのをいつも黙ってじっと待っていた。



そうなってくるとどうしても憶えてしまう番号。

そのことに僅かに安堵を覚える自分にほとほと呆れる。

こんなものにまで縋りたくなる自分を心の中でせせら笑うしかなかった。




仕事は日を追うごとにじわじわと厳しさを増し、やり甲斐や充実感を感じつつも過ぎる時間の速さやプレッシャーに振り回され、着信のことなんて気にするのはその瞬間だけになっていった。

一瞬だけ切なくなるけれど、着信が止めば『それより今日を終わらせること』にすぐ意識が切り替わる。

明らかにオーバーワークなのは自分でも薄々気が付いていた。




そのうち

数日おきにかかっていた着信も少しずつ減っていき、1ヶ月近く経つ頃にはほぼかかってくることは無くなった。



諦めたのだと思う。

既読もつかない、電話も出ない。

嫌でも理解しているだろう。



それより仕事を早く終わらせなきゃ。



仕事のこと、家の事、子供達のこと。

ずっとずっと頭は次の事を考えてる。

 

『しのさん、大丈夫ですか?』

食べる気にならず適当に切り上げ喫煙所に行く私に声をかけてきた同僚。

そんなに顔に疲れが出てるだろうか。

気をつけなきゃなぁ。

笑って誤魔化すことが精一杯の反応だった。

大丈夫かどうかなんて分からない。

不安を抱えているのは皆同じ。

私だけじゃない。



大丈夫じゃないと言ったところで状況は変わらないことは分かってるからこそ同僚に負荷をかけたくなかった。





仕事の帰りも遅い、時間がない。

家族も協力してくれているのに自分の効率が下がっているのは明らかだったからどんどん気持ちが追い込まれていく。



私ももう若くない。

年を実感するのはこういう時なんだろう。



だけどしなきゃいけない事だけは沢山あって。






段々と睡眠時間が減って行く日々。

寝てても頭だけは起きてるような感覚が当たり前になってきていた頃、最初に悲鳴を上げたのは体の方だった。