茂原で所用を済ませ、市原を通り千葉市へ帰る道の途中で「日曜朝市」という赤いのぼりを見つけた。トタン板と木材の簡素な小屋に「日曜朝市」「里山カフェ」と看板が出ている。その素朴さに惹かれ、車を駐めて立ち寄ってみることにした。
小屋は8畳ほどの広さで、地元の方々が囲炉裏端で談笑しながら迎えてくださった。「もう大方売れちゃって」と指し示された台には、野菜や太巻き寿司がぽつりぽつりと置かれている。朝市に正午近くなって訪れたのだから当然だろう。私は里芋とぎんなん、みかんを選んで「今度はもう少し早く来ます」と小屋を出た。
その日の夜、朝市での収穫品を早速いただいてみた。里芋はヤリイカと炊き合わせ、ぎんなんは封筒に入れレンジで爆ぜた。新鮮な旬の食材はそれぞれ滋味深く、心身とも満たされる食事となった。中でも感激したのはみかんだった。コクと酸味がしっかりある昔懐かしい味に「すぐにまた朝市に行かねば」と心が逸った。
翌週は朝市が始まる時間に行った。囲炉裏の甘酒をご馳走になり、落花生をポケットに詰め込まれる歓待を受けながらみかんを探したが見当たらない。ご婦人が「今日はもいで来なかったのよ。うち、そこだから欲しいだけもいで」とご自宅の庭に案内してくださった。期せずして何十年振りかのみかん狩りである。囲炉裏端では猪をどう食べるかで盛り上がっている。何だかだんだん遠い土地に迷い込んだ心持ちになってきた。自宅からたった20分。小さな旅を終えたような充足感と、もぎたてのみかんを抱えて帰路をたどった。
