目線の先にある青信号が点滅を始め、私も自転車を漕ぐスピードを徐々に緩めブレーキを握る手に力を入れた。
赤信号で止まっていると、流れる車でさえも景色の一部になり、全てが停止してしまったような、そんな気持ちになる。
信号が赤から青に変わると同時に、止まっていた時間も再び流れ始める。
休めていた足に鞭を打ち、ペダルを漕ぐ足にまた力を込めた。
足に力を込めたことで、その後の私の人生が大きく変化するなんてこの時の私はまだ知る由もなかった。
足に力を込めてペダルを踏みしめた瞬間…
自転車のチェーンが外れた。
それも見事に一瞬で…
自ら外そうと思っても、こんなに綺麗に一瞬で外す事は出来ないだろう。
寝坊して急いでバイト先へ向かっている時に限って、なんという仕打ちだと空を眺めた。
空を眺めているだけで自転車の外れたチェーンが戻ることはない。
手が汚れるのが嫌だなんて考えている暇など私には無く、ため息を吐きつつ自転車の脇に座り込んだ。
外れたチェーンと15分くらい戯れた頃だろうか、背後から急に声を掛けられた。
見上げると初めは逆光で見えなかったが、目が慣れ始めると見た目まだ22歳くらいの男の子が笑顔で私を見下ろしていた。
固まっていると、その男の子は突然私の隣にしゃがみ込んで自転車のチェーンを弄り始める…
思考回路が停止していた私も彼の突飛な行動で意識を戻し、手が汚れるからと伝えたが彼は笑顔を返すだけだった。
今振り返ると、御礼を述べる前に手の汚れを気にしたことが恥ずかしい。
チェーンを元の状態に綺麗に直すと、彼は履いていたジーンズで汚れた手を拭い、「じゃあ」とだけ呟いて去っていく。
全てが突然過ぎて、私は彼の後ろ姿にありがとう御座いますとだけしか言えなかった。
いや、きっと突然だったからじゃない
助けてくれた彼の横顔があまりにも綺麗だったから…
つづく