妻は仕事柄家にいないことも多い。両親ともいないときは母つまり彼の祖母が面倒をみてくれている。今日は久々のOFFなので、母はいない。トキヤと音也の2人だけだ。
紺色の髪をした小さな男の子が同じく紺色の髪の男を揺り起こしている。男の子は必死で揺さぶるが、男は起きる気配がない。
「うーん・・・なんです?」
やっと目を開けた男は一ノ瀬トキヤ。男の子の父親であり、この国のトップアイドルである。男の子の名は一ノ瀬音也。数年前事故で亡くなったトキヤの相棒の生まれ変わりではないかと言われるほどそっくりだ。
「ときやおきないんだもん!」
眠たそうに瞬きをする父親に口をとんがらせる。
「そうですか・・・今日は休みなんです。もう少しねフガッ!・・・お・・・音也!寝ている人の鼻をつまんだら息ができません!死にますよ!やめなさい!」
音也はトキヤが起きないので鼻をつまんだ。トキヤはふごっと息を詰まらせ、音也の小さな手をもぎ取り握りしめた。
「う~・・・おきてよう・・・きょうはときやおやすみだっていってたから・・・あそびたかったのに・・・またおうたおしえてもらおうとおもってたのに・・・いいもん!」
音也は涙目でぶっきらぼうに言うとトキヤの手を振り払ってドアに向かった。トキヤにとっての貴重なOFFは音也にとっても父親と触れ合う数少ない時間なのだ。親といる時間が少ないせいか、同じ年頃の子よりもしっかりしている。朝も1人で起きられるし、勝手に着替えている。おねしょもしなくなってきた。
「音也・・・待ちなさい!・・・あ・・・おいで・・・?」
上体を起こし、咄嗟に呼び止めたはいいがなんと言えばいいかわからずどもってしまった。だが、優しく微笑み音也に手を差し伸べた。
「・・・いいの?だってときやおこってる。」
遠慮がちに尋ねるその姿は怯えた小動物のようで庇護欲を掻き立てる。
「えぇ、すみませんでした。もうおこっていませんよ?いいからこっちにおいでなさい」
さっきよりももっと優しく笑い、音也を手招きした。すると、パァっと表情が明るくなり走って戻ってきた。
「はは!」
嬉しそうに笑いながらトキヤの胸に飛び込んできた。
「おっと!音也は元気ですね。本当に・・・。」
音也を受け止めそう言うとトキヤは哀しみとも慈しみともとれる表情を浮かべた。
「えへへ。ときやぁ、おうたおしえて!にいちゃんたちのうた!」
音也はST☆RISHのみんなのことを◯◯にいちゃんと呼ぶ。
「そうですね、でもその前に朝ごはんを食べましょう。お歌はその後です。ちょっと待っててください。着替えますから」
ベッドに音也を座らせ頭をポンポンと優しく叩く。音也はコクンと頷き、父親の姿を目で追っている。
「・・・よし。おいで、いきますよ。」
着替え終わったトキヤは音也を抱き上げリビングへ向かった。音也は始終嬉しそうにニコニコしている。
「何が食べたいですか?好きなものを作ってあげますよ?」
歩きながら聞くと
「うーんとね、うーんとね・・・ほっとけーき!・・・あ、おやさいいれちゃやだよ!」
抜け目のないヤツめ。しっかりと野菜入りを断った。
「ふっ・・・あなたという子は・・・仕方ないですね、野菜は入れないでおいてあげましょう。」
トキヤは音也を椅子に座らせ、早速朝食作りに取り掛かった。
続く
