「ステリアビリティ《星の能力》」とは……元々、民間種族であるノーマル・シーマ-が、戦闘種族であるコンバッツ・シーマ-戦士へと体の構造を改造する事で稀に体得する特殊能力の総称である。

ステリアビリティには様々な能力が確認されており、それぞれ攻撃重視の能力「アタックアビリティ」、防御重視の能力「ディフェンスアビリティ」、魔術による能力「マジックアビリティ」などがあり、一部では多数の能力を使いこなす者も存在した。
能力を体得したコンバッツ・シーマ-達を、周りは「プロイキス《能力者》」と呼んでいるケースがある。
敵勢力のアポカリプス軍団にも様々な能力を繰り出す者達が存在するが、その力量の差は不明である。

「まさか、アドムがプロイキスだったとは……!」
ネプチューンは目の前で炎エネルギーの鎧を身に纏い、勇ましく立つ赤きシーマー戦士……アドムが能力者だと確信し驚いていた。アドムの体から発せられる赤熱の炎は、彼の内なる感情が解き放ったかのように激しく燃え盛っていた。ここ、ジュエリーシティ中央大広間施設にて、クラニスオンのコンバッツ・シーマー戦士、赫鬼《アカオニ》のアドムと、アポカリプス軍団の幹部、血に餓えた血粒の紳士ブラックドは互いを睨み合いながら距離を保ち、次の攻撃の機会を窺っていた。その時、施設の外から大爆発の爆音が響き渡った。その音は、戦いのゴングの鐘を鳴り響く合図のように思えた。
アドムとブラックドは剣を持ち構えたまま、目の前の敵に向かって同時に走り出した。次の瞬間、アドムの燃え盛る剣と、ブラックドのブラッドブレード《血粒の剣》が、ガキンッ!と鋭い音を立ててぶつかり合った。
両者の激しい剣撃が繰り広げられ、両者の周りには炎と血粒のエネルギーが美しくほとばしった。アドムは剣のグリップを両手で強く握り締めながら必死に応戦し、それに対しブラックドは常に余裕ある表情が絶えなかった。
「何ですか?プロイキスと言う者た血《達》は、もう少し実力があるのと聞いていましたが、寧ろそんなことはありませんでしたね!ではそろそろ……貴方の生き血を頂きましょうか!」
そう言うとブラックドは鎌状の右手を大きく構え、アドムの首を一気に切断しようと強く振り下ろした。だが、アドムは首を斬られるすんでのところで左手をグリップから離し、ブラックドの右手首を素早く掴んだ。
そこからアドムは、透かさず右手に持つ剣を逆にブラックドの右腕に突き刺し、勢いよく彼の腕を切り落とした。
「なッ、何!?」
ブラックドは切り落とされた自分の右腕を見て、驚きと憤りで混乱していた。アポカリプスの幹部の一人である自分が、シーマーごときに深手を負わされた事に戸惑いを隠せていなかった。
そこへさらにアドムからの追撃が迫ってきたが、ブラックドはすぐに冷静さを取り戻し、ブラッドブレードでアドムの剣撃をギリギリまで防いだ。
「いやはや、私の腕を切り落とした事、褒めてあげましょうアドムさん。しかし、この程度で私が不利な状況になると思ったら大間血がい《違い》ですよ!」
そう言うとブラックドは、アドムをネプチューンがいる後方にまで力強く蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたアドムはすぐに体勢を立て直しブラックドの方へ視線を向けると、彼の右腕の傷口から大量の血粒が溢れだし、一瞬にして元の右腕の形状に再構成したのだ。
「この様に、損傷した部分に血粒エネルギーを集中させれば元通りに生え変わるのですよ。先程は少し取り乱してしまいましたがね」
ブラックドの驚異的な再生能力にネプチューンは驚きながら「化け物め……!」と呟くが、それに反してアドムは冷静だった。
「やはり幹部だけあって、そう簡単には倒れないか……ん?」
ふとアドムは、入り口の通路の方から大勢の足音が聞こえてくるのに気がついた。
それはアドムが発信した救難信号を感知し急いでこの施設に駆けつけてきた、最高総司令官トライアンフ率いるコンバッツ・シーマ-の一団だった。

「アドム!ネプチューン!無事か!?……ねッネプチューン、お前腕が……!?」
トライアンフは医療員に急いでネプチューンの傷の具合を診るよう指示した。ネプチューンは医療員に傷の手当てをしてもらいながら、現在の状況をトライアンフに報告した。
「……以上が、現在の戦況となります。腕はアドムが応急処置をしてくれたので、大事には至っておりません」
「……そうか。二人とも、よく踏ん張ってくれたな。後は我々に任せろ!」
他のコンバッツ・シーマ-戦士達は、辺りに転がっている無数の亡骸を見て息を呑んだ。だがすぐに、エナジーライフルの銃口を目の前にいる憎きアポカリプスの幹部に向かって構えた。
「アポカリプス!直ちに降参しろッ!この人数では、さすがの貴様も勝ち目はないだろう!」
トライアンフの警告にブラックドは、まだ余裕のある表情を変えず、深々と丁寧なお辞儀の姿勢を見せた。
「いえいえ、寧ろ感謝しますよ、シーマーの総司令官殿。ここまで大勢の生き血を用意してくれたのですから」
ブラックドのゾッとする様な笑みを見て、戦士達のライフルのグリップを握る手は微かに震えていた。
「さぁ~て、まずはどなたからの生き血を貰いま……」
ブラックドが鎌状の右手を静かに構え始めたその時。
『おい吸血幹部!いつまで油を売っているつもりだ!?お前が担当しているジュエリーシティ中央施設に集まったシーマー共の殲滅はどうなんだ?こっちは殆ど壊滅させたぞ!』
ブラックドが左腕に装着している通信機から、仲間の幹部からの連絡が入った。
「あぁ、その声はシャドウですか。ご心配なく、こ血《ち》らも大方敵を殲滅させましたよ。今は少しクラニスオンのプロイキスの方々と遊んでいただけです」
仲間のシャドウからの怒鳴り声を素っ気なく聞き流し、ブラックドは現在の戦況を淡々と報告した。
『遊んでいた!?そんな暇があるなら、さっさと各地の宇宙船発射施設を攻撃しろッ!奴等でっかい宇宙船にぞろぞろと乗り込んで、何かやろうとしてやがる!必死こいて宇宙船を守っているが、お前も早く奴等を皆殺しにしてこっちの加勢をしろッ!通信終了!!』
シャドウから指示の連絡を受けたブラックドは、ゆっくりとアドム達の方に目を向けた。
「やれやれ、せっかく楽しみの最|血ゅう《中》でしたのに、仕方ありませんね。しかし、一番の楽しみは後で取っておきましょう。では皆さん、またお会いしましょう」
ブラックドは深々とお辞儀を見せながら、左手からエナジー弾を発射して施設の天井に大穴を空けた。するとブラックドの体が宙に浮き始め、天井の大穴から飛び立とうとした。
「逃がすものかッ!総員、一斉射撃!!」
トライアンフの号令と共に、戦士達は一斉にブラックドに向けてレーザー光線を発射した。だが、ブラックドはレーザー光線が当たる直前に血粒エネルギーの防壁を作り出し、レーザー光線を全て無効化してしまった。そしてそのまま天井に空いた大穴から、クラニスオンの宇宙船発射施設の方角へと飛び去っていった。
「クソッ!奴が向かった先は宇宙船の発射施設か!?船まで破壊されたら、もう我々に為す術はない!」
敵に作戦を悟られ焦りを見せ始めたトライアンフに、アドムがすぐさま駆け寄ってきた。
「総司令官、先程施設で戦っているキアノス達から受信した情報によると、各々の船の自動防御システムを起動させ、シールドが稼動し何とか敵の攻撃から持ちこたえています。我々も至急施設へと向かうべきです!」
アドムからの報告を聞いたトライアンフは強く頷き、周りのコンバッツ・シーマ-達に再び号令をかけた。
「総員!我々も直ちに施設に向かうぞ!奴の仲間が言っていた通り、敵は我々の船に攻撃を仕掛け始めた!あれは我々の最後の希望だ!もし船が破壊され、この作戦が失敗に終われば、今まで死んでいった仲間達の努力と意志が無駄になってしまう……。いや、そんなことは決してあってはならない!何としてでも奴等の攻撃を阻止しなくてはならない!」
そう言うとトライアンフは右拳を高々く上に上げ、再び大声で叫んだ。
「諸君、これが我々の最後の戦いだ!星の命と共にあれッ!」
「星の命と共にあれッ!!!」
アドムとネプチューン、そして他の多くのコンバッツ・シーマ-戦士達も高く腕を上げ、この最後の戦いに全てを掛けた。そしてトライアンフ達は宇宙船の発射施設まで一気に駆け出していった。

-ジュエリーシティ 第八番宇宙船発射施設-
シーマー達が膨大な費用と長い年月を費やして造り上げた巨大宇宙航行脱出船「ナオス」。
船内には約50000人以上にも及ぶ民間人、ノーマル・シーマ-達が次々と乗り込まれていた。船に搭乗した者達の殆どが、これから起こりうる出来事に不安な表情を浮かべていた。そんな中ナオスの外では、宇宙船発射施設を強襲してきたアポカリプス軍団から民間人と船を死守するため、コンバッツ・シーマ-達が激しい戦闘を繰り広げていた。他の施設でも軍団の大規模な一斉強襲が始まり、その激戦は50年前の大戦「悪魔の進軍」に匹敵するものであった。
「ぐわああぁぁぁ!!腕が、俺の腕がッ!」
『こちら、第32警備部隊!現在敵の奇襲によって仲間の五人が殺られました!至急増援をッ!!』
「ステリア・フォー及びステリア・ファイブ、ジュピター指揮官とヴィーナス指揮官に付いていき、右側から攻めてくる敵兵士を迎え撃てッ!」
『これ以上、奴等をこの施設に入れさせるな!!』
攻防戦を強いられたクラニスオンの戦況は、悪戦苦闘に見舞われていた。彼等の運命は、この場でアポカリプス軍団によって全滅させられるか、全員がナオスに搭乗して無事に星から脱出できるかの二択に迫られていた。
そんな中、両者の戦いを上空から満足げに見下ろす者が一人……今作戦の強襲攻撃大隊の指揮官であり、アポカリプス軍団の幹部の一人であるシャドウの姿があった。
「良いぞ良いぞ。我々の兵士達が倒したシーマーの奴等は……だいたい30%くらいだな。船の外で必死に戦っている奴等を片付けたあとは、ゆっくりと船内の奴等も皆殺しだな。……そう言えば、以前無線カメラで観察した、あの赫鬼の姿が見当たらないな?知らない間に他の連中に殺られちまったか?まッ、別にどうでもいいがな!」
作戦が自分の思い通りに順調に進んでいると考え、上機嫌に笑うシャドウ。すると後方から、一人の兵士がシャドウの元へ飛んできた。
「いやはやシャドウ、遅くなってしまい申し訳ありません」
丁寧な口調でお辞儀してきた者……自分と同じ軍団の幹部の一人のブラックドだった。
「やっときたかブラックド。お前が呑気に戻ってくる間に、俺の作戦で奴等の殆どを倒せたんだぜ。凄いだろ?」
シャドウは自信に満ち溢れた表情で自身の指揮能力を自慢した。だが、シャドウの自慢気にも興味を示せずにブラックドは淡々と話し始めた。
「そうですか、それは何よりです。しかし今作戦の指揮官を務めるのは良いですが、貴方もそろそろ戦いに戻られた方が良いのでは?部下を戦わせるだけの指揮官は、『あの方』のご機嫌を損なわせる事もありますので」
ブラックドの口から出た「あの方」と言う言葉にシャドウは一瞬動揺した態度を見せてしまい、すぐに気を取り直した。
「……わかったわかったよ、俺もすぐに向かうよ。全くノリが悪い奴だな」
シャドウはブツブツと文句を言いながら降下していき、戦場へ向かって行った。彼の後ろ姿を見送った後、ブラックドは小さく呟いた。
「……もう少ししたら赫鬼もやって来ますので、今からでも楽しめますよ……」

-第八番宇宙船発射施設・南ゲート付近-
「クソッ……!皆、頑張って持ちこたえるんだ!」
シーマ-達の宇宙船発射施設がアポカリプス軍団の激しい襲撃を受ける中、青色の強化パーツを持つコンバッツ・シーマ-……キアノスが仲間の戦士達に指示をだしながら必死に攻防戦を続けていた。しかし、ここ最近戦闘続きの影響が出始め、満身創痍の彼等は今までにない程の苦戦を強いられていた。そこへ一人のコンバッツ・シーマ-の戦士がキアノスの元にに駆け寄ってきた。
「キアノス!先程、民間人が各地のナオスに全員乗り込んだと言う知らせが入った!他の仲間達はそろそろ限界だ、ここは防衛システムに任せて我々も船に乗り込もう!」
「それはできない!アドムやトライアンフ総司令官、ネプチューン指揮官達がまだ戻ってきていない!彼等が戻ってくるまで耐えるんだ!」
キアノスは戦士の言葉を振り払い、傷だらけの体で痛みに耐えながらも左手に持つエナジーライフルのグリップを握り締め、闘志を奮い立たせた。エナジーライフルの連続射撃で敵陣に向かって走りながら、キアノスは内蔵コンピューター、α《アルファ》に指令をだした。
「α!ステリアビリティ……水鎧《スイガイ》を発動!アドム達が戻ってくるまでここを死守するッ!」
キアノスがコンピューターに指令を出した直後、彼の体から水のベールが出現し、たちまちキアノス全体を包み込んだ。澄み切った水のベールは瞬時に強固な鎧に形成し、キアノスの体は煌めく水の鎧によって美しく光輝いていた。
「アポカリプス軍団!我々は決して貴様らによって全滅などしない!俺に斬られるか、撃たれたい奴は前に出ろッ!!」
水鎧を身に纏ったキアノスの気迫に周囲の敵兵士達は圧倒され怖じ気づいた。その時、突如コンバッツ・シーマー達の上空から大量のエナジー弾が降り注いだ。キアノス達は咄嗟にアイロン・ウォールを展開し、半透明の球体型シールドでエナジー弾から身を守った。
上空から激しく撃ち込まれたエナジー弾による爆煙が少しずつ晴れていくと、キアノス達の視線の先にはエネルギーの弾丸を発射した者……アポカリプス軍団の幹部シャドウが鮮赤のレンズ状の左目を怪しく光らせながら、ゆっくりと地面に着地した。
「いいだろう。その挑戦、このシャドウ様が直々に貴様を切り裂き、撃ち殺してやろうではないか」
シャドウが不適に笑いながら言った直後、彼の左目から三発のエナジー弾が放たれキアノスに向かって勢いよく飛んできた。しかし、キアノスはすぐさま右手に持つ水と一体化した剣を構え、迫り来るエナジー弾を降り下ろした水流の剣で素早く両断した。真っ二つに両断され爆発したエナジー弾の爆煙が二人の周りに立ち込み、何も見えなくなった。
次の瞬間、ガキンッ!と言う鋭い金属音が辺りに鳴り響いた。両軍の者達は「何が起こった!?」と思い、息を呑みながら煙の方を凝視した。やがて煙が晴れ、目の前の戦況が確認できた。そこには既に、キアノスとシャドウが互いの武器をぶつけ合い睨み合っていたのだ。
キアノスは縦横無尽に流れ動く水流の剣で、シャドウは鋼のように硬質化し刀のような鋭利な形状となった両手の指で何度も火花を散らしながらぶつけ合い、凄まじい接戦を繰り広げた。
「ハッハー!中々の腕前だなクラニスオンのプロイキス野郎!久々に楽しいぞ!」
シャドウは自分とほぼ互角の実力を持つクラニスオンの能力者に称賛をかけた。
「貴様も、敵にしては勿体無い実力だな……だが!」
キアノスはシャドウの巧みな斬撃を素早くかわし、下へしゃがみ込むと同時に左手に持つエナジーライフルの銃口をシャドウの胸部へと突き付けた。
「これで貴様に止めを刺すことができるが、どうする?今の内に降参するか?」
キアノスは、ライフルのトリガーに指を掛けようとした。だが、シャドウは自分の胸部に銃口を向けられているのにも関わらず、「フッフッフッ」と笑いをこぼしたのだ。
「甘いな戦士野郎……。今の内に降参するのは、貴様らの方だ!!」
シャドウがそう言った瞬間、硬質化した右指でライフルの銃身を細かく切り落とした。突然の不意打ちで銃を失ったキアノスだったがすぐに剣に構え直し、再びシャドウに飛び掛かった。だがシャドウは、両手の鋭利な指と左目から放つエナジー弾を駆使して徐々にキアノスを追い詰めていく。シャドウからの度重なる連撃を受け続けた結果、キアノスの水鎧の効果が切れ、剣身が粉々に砕けてしまった。ライフルと剣を失ったキアノスにシャドウは人差し指を彼の首元に近付けた。
「安心しろ、痛みを感じさせずに殺してやる。他の部下や民間人共も後からやって来るだろうよ」
シャドウはゆっくりと右腕を振り上げた。キアノスは静かに目を閉じ、自分の最期を心の中で悟った。
(ここが……俺の最期の場所か……。悪いなアドム、先に向こうで待ってるぜ)
シャドウが狂喜の笑みを浮かべながら、一気にキアノスの首へ腕を振り下ろそうとしたその時!突然シャドウの足元に向かってレーザー光線が放たれた。
「だッ誰だ!?誰が撃ちやがった!?」
突然の攻撃に驚いたシャドウは、光線が発射された方角へ顔を向けた。キアノスも「何が起こったんだ?」と思い顔を上げた。両者が視線を向けた先には、数十人のコンバッツ・シーマ-達が南ゲートに集結していた。そして、多くの戦士達の先頭に立っていたのは……。
「きッ、貴様は、あの時の!?」
「あ、アドムッ!!」
右手にエナジーライフルを構え、キアノス達を安心させる様に笑顔を見せる者、赤きコンバッツ・シーマ-戦士……アドムが「キアノス、皆、遅れてすまなかった!」と大声で呼び掛けた。そして、アドムの左側に並んで立っている総司令官のトライアンフも、アドムに負けないくらいの大声で、この場にいるコンバッツ・シーマ-達に命令を下した。
「コンバッツ・シーマ-の戦士達よ!敵に情けなどいらん!ここにいる全ての敵を殲滅し、ナオスに搭乗する!これが最後の戦いだッ!」
トライアンフは拳を上に高く上げ、再び叫んだ。
「クラニスオン、アターーック!!」
「うおおぉぉぉぉ!!!」
アドムとトライアンフ達が到着し、総司令官の号令を聞き闘志を向上させたコンバッツ・シーマー戦士達に、アポカリプス軍団の兵士達はたじろぎ始めていた。そんな兵士達を見て、シャドウは大声で言い放った。
「お前ら、何たじろいているんだ!あんなのただの脅しに決まっている!今回こそ奴等を根絶やしにするんだッ!アポカリプス軍団、迎え撃てーーッ!!」
シャドウも大声で命令を下し、軍団兵士達と共にクラニスオン達に向けて進撃を開始した。
闘志と勇志を糧とするクラニスオンと、殺意を糧とするアポカリプス軍団。再び激しい戦いが混じり合う二つの勢力。戦士集団vs魔物軍団の全面対決が始まったのだ!
先程まで戦いはアポカリプス軍団が優勢だったが、応戦しに来たトライアンフ総司令官達によりクラニスオンに好機な戦況が傾き始めた。

「キアノス!怪我はないか!?」
戦乱の最中、アドムは急いで親友の元へ駆け寄った。キアノスはシャドウとの戦闘により武器を失ってしまったが、身に纏う水の鎧と内なる闘志は健在だった。
「ああ、大丈夫だ。けどよ、もう少し早く来てくれたら二人でアイツを倒せたんだけどな」
キアノスは少し皮肉を言いながら、自分に手を差し伸べたアドムの手をしっかりと握りしめ立ち上がった。
「ハハハッ、そうかもな。それより、見た限り剣身が破損してしまったようだな?丁度予備のモノが残っていたんだ。これと取り替えろ」
「……ありがとよ、ダチ公」
キアノスは照れくさそうに笑いながらアドムから予備の剣身を受け取った。そんな二人に向かって剣とハンマーを装備した二体のスラウグハターが走ってきた。スラウグハター達の凶器がアドム達に迫ってきた瞬間、すかさずアドムは右手に持つエナジーライフル《E-S・Lガン》でスラウグハターの頭部を撃ち抜き、キアノスは接近してきたもう一体のスラウグハターの額へ剣を突き立て、そのまま一気に体を上から真っ二つに切り裂いた。
アドムとキアノスは互いの顔を見て強く頷き、新手の敵兵士を迎撃し始めたのだった。

トライアンフは周りに群がる軍団兵士達を凪ぎ倒しながら、通信ユニットを通してコンバッツ・シーマー達に指令を伝えた。
「総員!ジュピター率いるステリア・フォーが負傷した戦士達をナオスに搭乗させる間、我々はヴィーナス率いるステリア・ファイブと共に彼等の退避が完了するまで、ここで軍団を足止めするんだ!」
「了解ッ!!」
トライアンフからの通信を聞いたコンバッツ・シーマー達は直ちに行動を開始した。
「お前達聞いたか!総司令官の命令だ、何としてでもここを死守するぞ!!」
同じくトライアンフの通信を聞いたステリア・ファイブの指揮官ヴィーナスは、部下達を引き連れてステリア・フォー達の援護に向かった。
「チィ、奴等調子に乗りやがって!これじゃあ俺の作戦やメンツが丸潰れじゃないか!」
シャドウは悪態をつきながらも、接戦してきたコンバッツ・シーマ-達を次々と切り裂いていく。先程まで自分の優秀な指揮能力で敵をほぼ壊滅寸前にまで追い詰めていたのに、突然敵の応戦により戦況が変わった事に、シャドウは苛立ちを隠せていなかった。
「このままじゃ、あのお方に見捨てられる確率が増えるだけだぞ!最悪処刑されるかも……。どうにか戦果を上げないとな……うん?」
シャドウはふと、大勢のアポカリプス軍団の兵士達に取り囲まれ佇む、ある人物を目で捉えた。そこには抹殺するべき敵集団の総司令官、トライアンフの姿があった。トライアンフは自分の周りを取り囲む軍団の兵士達に対し、威厳とした口調で話始めた。
「愚かなる悪魔の下僕達よ、私は今一度貴様達を殲滅するため、この剣と能力で戦うことを決めた。決して無傷で済むと思うな……!」
トライアンフのただならぬ戦意にアポカリプス軍団の兵士達は冷や汗をかいたが、再び剣先を彼の方へ向け始めた。
「なッ何を言ってやがる、相手はたったの一人だ!アポカリプス軍団、一斉に殺れーッ!!」
一人の兵士の掛け声により、他の兵士達は一斉にトライアンフに向かって突撃してきた。だが、トライアンフは依然とした冷静さを保ち、右手に持つ青く光る剣を静かに構えた。
「アタックアビリティ《攻撃能力》……周斬流星群《シュウザンリュウセイグン》!」
トライアンフが攻撃技のコード《技名》を唱え、高らかに剣を振りかざすと、彼の周りに無数の青色のエネルギー刃が出現した。そのエネルギー刃は軍団兵士達の方へ方向転換し、一人一人に狙いを定めて一斉に撃ち出された。大量のエネルギーの刃は軍団兵士達が叫び声をあげる間も無く一瞬の内に切り刻み、細かい肉片に変えてしまった。後に残ったのは静かに佇んでいるクラニスオンの総司令官と、軍団兵士達の無惨な肉片だけだった。その一部始終を遠くで眺めていたシャドウは、あまりの驚きで一言しか喋れなかった。
「……マジかよ」

-宇宙船ナオス船内・第26番格納庫-
「くそッ、イッテェ……」
船内の格納庫には、先にナオスに退避したジュピター達ステリア・フォーが戦闘で負傷した戦士達の応急処置を行っていた。
「皆さん!救急部隊が到着しました!負傷者を見せてください!」
声の主……桃色の女性シーマ-、ローゼ看護員が救急メンバーを引き連れて格納庫にやって来た。ローゼ達の手には大量の医療器具や薬品などが入っている救急箱を持っていた。
「こっちだ!先に右側に運び終えた戦士達を診てやってくれ!」
ジュピターはローゼ達に負傷した戦士達の所に案内し治療を頼んだ。宇宙船の入口ハッチから最後の負傷者を背負ってきたコンバッツ・シーマ-戦士が、息を切らしながら遅れてやって来た。
「だッ誰か!この方の手当てを!早くしないと手遅れになってしまいます!」
その声を聞いたローゼは治療をしている患者を他の看護員に頼み、急いで戦士の方に走ってきた。
「君!その人をあっちの場所まで運べる?急いで治療をするから!」
ローゼと戦士は左端の空いているスペースに向かい、負傷した戦士をゆっくり下ろしながら安静に寝かせた。
「チェストアーマーの傷口が酷いわね、すぐにストッピングアゲントで止血をしないと……!君、この布で傷口を塞いでて!」
戦士はローゼに手渡された布をすぐさま負傷者の胸の傷口に押し当て、その間にローゼは救急箱から幾つかの医療器具と薬品を取り出した。ローゼは治療を手際良く進めながら、改めて自己紹介をし始めた。
「前にも会ったと思うけど、あの時はちゃんと自己紹介をしていなかったね?私はローゼ、君は?」
「えっ、前にも?……あッ!」
戦士は最初きょとんとした表情をしたが、以前の戦闘の最中に自分を助けてくれた、アドム率いるステリア・エイト部隊の一人だと思い出した。
「そう、前に君はアドムに助けられた事があったでしょ?それで、君の名前は?」
負傷者の治療を終えたローゼは戦士の方へ顔を向けた。
「はッはい!自分はステリア・フォーの偵察員、ルアンと言いま」
ルアンと名乗った戦士が落ち着いて自己紹介をし始めたその時、船の外から凄まじい爆音が鳴り響き、二人の会話を遮った。
「まずい、ステリア・ファイブ達の援護をしなくちゃ!」
ルアンがそう呟くと急いでエナジーライフルを構え、入口ハッチの方へ駆け出して行った。ローゼは黙って彼の背中を見届けた後、「ローゼさん!こちらに来てください!」と部下の看護員に呼ばれ、すぐにその場を後にした。

-宇宙船ナオス・入口ハッチ前-
「そろそろ頃合いだな……!全コンバッツ・シーマー戦士!すぐにナオスに搭乗するんだ!」
トライアンフはステリア・フォー達が全ての負傷者を宇宙船に運び終えた事を確認すると、再び通信ユニットでコンバッツ・シーマー達に命令を伝えた。
「了解しました、総司令官!」
トライアンフの命令にすぐさま応え、あらかた敵を殲滅したアドムはキアノスと他の戦士達と共にナオスに乗り込もうとした。同時に少し離れた場所で一部のコンバッツ・シーマ-達を皆殺しにしたシャドウは、クラニスオン達の行動を見てハッと気がついた。
「まさか奴等、あのデカい宇宙船に乗り込み、この星から脱出する気かッ!?そうはさせるかよ!アポカリプス軍団、奴等を一人残らず皆殺しにせよッ!」
シャドウは残りの兵士に号令を掛けた後、右耳に内蔵している通信機で各地区で戦っている同胞達に連絡をとった。
「各地区で戦っているアポカリプス軍団兵士達に告ぐッ!シーマ-共は、あの宇宙船でこの星から脱出する気だ!何としてでも奴等を皆殺しにするんだ!」
通信機に連絡を入れたシャドウの命令に、すぐに他の幹部達から応答が入った。
『こチラノイズウェーブ、既に遅イ。コちらデは全てノ敵が宇宙船二乗り込んダ』
『こちらシルバードだ!おいシャドウッ!あの時は簡単に『奴等を根絶やしにせよ』とかほざいていたが、全然できていねぇじゃねぇかッ!!』
『こちらブラックドです。暇だったので他の発射施設に向かいましたが、宇宙船から発せられるシールドに阻まれて、船内に侵入することが出来ません』
幹部達からの応答に徐々に苛立ちを見せるシャドウは、アドムの方へ視線を向けた。
「こうなったら少なからず……、あの赫鬼《アカオニ》を殺れば俺の戦果はかなり上がるかもな」
シャドウがそう言うと、アドムに狙いを定めた左目から無数のエナジー弾が次々と発射された。赤いエネルギーの弾丸は高速で空中を飛び、アドムに向かって集中砲火しようと迫ってきた。
「……!?アドム!避けろッ!!」
先にナオスに乗り込んだキアノスがふと異変に気付き、アドムへ手を伸ばした。アドムは突然キアノスの切羽詰まった声を聞き、後方から迫ってくる無数のエナジー弾に気が付いて急いで胸部プレートからアイロン・ウォールを取りだそうとたが、エナジー弾は容赦なくアドムへ降り注いだ。
「アドムーーーッ!!」
キアノスは声にならない叫び声を上げた。
「ハハハーーー!どうだ?あの量なら避けられるはずがないッ!!」
シャドウは勝ち誇った笑い声を上げた……のだが、その笑い声もすぐに止まり、シャドウは驚愕な表情を作った。その視線の先には、大型の盾を展開し、アドムを大量のエナジー弾から守ってくれたトライアンフ総司令官の姿があった。トライアンフはシャドウを睨み付けると、瞬時にエナジーライフルの銃口をシャドウに向け、トリガーを引きレーザー光線を発射した。レーザー光線は的確にシャドウの左肩を撃ち貫いた。
「ぐッ!?ぐわああああぁぁぁぁぁ!!」
シャドウは激しい痛みに地面の上でのた打ち回っていた。
アドムは自分の体の無事を確認し、トライアンフの方に顔を向けた。
「トライアンフ総司令官、ありがとうございます!」
アドムは感謝の言葉を述べたが、トライアンフは彼の方に顔を向けずに、ただ一つの命令を下した。
「アドム、これは私からの最後の命令だ。各地区の者達がナオスに搭乗するまで、私と仲間達が暫くの間奴等の足止めをする。お前も早く船に乗り込むんだ」
アドムはトライアンフからの「最後の命令」と言う言葉に、何も言えなかった。自分達がナオスに搭乗しグラクメトンから脱出するまで、総司令官を置いていけと言うのか!?そんな馬鹿げた話しがあるか!!アドムはすぐに命令に反論しようとしたが、トライアンフの言葉に遮られた。
「アドム、突然ですまないが、先にお前に話しておきたい。さっきの戦闘で再びこの能力を使ったため、私の命……アニマボルはもう長くはない。だからこそ、信頼できるお前に話しておきたいのだ」
トライアンフはそう伝えた後、アドムの方に振り向いて笑顔を見せた。そして胸部のチェストプレートを開き、中から赤く輝く「あるモノ」を取り出した。アドムはその輝きを見た瞬間、全てを察した。
「これより、全てのシーマ-種族とクラニスオン次期指導者は……アドム、お前だ」
その言葉に、アドムは唖然として動けなかった。
(総司令官……何を言っているんだ?私が……クラニスオンの、指導者?)
アドムがあまりのショックで動けない中、向こうから怒りに震えるシャドウが差し向けた大勢のスラウグハター達が、一斉にアドム達の方へ突撃してきた。トライアンフは「それ」を静かにアドムに手渡し、雄叫びを上げながらスラウグハターを迎え撃ち始めた。
アドムは後方からやって来たキアノス達に担がれ、船内に運ばれた。
「全員乗ったぞ!離陸しろーッ!!」
キアノスが大声を上げながら、入り口ハッチを閉じるためボタンを押した。警報音が鳴り響きゆっくりとハッチが閉じる中、アドムは船の外で無数の敵と戦っている総司令官を最後まで目が離せなかった。ハッチが完全に閉まり、船の大型エンジンが稼働し轟音を響かせながら、ナオスはゆっくりと地上から離れた。エンジンの噴出も大きくなり、やがて大気圏を突破し宇宙空間に到達した。多くの命を乗せた巨大な宇宙船は、彼等を次なる希望へと運ぶため、広大な宇宙を進んで行った。