お家は人生最大の買い物と言います。

数千万円もするお家を買うとなった時、その費用をキャッシュで払える人はほんの一握りです。ほとんどの人が住宅ローンを組みます。

住宅ローンの返済額は、「ローンの元金」+「利子」となります。

この利子の部分に係るのが、変動金利なのか固定金利なのか、という問題です。

住宅ローンを組むときに固定にするか変動にするか、という二者択一?はすべてのマイホームパパ・ママが通過する問題ですね。

果たしてどちらが得なのでしょうか?

固定金利であれば利子の額はずっと固定のままです。

変動金利であれば半年ごとに金利の見直しが行われ、将来金利が上昇して返済額が膨らむ可能性があります(理論的に言えば金利が低下することもあり得るんですが、現実的にはほとんどないです)

2023年6月時点での金利で言えば、固定金利は1.275%、変動金利は0.32です(※1)

固定金利は変動金利の4倍ちかく高いことがわかりますね。

3,500万円35年間ローンの総返済額でみると600万円、月々の返済額でみると1万5千円、固定金利は変動金利にくらべて高くなってしまいます(かなりざっくばらんな計算です)

固定金利のメリットは、変動金利と違って金利が上昇するリスクが存在しないという点です。

 

つまり、固定にすべきか変動にすべきかという選択問題は、変動金利が上昇するリスクと、固定金利が変動金利の4倍に達するというコストを天秤にかけ、どちらを許容できるかがひとつの判断材料になりますね。



ただ、ここで重大なことが。



その変動金利が上昇するリスク、事実上、ほぼ、無いんです。




え?じゃあ比較にならないじゃん?

固定金利選んだボーくん、バカじゃん?(僕は固定金利で組みました)

ということになりそうですね(他人事)



【そもそも金利とは】

銀行は商売です。公共団体ではないので利益を稼がないと行員のお給料とかが払えません。

銀行の商売はおカネを貸すことです。おカネを貸すことで利益を稼ぎます。

さて、100万円を貸して、100万円を返してもらっても利益になりません。

100万円を貸して、105万円を返してもらって初めて利益になります(※2)この5万円が利子とゆーやつですね。「利子をつけて返してもらわんとなぁ~」とよく漫画のヤクザが言ってるのはこのことです。

この利子を決める利率が「金利」です。

上記の例では元本100万円に対し5%の金利となっています。

んで、この金利はどうやって決定されるか?別に銀行が各々すきに決めちゃっていいわけですが、小麦の輸入価格が上昇するとパン屋さんが値上げするように、その決定の背後で大きな要因となるものがあります。

恐ろしく単純に言うと

それは、中央銀行(日本の場合は日銀)の政策金利です。

中央銀行は「銀行の銀行」で、私たちが銀行におカネを預けるように、銀行も中央銀行におカネを預けます(※3)この時の金利が大きな影響力を持つことになります。

つまり、銀行は黙って日銀におカネを預けておけば利子がつくので、わざわざ誰かに貸し出すなら、日銀がつけてくれる利息以上の利子を取らなければ、おカネを貸す意味がないのです。

こうして各銀行は金利を決定します。

そして、銀行にも市場競争原理が働きますから、できるだけ金利を下げておカネを借りてくれる(そしてちゃんと返してくれる)優良顧客を獲得しようとします。そうなると各銀行の金利は、「政策金利以上だが、できるだけ下げる」方向に動きますね。

日銀の政策金利が2008年後半に0.25%引き下げられると、変動金利も連動して0.2%引き下げられ、さらに政策金利が0.2%引き下げられると、変動金利も同じく0.2%さがりました。

前述のとおり、政策金利が大きな影響を及ぼしているのがわかります。


んが、ここからが肝要です。

2013年にはさらに引き下げられて事実上のゼロ金利が導入されましたが、今度は変動金利は下がりませんでした。さらに2016年に底を突き破ってマイナス金利が導入されても、おなじく変動金利は動きません。

そう、「100万円を貸して100万円を返してもらっても利益にならない」です。

政策金利に影響されるといっても、さすがに利益の出ないゼロ金利にまでは付き合いきれないのです。政策金利に連動していた変動金利は、2008年につけた2.475%を最後に、それ以降20年近く現在に至るまで、ゼロ金利が導入されようがマイナス金利になろうが、このラインからさがることはありませんでした。

つまり、そこが、下げられる最終ラインというわけです。




ん?ちょっと待って?

俺、金利2.475%以下で借りたけど?




と言う方、いますよね?

ていうか今どき、変動金利2.475%で借りる人なんていませんよね。

じゃあお前嘘ついたんかい!、ってなるワケですが、そうじゃないんです。




【わかりにくい変動金利のからくり】


「住宅ローン借りてぇな~~とりあえず銀行のHP見るか!」

と、そこらへんのマイホーム計画中のパパが大手銀行のページを見るとします。

そこにはデカデカと変動金利0.370%の文字が!



「ひっく~い!さすが低金利時代やね~。もすこし詳しくみよっかな~」

と金利一覧のボタンを押すと…





ローン基準金利2.475%の文字。

あれ0.370じゃないの!?と困惑しますよね。

この2.475%、さきほど僕が言及した「変動金利の下限」がここで登場したことに気づかれたでしょうか。

つまりこの場合、

「本当は2.475%の金利なんだけど、住宅ローンのお客さんだけ特別に2.105%割引して0.370%で融資しちゃいます!」

というド派手なキャンペーンをしてるんですね~。

この割引のことを優遇金利といいます。割り引く前の2.475%を店頭金利といい、割り引いた後の0.370%が適用金利です。

変動金利はもう下げられないところまで来たので、優遇金利を導入することで金利を下げないまま、さらに低い金利で新規の住宅ローンを貸し付けることができるのです。

ちょっとわかりにくいですがこの効果は非常に大きいです。

なぜなら、店頭金利を下げてしまうとすでに借りているお客さんの金利も下がってしまうので銀行の利益が大幅に減少してしまいます。

それに対し優遇金利は、今から貸す目の前のお客さんだけ特別に金利を引き下げてあげる優遇措置ですから、既存のお客さんには無関係です。大多数の既存顧客からは以前通りの利子を取りながら儲けをできるだけ減らすことなく、低金利を餌に新規顧客を獲得するための迂回戦術、それが優遇金利なんですね(変動金利で借りたんだから金利が下がるかも!と思って毎日銀行のHPをチェックしても徒労に終わります。もし金利が下がっているとしても、それは優遇措置が拡大しただけなので、得するのは今現在の新規顧客であって自分たちではないからです)

いまの住宅ローンの低金利による顧客獲得競争は、金利ではなくこの優遇幅を拡大することで、適用金利の引き下げを競い合っているわけです。




【変動金利が上昇するとすれば?】


変動金利は将来金利が上昇するかもしれないよ、それがリスクだよ、

と言われることが多いですよね。

変動金利と固定金利の違いを説明されれば、たしかにそのようなリスクを考えざるを得ません。変動金利は半年ごとに金利が見直されるので、理論上は半年ごとに金利が上がらないかハラハラしなければなりません。

かなりざっくり言えば、3,500万円を35年ローン、金利0.5%であれば、0.25%金利が上がるごとに、総返済額は100万円~150万円も膨れ上がります。

こわっ

半年ごとにこんなリスクを考えなきゃいけないとか、ツラみしかないやん。



では、現実に変動金利が上がることはありえるでしょうか?



じつは、そ~~~んなことは無いんですよね。



まず、店頭金利が突然あがることは考えにくいです。

銀行にとって住宅ローン顧客はかなり優良顧客なので、こぞって顧客獲得競争が展開されています。ここで店頭金利を上げると「〇〇銀行で住宅ローンを借りるのはヤバい」と悪評が広がり「他の銀行で借りよう」となります。

そりゃ、住宅ローンの変動金利上昇なんて借り手にとっては悪夢以外の何物でもありませんから、そんな銀行に寄り付くマイホームパパなんていませんよね。

それに店頭金利を上げてしまうと、既存の全ての顧客の家計を直撃するので、借り換えによる大規模な顧客流出も起きてしまいます。そう、借り手には銀行を選ぶ選択肢があるので、ヤバイ銀行からは借り換えで逃げてしまえるわけです。特に住宅ローンは競争が過熱しているので、借りている側からすれば選択肢がたくさんあります。

となると、銀行が金利を上げようとすれば、優遇金利の縮小が最善となります。

優遇金利の縮小なら、これから借りる人はあまり低い金利では借りられなくなりますが、すでに借りている人たちには何の影響もありませんので、上記のような銀行経営にとって具合の悪い展開にならずに済みます。また、優遇金利の多くは「通期型」や「全期間型」なので、あとから優遇幅を削減しますなんてはこともありません。すでに借りてしまっている人は守られるというわけです。借り手も貸し手もいちばん悪影響が少ないでしょう。

そして優遇金利の縮小が続き、それが底をついた時点で、いよいよ店頭金利が上昇するものと思われます。

ただ、現在の優遇幅はおおむね2%に達しており、かなりの余裕があるように見えます。優遇幅は平成21年ごろに一度だけ0.1%ほど縮小したことがありますが、またすぐに元に戻りました。同じ年0.1%ペースで縮小が起きると考えるても、2%の優遇幅を食い尽くすのに20年はかかることになります。もちろん、優遇幅がゼロになるのを待たずに店頭金利が上昇することも考えられますが…それでも、かなり先のことにはなるでしょう。

これだけみると、変動金利と言いながら金利が変動する可能性はかなり小さい。

少なくともすでに借りてしまった人にとっては、この先20年ぐらいは実質的に固定金利と変わんないじゃねーの?と思えます。




【政策金利は上昇する?】


もうひとつ、優遇幅を飛び越えて変動金利に影響を及ぼしそうな要因があります。

それは政策金利の上昇です。

中央銀行が金利を引き上げた場合、すべての銀行に幅広く影響するため変動金利が一気に上昇する可能性があります。2022年には米国FRBが政策金利を1年かけて0.25%から4.50%まで、実に18倍へと引き上げています。さすがにこのような展開が起きれば優遇幅の縮小どころでなく、一気に変動金利が上昇する可能性もありそうです。

ですが、米国であったようなアグレッシブな政策金利の引き上げが日本で起こるとは、今のところ考えられません。

なぜかっちゅーと、もしそんなことがあれば日本政府が文字通り吹っ飛ぶからです。

政策金利の引き上げは市中金利の上昇を招き、利息の拡大という形でおカネを借りる人や、すでにおカネを借りていて返済に追われる人を直撃します。

で、日本政府は日本最大の多重債務者(?)です。

2022年度一般歳入(国の収入)のうち、35%が借金によって賄われており、また同じく歳出(国の支出)のうち、22.6%が借金の返済に注がれています。日本政府の収入は借金を除けば70兆円ほどですが、政府の借金の残高は1,200兆円ほどあり、収入の17倍に達しています。

自分が年収の17倍に達する借金を背負っていると考えると、僕の場合は年収500万の高卒程度公務員で8,500万円のローンを組んでいることになります。しかもこのローンは減るどころか慢性的な家計赤字のため今後数十年は微増し続ける感じです。

こうなるともう破綻以外にないのですが、国が破綻せずに済んでいるのは、バカみたいに低い金利のおかげです。SBIの固定10年住宅ローンの金利が0.97%なのに対し、10年物国債は0.5%なのです。めっちゃめぐまれてます。

ですが逆に言えば、金利が上昇すれば一気に日本の財政は転落するということです。

なので日本政府は日銀に金利を下げさせ続けてきました(※4)

このような状況は衆目の一致するところです。

「変動金利で住宅ローンを組むなんて、将来金利が上がったらどうするんだ!」という声はちょくちょくありますが、変動金利で組んでいる人はこう言い返しましょう。

「もし金利が上がったら、俺が破綻する前に国が破綻するわい」と。





【唯一、変動金利が上昇する可能性】


しかしこのような諸条件がありながら、唯一、政策金利が引き上げられる可能性があるとすれば、それはド派手な円安が起きた場合です。

日本は資源を自活できず輸入に依存しています。外国からモノを買うには外貨が必要です。今まではメイドインジャパンの折り紙付きの製品を外国に売って、その対価として外貨を獲得していました。しかし、次第に「日本製」の求心力は低下し、国際競争力を失っていきます。そこに来て、コロナ禍とウクライナ侵攻に伴う国際状況の悪化が追い打ちをかけ、円安が進行しました。

円安は輸入品価格を押し上げ、国民生活を直撃します。特に日本は食料自給率が低く、農業などの担い手も減少し続けいるので、ますます外国からの食糧輸入に頼ることになります。また国内農業にしても肥料はそのほとんどが輸入に頼っており、日本の食糧事情はほぼ100%(田舎の家庭菜園でさえ)外国からの輸入に依存していることとなります。

円が暴落し、まともに外国からモノを輸入できなくなれば、日本人は不景気を通り越して飢え死にしかねません。

なのでその時は、円高に誘導するために政策金利が引き上げられるでしょう。もしかしたらなりふり構わずに「異次元の」金利上昇局面になるかもしれません。

ただ、そのときはマジで飢え死にするかどうかの問題になっていると思うので「住宅ローンが払えないよ~」どころではなくなっていると思います。来月の住宅ローンの引き落としよりも、今日の晩御飯を心配しなければいけない状況では、しのごのいってられません。





【結論:テールリスクとのお付き合い】

金融業界でテールリスクという言葉があります。

恐ろしく単純に言うと「まず起きないだろうけども、万が一起きたらとんでもない損害を被る」リスクのことです。

変動金利の上昇はまさにこのテールリスクの一種だと僕は思います。

で、僕の結論はこうです。

「変動金利の上昇は、常識的にはまだまだ起きないだろうけど、万が一に備えよう」というもの。

そもそも、ちょっとでも金利が上昇すれば即返済不可能になるような高額でローンを組むのがおかしいんです。余裕をもって返せる範囲で借りて、かつ、万が一のときは売っても損にならないお家を建てましょう。そうすれば、最悪の事態になったとしてもジ・エンドとはなりませんから。

個人的に今すでに変動金利でローンを組んでいる人は必要以上に心配する必要もないと思います(※5)これから住宅購入を考えている人は、夢を見て、低金利に目が眩んで、無茶をしないようにお願いします(※6)

僕が固定金利を選んだのは、その方が得だからとかではなく、起きる確率の低いテールリスクに気をもみ続けるのが嫌、という理由でした。

そのリスクさえ織り込み済みでちゃんと計画を立てているなら、ほぼ固定金利と化しながらも固定金利よりもはるかに金利の低い変動金利は、十分お得な選択肢になるかと思います。

 

ただし、すべて僕の個人的な見立てなので、借りるときは自己責任でね!



※1 固定金利は1.275%、変動金利は0.32です…前者はりそな銀行、後者は住信SBIネット銀行の適用金利を集計したものです。申込人の属性等で変動するので、必ずしもこの金利でローンが組めるわけではありません。

※2 100万円を貸して105万円を返してもらって初めて利益になります…実際には融資手数料などがかかってくるので利子だけが利益ではありません。

※3 銀行も中央銀行におカネを預けます…準備預金の超過分に金利を適用します。ただし日本の政策金利は過去にはほかにも種類がありますのでこれだけというわけではありません。

※4 日本政府は日銀に金利を下げさせ続けてきたのです…本来であれば中央銀行は独立性を保つべきなのですが、すでに有名無実化しています。

※5 変動金利でローンを組んでいる人は必要以上に心配する必要もない…住宅ローン破産の記事が流れてくることもありますが、破産原因はおおむね収入の減少によって返済不可能に陥ったものです。金利上昇で破産する人なんて(今は)いません(金利上昇してないんだから)

※6 低金利に目が眩んで、無茶をしないように…ただのサラリーマンが金利0.5%以下で何千万もの借金ができるなんて確かにある意味ボーナスモードです。借りれるだけ借りないと機会損失だと主張する人もいます。ただ、投資家や企業経営者ならそういう発想はアリでしょうが、家事や育児や変哲のない幸せな日常に追われている一般市民がそんなリスクを味わなくていいと思います。