<旧記事>梶原一騎と水島新司の共通点と相違点

水島新司は野球漫画が「個人中心」であるのを「チームプレー」に変え、「魔球漫画」から「リアル野球漫画」へ、「巨人漫画」から「阪神、南海など多様なチームを主役にする漫画」への変更を試みた。
しかし、水島新司は「野球」というジャンルにとどまり続けた意味では、「巨人」、「魔球」へのこだわりと似たところがある。
一方、梶原一騎と川崎のぼるは確かに野球漫画で巨人選手の魔球漫画を作ったが、「野球中心主義」に甘んじることなく、さまざまなジャンルに挑戦した。

水島新司が「野球漫画」というジャンルの中での多様性を求めたのに対し、梶原一騎と川崎のぼるは「漫画」というジャンル全体の中で多様性を試みた。

したがって、梶原一騎の代表作は野球漫画だけではない。格闘技漫画で『タイガーマスク』、『あしたのジョー』、『柔道一直線』、『柔道讃歌』、『空手バカ一代』、『キックの鬼』、サッカー漫画で『赤き血のイレブン』、さらにスポーツもの以外で『夕やけ番長』、『愛と誠』がある。
梶原野球漫画では一峰大二作画の『甲子園の土』がある。また、石井いさみ作画の『モーレツ!巨人』と『野獣の弟』もあるが、これらは『巨人の星』から『侍ジャイアンツ』に至る試作品という位置づけである。また『巨人のサムライ炎』は『新巨人の星』の続編である。

川崎のぼるの代表作のうち、『いなかっぺ大将』はもともと、柔道少年の物語で、『てんとう虫の歌』は梶原作品でもおなじみの貧しい兄弟姉妹、孤児たちの絆を描いたもの。スポーツ関係では『アニマル1』や『フットボール鷹』があり、野球漫画にとどまらない。

一方、水島新司は野球漫画を專門としながら、審判、スカウト、記者、ファン、選手の家族を中心にした話を描き、また、野球選手がやってったもう一つのスポーツとして、梶原一騎も手をつけなかった相撲を描くこともあり、砲丸投げや柔道を野球に持ち込む作品も描いている。

投手がジャンプや回転をして投げる『侍ジャイアンツ』のような投げ方は、『ドカベン・スーパースターズ編』で殿馬がバレエ(舞踊)のような形で再現した。

梶原一騎は野球界の外を歩き回って、外から野球を見ているのに対し、水島新司は自ら野球界の中に足を置いて、そこから社会を見て描いているという違いがある。