深い闇の中に無数の星々が光輝く広大な宇宙。
その中でも一際、美しい輝きを放つ一つの惑星があった。

その惑星の名は「グラクメトン《調和》」。青緑に光輝いていた、美しい星だった。惑星の表面の大半は青く透き通った海水に恵まれ、大地は広大な緑の草原や森に生い茂られていた。さらに多種多様な生物達が生息しており、まるで楽園と言うべき世界が広がっていた。
やがて、この星に多くの知的生命体が誕生した。一つの頭で物を考え、二本の腕や足を使って物を作ったり動かしたり歩く事ができた。そして長い年月の中で少しずつ進化してきた彼等は、自分達を「シ-マ-《輝く者》」と呼ぶようになった。

豊かな感情と高い知能を持つにまで発達したシーマ-達は、自分達の体に秘められた可能性を発見し、体の構造を肉体的な体から機械化した体に改造した。その結果、行動圏が海中や空、グラクメトンの周りの衛星にまで広がった。
それから長い年月が経ち、巨大な建造物や車両などを開発し、高度な文明を持つようにまで築き上げた。その過程で三つの種族に分かれ、暫く差別化が進んでいたが、王政による平等の権限によって互いを尊重し共生が可能となった。
長らく問題になっていたエネルギーの減少も自然から得た特殊な新エネルギー資源によって解決し、このエネルギーを自分達の生活や自然との共存に向けて活用し続け、平和で豊かな世界が永遠に続いていた。

しかし、突如として外宇宙から「アポカリプス」と呼ばれる謎の軍団がグラクメトンに襲来し、侵略を開始した事でシーマー達の平和は崩壊した……。

アポカリプス軍団の侵攻を受けてから50年以上が経ち、グラクメトンの美しい街並みや自然は一変した。
緑が多く生い茂た森や花の一輪も生えてなく、荒れ果てた大地に響き渡る爆発音。空を大きく覆い尽くしている暗雲とスモッグ。廃墟となった巨大なビル群の摩天楼。
そして、大地を埋め尽く程の多種多様な死体の山々。その中にはこの星の住民シーマ-達や、グラクメトンの豊富なエネルギー資源を略奪しようと外宇宙から襲来してきた軍団の兵士達が横たわっていた。
まさに、この世の終わりとも言える惨状だった。

「おおおぉぉぉーーー!!!」
廃墟と化した都市部から、大地を震え上げるような多くの声が響き渡った。廃墟都市の各地から剣やライフル銃を抱え、雄叫びを上げながら戦場を駆けて行く者達の姿があった。
姿形はシーマ-だが、敵の侵略攻撃を受けて以降、愛する自分達の星や故郷を取り戻すために設立し、戦い続けているシーマー種族の戦士集団「クラニスオン《星の虹》」である。
クラニスオンの戦士達「コンバッツ・シーマ-」の体は白く頑丈なヘルメットや装甲で作られており、さらに身体能力を上げているため、この惨状な戦場でも効率よく戦えるように工夫されていた。
「作戦は以前に伝えた通りだ!仲間の部隊が敵の戦力を分散させている間、我々は守りが手薄になる目標の前線基地を奪取する!」
シーマーの戦士達の一人の指揮官が力強く命令を下した直後、多くの戦士達は左右二つに分散し、残りの部隊は敵の前線基地に向かって一斉に駆け出した。

一方、コンバッツ・シーマー達が向かった先の前線基地には多彩な武器や重装を施した敵の侵略者軍団、アポカリプスが大勢待ち構えていた。
軍団の中には、左目が赤いレンズ状になっている一人の指揮官がゆっくりと左腕を上にあげ、号令と共に腕を勢いよく降り下ろした。
「アポカリプス軍団、アターーック!!」
「うおおおぉぉぉーーー!!!」
殺意と残虐性が籠った多くの声が響き渡り、アポカリプスの兵士達が雪崩れの如く出撃した。
アポカリプスの兵士達は異形な姿をしており、目が複眼となっている者、二つの頭部を持つ者、腕がライフル銃と一体化している者、全身を機械に改造された者など、多種多様な異星人の兵士がその姿を現した。
そのおぞましい姿に恐怖心を持つのが普通だが、シーマー戦士達の目には恐怖や畏れも無く、寧ろ自分達の大切な家族や友人達を殺し、故郷の星を破壊し続ける憎き敵に対する闘争心の炎で燃え上がっていた。
「クラニスオン!今こそ奴らに一泡吹かせてやれ!」
「アポカリプスよ、情けは無用!無価値な機械人形共を破壊せよ!」
双方の指揮官が下した命令と同時に、二つの勢力が激しくぶつかり合う瞬間だった。振りかざされる剣が鋭く響き合う音。大量に降り注ぐ銃弾やエネルギーの光弾の雨。敵味方問わず無数に飛び散る血飛沫。悲痛な表情で地面に倒れる者達。
この星……グラクメトンを巡り、50年以上も続いている戦争は、どちらかの勢力が滅びるまで決して終わることはない。

「うわぁッ!」
瓦礫や廃車の陰に隠れながら銃撃戦をするコンバッツ・シーマ-戦士の一人が、敵兵が発射したミサイルを避けようとしたが、ミサイルの爆発で大きく吹き飛ばされてしまった。
急いで立ち上がろうとした時、右足に激痛が走った。爆発の際にミサイルの破片が足に刺さっていたのだ。足の痛みをなんとか耐えながら顔を上げた戦士の目の前には、五人のアポカリプスの兵士達が立ちはだかっていた。
その足元には、無惨に体中を撃ち抜かれた仲間の戦士達が転がっていた。仲間達の遺体、敵兵の歪んだ笑み、銃口を向けられた戦士には慈悲を乞う気力もなく、ただ死を迎えるのを待つだけだった……そのとき!
「ぐわあぁぁッ!?」
うめき声を発したのは、死を覚悟した戦士ではなく、銃口を向けたはずの軍団の兵士だった。戦士の後方から発射されたエネルギーの弾丸《エナジー弾》に頭部を撃ち抜かれた兵士を見て、敵兵達は驚きを隠せずにいた。
戦士が驚き後ろを振り向くと、約5m離れた後方に、右手でライフル銃を構えた赤いシーマー戦士が立っていた。
「ステリア・エイト!仲間の救助及び、敵兵士を撃退せよ!」
赤色の戦士が力強く号令をかけた瞬間、後ろに引き連れた仲間の戦士達も姿を現し、敵に向かって激しい銃撃を繰り出した。
赤色の戦士がすかさず前に走りだし、右手でライフル銃を連射しながら、左手に持つ剣で瞬く間に敵兵達を斬り倒した。その猛々たる姿を驚きと尊敬の目で見ているシーマー戦士の前に、赤色の戦士は駆け寄り、優しく声を掛けた。
「君、足は痛むか?早くローゼに傷を診てもらおう」
赤色の戦士がそう言うと、桃色の強化パーツが特徴的な「ローゼ」と呼ばれる仲間の看護員に「彼の足の手当てを頼む」と言い、すぐさま他の戦士達を引き連れ再び最前線に向かって走って行った。他の戦士よりも一際凄まじい戦闘力を魅せた赤色の戦士……。負傷した戦士は、彼に対して助けてくれた恩と強い憧れの念を持ち始めていた。
「あの…、さっきの方は一体……?」
戦士は、自分の右足の傷を治療してくれているローゼ看護員に、さっきの赤色の戦士について尋ねた。
「彼のこと?彼の名前はアドム。仲間を絶対に見捨てない人よ」
戦士からの質問に、ローゼは優しく笑顔で答えた。
「アドム……?」その名前を聞き、少し考え込む戦士は、すぐに驚いた表情を見せた。
「えっ!?彼があの『赫鬼』のアドム!?」

白いヘルメット状の頭部に、装甲と一体化した体に赤色が特徴な強化パーツを付け加え、誰よりも炎のような熱い正義の志と仲間を思う心を併せ持つ勇敢な戦士の名前……「アドム」。
クラニスオンの部隊の一つ、「ステリア・エイト」の勇猛な部隊長。
数多くの戦闘を繰り広げてきたアドムは、両手に持つライフル銃と剣で戦場に応用するように使い分けながら最前線で戦い、仲間の戦士達と共に敵の軍勢を着実に攻め続けてきた。
まるで鬼の如く猛々たるその姿を目撃したアポカリプス軍団の兵士達からは、「赫鬼《アカオニ》」と呼ばれ恐れられていた。
「なッ何だ!こいつは!?」
「逃げろ!こいつがあの赫鬼だ!!」
次々と敵兵士を撃ち倒していくアドムの姿を見た途端、アポカリプス軍団の兵士達は蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。
「何が赫鬼だ、奴もそこら辺の雑魚と同じだッ!野郎共、奴らを撃ち殺してしまえ!」
敵陣の中にはアドム達を迎撃しようと銃を構え始めた兵士達もいたが、アドムは敵の動きを咄嗟に察知し、ヘルメットに内蔵している通信ユニットを通して仲間の戦士達に合図を掛けた。
「ステリア・エイト!直ちにアイロン・ウォールを展開せよ!」
戦士達は直ぐに胸部のプレートから小さな球状の装置を取りだし、上部にある四角形の小さなボタンを押した。
「野郎共!撃て--ッ!」
アイロン・ウォールのボタンを押すと同時に敵の銃撃が放たれ、大量の銃弾がアドム達に命中した……のハズが、その銃弾が一つもアドム達の体を貫通することはなかった。それどころか、銃弾はアドム達の手前のところで瞬時に消滅したのだった。突如起きたその現象に驚きを隠せない軍団兵士達。
そして今度は、ステリア・エイトの戦士達のライフル銃による大量の連続射撃によって、軍団兵士達はたちまち蜂の巣にされていった。

「アイロン・ウォール」とは……過去にクラニスオンの特殊部隊が、アポカリプスの技術研究施設を襲撃した際に奪取した魔術と科学技術を融合して作られた装備品の一つ。
普段は小さな球状の形をした装置だが、所持者が上部のボタンを押すことで半透明の球体型シールドが発生し、所持者を包み込むように展開することができる。このシールドは、シーマーの攻撃だけを通し、アポカリプスからの攻撃を防ぐことも可能。
シールドの防御力は、技術者の間ではまさに「科学技術の奇跡」と呼ばれており、連続射撃や爆弾の爆発威力などを無効化することもできる。しかしその反面、持続力性能が低く、長時間衝撃を受け続けると装置がオーバーヒートしてしまい、シールドが消失してしまう恐れがあった。

自分自身を鍛練し続け習得した戦闘能力や、この日のために練り上げた作戦とアイロン・ウォール等の多彩な武器を余さずに発揮できたことで優勢な戦いを繰り広げ、戦場の前線を順調に突き進むクラニスオンの戦士達。
だが、ステリア・エイトが敵の前線基地まであと12mも近付いた所で、アドムはふと何かの気配を感じ取り足を止めた。彼の様子を青色の強化パーツが特徴な副隊長であり、アドムの昔馴染みの親友でもある青き戦士……「キアノス」は不思議そうに尋ねた。
「どうしたんだアドム?奴等の前線基地はもう少しだぞ」
だが、アドムは動かなかった。全神経を視覚と聴覚センサーに集中させ、辺りの廃墟や瓦礫の物陰を凝視した。
少しした後、アドムはキアノスを含む六人の戦士達に向かって、静かに合図を送った。
「全員、後ろに退避しろ。向こうの瓦礫の後ろに敵が多数隠れている」
アドムからの意外な言葉を聞いたキアノス達が驚いた次の瞬間、彼等の前と右側の瓦礫の物陰から敵兵の待ち伏せ部隊が現れ、アドム達に向けてエナジーブラスターを一斉に撃ち始めた。アドムとキアノスを含め五人は素早くアイロン・ウォールを展開したおかげでエナジー弾を受けずに済んだが、展開が遅れてしまった二人の戦士は、敵からの射撃により額や急所を撃ち貫かれてしまった。
「早く後ろに退避するんだッ!」
アドムとキアノスがライフル銃で応戦射撃をしている間、残りの三人の戦士達は急いで背後の物陰や穴場に隠れた。
アイロン・ウォールのシールドで敵の銃撃を無効化し、ライフル銃で交戦しながらアドム達も物陰に後退していった。
「敵の数が多い!このままじゃジリ貧だぞ!」
キアノスは敵の人数を確認しながらライフル銃を連射し続け、敵兵士の15体の内、二人を撃ち倒した。
「私の方から指揮官に増援を頼んでみる!暫く持ち堪えてくれ!」
そう言うとアドムは通信ユニットを調整し、指揮官に向けてメッセージを送信した。
「こちら、エイト部隊長のアドム!現在、敵部隊の奇襲を受け足止めされています!既にこちらの戦士は二人が殺られ、敵との銃撃により身動きが取れません!至急増援を要請します!」
アドムが通信ユニットに向けて増援要請を伝えると、「ピー…ガガガ……」と、通信が繋がった音が聞こえ始めた。
『こ…ら、……官だ!電波しょ…害が酷く…よ…き取れない!……ん?何だ、あ…は?………うっうわ…あぁぁ…ぁ!!』
指揮官からの突然の断末魔が響いた後、通信はそこで途絶えた。
「お…おいアドム、今の声は何なんだ?」
アドムの通信ユニットから響いた指揮官の叫び声を聞いたキアノスの声は、少し震えていた。彼もアドムと同じく強い正義の志を持つ戦士であり、これまでの戦いで数多くの大切な仲間達が傷付き、失うことは十分に承知している。だが、先程の指揮官の尋常ではない声を聞き、キアノスや他の三人の戦士達の顔色は状況の深刻さに青ざめていた。
アドムは何が起きているのか必死に思考回路を働かした。そして、一つの残酷な結論に辿り着き、悔しそうな表情を浮かべながらもキアノスに話した。
「キアノス…どうやら私達は、まんまと敵の誘導作戦に掛かってしまったようだ……」

アドムの口から出た言葉に、キアノスや戦士達は言葉が出なかった。先程まで自分達が優勢な戦況下にあったにも関わらず、今回の作戦は最初から既にアポカリプス軍団の手のひらに踊らされたと言うことに気が付かされたのだった。
その時、突然アドムの通信ユニットから連絡が入ってきた。それは彼等をさらなる絶望へ陥れるに十分な内容だった。
『応答せ…。こち…、ク……スオン……作戦司令本部。こちらで…指揮官及び、多す…の…部隊とせ…しの死亡…確認された。多大…被害…確認され、こ…作戦…失敗した。全て……隊…は、ただ…に作…を放棄し、退却せ…』
司令本部からの連絡を聞いたアドム達は、頭上から雷が落ちたような衝撃を受けた。目的地の前線基地の奪取はあと少しで達成できる直前に、「作戦失敗」と言う言葉を聞いて愕然を隠せなかった。
「い…嫌だ…。俺は…こんな所で死にたくない!」
仲間の戦士の一人があまりの恐怖に駆られ、急いで物陰から飛び出した。
「おい、やめろ!今はきけ…」
キアノスの制止も虚しく、敵兵士のセンサーに引っ掛かった戦士は、敵が射撃したエナジー弾によって頭部を丸ごと撃ち砕かれてしまった。音もなく地面に倒れた戦士の体を見て、キアノスは悔し紛れに拳を地面に殴り付けた。
「クソッ!俺達の最期はここかよ!?」
もはやこの場から離脱する事は絶望的だと思い始めたキアノス達に、アドムは冷静に一つの作戦を伝えた。
「皆、これは少し無茶な作戦だが、よく聞いて欲しい。この作戦は……」
アドムの作戦を聞いたキアノス達は驚いた表情を作ったが、力強く自分達を強く想う男が伝えた言葉を信じ、キアノス達は同時に頷いた。
アドム達が隠れている物陰に向けてエナジーブラスターを構えているのは、先程キアノスに撃たれた者達を除いて13体の人数で隊列を組んでおり、冷たい金属の体で作られた殺戮の量産兵「スラウグハター」達である。標的である敵勢力のクラニスオン達を抹殺する他、自軍の指揮官や幹部達が下す命令を忠実に従うようプログラムされている。
「こちら、B-7704地点の奇襲攻撃部隊。現在、敵の兵士約三人を射殺し、残り四人が生存中。これより障害物を粉砕し、残りの敵をしゃ…」
スラウグハターの一人が腕に内蔵式の通信ユニットで指揮官に戦況報告を行っていたその時、突如物陰から身を乗り出したアドムが愛用のライフル銃「E-S・Lガン」をレーザー光線に切り替え射撃し、戦況報告中のスラウグハターの頭部を見事に撃ち抜いた。
続けてレーザー光線から散弾に切り替えたアドムは、広範囲のスラウグハター達に向かって銃の引き金を引いた。無数の散弾が瞬く間に多くのスラウグハターの体を撃ち抜いた。残りのスラウグハター達もエナジーブラスターをアドムに向けて一斉射撃した。しかし、事前にアドムはアイロン・ウォールを展開していたおかげで、敵のエナジー弾を無効化し蜂の巣にならずに済んだ。
「キアノス、今のうちだ!二人を連れて退却するぞ!」
 
先程、アドムがキアノス達に伝えた作戦内容とは……「アドムが自らアイロン・ウォールで盾となり、敵と交戦射撃している間に、キアノスが仲間の戦士達を連れて戦場から撤退する」と言うものだった。
作戦内容を聞いた時、二人の戦士からは「無茶です、自殺行為ですよッ!」と反対されたが「大切な仲間を見捨てるくらいなら、自ら盾となって助け出す方がマシだ!」と彼の少し頑固な言葉を聞き、全員が意を決して作戦を実行した。
(全く…本当に危なっかしい作戦だよなぁ。けど、絶対に帰ってこいよ、ダチ公!)
キアノスは親友の実力と言葉を信じ、戦士達と共に戦場から撤退した。
アドムの的確な射撃と銃弾の切り替えによって、着実にスラウグハター達の数を減らし、残り七体にまで撃ち倒した。
暫く銃撃戦が続く中、体内に内蔵されているコンピューター「α《アルファ》」から警告が出された。
『警告。アイロン・ウォールの持続力が30%まで低下しました。シールドが消失する恐れあり。直ちに展開を中断してください』
警告を聞いたアドムは近くの瓦礫に素早く身を隠し、アイロン・ウォールのボタンをオフに切り替えた。少し辺りを見回し、キアノス達が遠くの安全地帯まで撤退したことを確認し、安堵のため息をついた。
「ふぅ、作戦はどうにか成功したな。……そろそろ潮時か」
アドムは胸部のプレートから一つの手榴弾を取り出し、間近まで迫ってきたスラウグハター達に向けて放り投げた。手榴弾はスラウグハターの一体の足元に転がった途端、大きな爆発を起こした。さらに爆発に巻き込まれなかった者達の体内には強力な電磁波が流れ込み、視覚センサーや運動機能などを一時的に麻痺させた。
「て…キきキキ…、は…排除ジョ…スる……」
スラウグハター達が思うように動けなくなった事を確認したアドムは、急いでその場から離脱した。
だが、その上空で飛行している小型の虫型ロボットを通して、手に持つ通信カメラで一部始終を観察していたアポカリプス軍団の指揮官が呟いた。
「フッ、中々面白いモノが観れたな。しかし、戦場では上手くいかない事が多いがな」
そう言うと指揮官は、手に持っている小型装置のボタンを静かに押した。

-二時間後-
敵軍の追跡をなんとか振り切ったアドムは、キアノス達と合流するために、安全地帯にある廃墟で身を隠していた。
手持ちのライフル銃の点検をしていたその時、こちらに向かって来る足音が聞こえ、アドムは咄嗟にライフル銃を持ち構えた。足音が次第に近付く廃墟の一角を凝視し、銃のトリガーに指を描けようとしたが、姿を現した者を目視したアドムは驚いた表情を作った。その者の体は酷く傷付き、そしてよく知っている顔だった。
「キアノス!?その怪我は一体どうしたんだ?敵の攻撃を受けたのか!?」
アドムは急いでキアノスの元へ駆け寄り、倒れる寸前だった親友を抱え、廃墟の中の一部屋に入った。ふらふらな足取りで歩くキアノスを、近くの壊れ掛けの椅子に座らせたアドムは彼の体中にある傷を診てみた。
「傷が酷い、急いでスターシティに帰還する必要があるな……。キアノス、少しの応急措置をするから待っててく…?」
アドムはキアノスの傷の応急措置を始めようとした時、ふとあることに気が付いた。思えば、この場に戻ってきたのはキアノス一人だけだった。離れる前に連れていた二人の戦士の姿がなかった。
「キアノス、あの二人はどこだ?まさか、はぐれてしまったのか?」
アドムはその場でしゃがみ込み、キアノスの顔を見た。そこでアドムは言葉を失った。彼の…キアノスの目からは、涙が流れていた。
「……アドム、すまない…。一時間前に三人で安全地帯の中継点まで来た時、地面や廃墟のあちこちに、奴らが仕掛けた操作爆弾に引っ掛かってしまい……俺はなんとか助かったが、アイツらは……」
そこへキアノスは、プレートからあるものを取り出した。それは、シーマーがコンバッツに入隊した際に受け取る、戦士である証の二つのシンボルバッジだった。バッジを両手で握りしめながら、キアノスは体を震わせながら嗚咽した。
彼にとって二人は、訓練所で知り合ったかけがえのない仲間だったからだ。友を二人同時に失う心の傷は、簡単に消えるものではなかった。
アドムは静かにキアノスの傍らに座り込み、地面に落ちていた石を二つ拾い、小型のエナジーナイフで石の表面を削りがら祈り始めた。
「……誇り高き我らの同志よ。君達の魂アニマボルの光は、残された我らに生き抜く希望と、敵を討ち滅ぼす強い力を授けてくれる。君達が持った正義の志は、我らの力の糧になる。戦士達よ、星の命と共にあれ」
ナイフで削った石の表面には、二人のシーマー戦士の名前を刻み込み、それを部屋の片隅に供えた。
「キアノス、行こう」
アドムは座り込んでいるキアノスに声を掛け、銃などの装備品を持って出口に向かった。手に持つ銃のグリップを強く握り締めながら……。



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