【あちらにいる鬼】


長内と書かれた表札
その家から女が出掛ける…

新城という名の男
ああ おはようございます

みはるという名の女
遅くなっちゃった…

ちょっと 気をつけて
よいしょ

お邪魔いたします
長内みはると申します

車に乗っている白木という名の男
どうも 白木です

1966年

あなたの着物は洒落ていますね
僕は着物には
うるさいんですよ

うちの嫁さんも
よく着るのでね

そうですの

うん
本当に洒落てる
帯の色もいいですね

     徳島文化講演

そこに
白木 篤郎
長内みはる
二人の名が…

長内さん
これ きってください

え?

好きなところで
きってください
ほら
せっかく会ったから
あなたの未来を占ってあげますよ
さあ
何が知りたいですか?
仕事でも 恋愛でも なんでも
ただし
いちどきに占えるのは
一つのことだけですよ

仕事のことをお願いします

トランプカードで占う白木
このエースはね
あなたの これまでを
ぜーんぶ流してしまう
カードですよ

これまでって?

この数年 あなたは
書くものが変わるはずだ
そう言われると
わかるでしょう?

信じても よろしいのかしら
と話していると…扉が開く

岸先生のお話が
そろそろ終わります
白木先生
スタンバイお願いします

俺じゃなくて
カードが言ってるんだからね


私は自分の男に倦む(あぐ)とともに
自分が書くものに倦んでいた

自分には もっと違う小説が
書けるのではないかと
考え始めていたところだった

ある日…
白木篤郎氏の本を読んでいると…
胸がざわめくのを感じた

3度目を読み始めた時
自分が知りたがっているのは
白木の小説の方法であるとともに
白木 その人であることに
気がついた

もしもし 新城さん?
と…電話をかけていた…


笙子(しょうこ)という名の女
花屋で
オレンジのガーベラを
花束にしてもらい
それを持ち
何かを歌いながら歩いている…


みはるはバスを降りた

白木
やあ どうも

突然で ごめんなさい

こりや また
どこの皇太后かと思いましたよ

そう言われ
嬉しくなった

案内しますよ
二人で歩く

笙子は…病院に来ていた
坂口初子という女に会いに…

白木の妻です

あの人は来ないんですね
たいしたことありません
本気で死ぬつもりじゃ
なかったから

花を見て…
花瓶なんてありませんよ

入院してることは
白木さんにしか伝えてありませんから…

大抵の奥さんは…
愛人の見舞いなんかには
来ないで
夫を問い詰めたり なじったり
泣きわめいたりするものじゃ
ないんですか

じゃあ
大抵の奥さんじゃないのね
私にとっては
お見舞いに来ることが
一番 簡単だったから

奥さんは もう
あの人を許してるんですね

そうかもしれません

私…二度 堕ろしました

白木の?

一度目の時は
病院に付き添ってくれました

次に子どもができたら
その時は産んでほしいって
言ってくれたんです

でも…

ごめんなさいね

どうして奥さんが
謝るんですか?
ずいぶん傲慢なんですね

白木からです
封筒を渡す…

白木と歩く みはる

白木
団地の何を書くんですか?

主人公の住まいを
団地にと考えているんですの

つまらんところですけどね…

越してきたばかりなんでしょう?
徳島の講演会で ご一緒した時に
SF小説みたいなところだって
おっしゃってたから

まあ
つまらんところが
小説としては面白くなりますけどね

焼却炉の中の燃える音を聞きながら…
こういう
生まれたばかりの赤児が死んだら
魂は何処に行くとかねえ

読んでくれたんですか

『赤い手毬』
3度 読み返しました
小説とは こんなふうに
書けるものなのか
私も こんな小説
書いてみたいって
そう思いました


変化していく
みはるの気持ち
白木は
どういうつもりで
会っているのか
どうしていこうとしているのか…

続きはDVDで…