お泊まり保育
それは、私や保育士たちにとって最大となる難関かつ大イベントだ。
「ただ、お泊まりするだけ」
では 済まない。
インスリンと共に生きる ハル。
そのインスリン、血糖コントロールを司るのは母である私。
1型糖尿病患者の幼児が母である私から離れるということの何が問題かというと
血糖コントロールが1日不安定になる。
高血糖・低血糖のリスクが高まる。
就寝時に低血糖になった場合、適切な対処が約束できない。
以前、ハルが通う保育園に看護師が働くことになり
その看護師と園長と担任でハルの病気についてミーティングをしたことがあった。
その時に「お泊まり保育」のことを少し話題に出した。
「今の段階ではハルちゃんを夜間お預かりするかどうかはお答えが出せません」
そう、園長は言った。
お泊まりを拒否される可能性がある。
あぁ… そうか。
仕方ないよね。こんな病気なんだから。
その時はそう思った。
そして、それからおよそ2ヶ月
園長の答えを聞く日がきた。
お泊まり保育の最終ミーティングを行った。
「ハルちゃんをお預かりするにもこちらにも責任があるので確実に安全な対策が必要になるんです」
「高血糖になった場合も私たちはインスリンが打てないので」
「万が一、就寝時に低血糖が起きたらお迎えに来て頂くことは可能ですか?」
「私たちはどこまでの高血糖が安全かわからないので」
「ただでさえ、夜間に子供たちをお預かりするのに神経を使うので」
園長は「私たちは何かあった場合責任が取れない」を全面に出してきた。
気持ちはわかる。
人、1人の命。
何かあってはならぬ。
そりゃ、そうだ。
けれど
「責任がとれない」
「夜間の急な体調の変化が心配」
「連絡してお迎えを…」
あなたのお子さん、健常者の園児と違いますから気を使うんですよね
と 副音声で聞こえてくるような気がした。
私が神経質に聞いてしまっただけかもしれない。
けれど、ネガティブにしか聞こえてこない。
それが病気を抱える家族の心理だ。
「お母さん!ハルちゃんが無事に楽しくお泊まり出来るように対策を練りましょう!」
とポジティブに切り出してくれた方が家族としてはどれ程、心強いことか。
家族としては常に
「健常者ではなく申し訳ない」と思っているからだ。
そんな心理的ダメージを追いながら私は園長の言い分を聞き、私は言った。
「夜は連れて帰りますと言った方がいいですか?」
園長が私からそういうのを待っているような気がしてしまったからだ。
ハルさえ泊まらなければ、心配要素は大幅に減る。
1型糖尿病は、
心配といえば心配な病気だが
大丈夫といえば大丈夫な病気だ。
1型糖尿病の患者、およびその家族にはこのニュアンスは伝わるだろう。
「一晩くらい高血糖でも大丈夫です」
と園長に言っても聞いてくれなかった。
だから、言ってしまった。
ハルがいなければいいんでしょう?という気持ちで。
園長は少し、しまった という表情を見せて
「いえ、そういうことではないんです」
と 私に言った。
私は、ハルにはできる限り
他の子と同じように過ごしてもらいたい。
他の子が体験していることを同じように体験して欲しい。
身の安全も大事だけれど
保身ばかり考えて、今しかできないことを体験できないのは人生の悔いではないか。
保育園 年長の夏は今しかない。
1才から通い始めたこの保育園のお友だちは小学生になるとバラバラになってしまう。
この数年間のお友だちとの思い出を大人の勝手で奪っていいのか。
ハルのための 最善の策は「就寝前に帰宅」なのか。
これが この1型糖尿病の5才児の現実。
お泊まり保育は来週の木曜日。
この続きは また近日にでも。