オリンピックが終わり、ウクライナ情勢、南シナ海情勢が緊迫化してきて、世界史で習った《勢力均衡》という言葉を思い出したので、今回は、それとは関係ないですが、エレクトリック・ライト・オーケストラ(Electric Light Orchestra、略してELO)の『バランス・オブ・パワー』(Balance of Power)を聴きましょう。

 

ジェフ・リン(Jeff Lynne)率いるELO、現在もジェフ・リンズELOとして活動中、2015年、2019年と、新譜を出し続けていて、そこそこチャート中上位で健闘しているのは喜ばしいことです。

今回紹介の『バランス・オブ・パワー』は、1986年発表、ひとまずELOとしては最後となった作品です(全英9位、全米49位)。僕が洋楽に開眼した時期、最初に聴いたELOの曲が本作収録の先行シングル「コーリング・アメリカ」(Calling America)(全米18位)でした。因みに、セカンドシングルカットは、「SO シリアス」(So Serious)、これは中ヒットだったと記憶しています。

 

2015年にELOのディスコグラフィーが紙ジャケで出されたのですが、昨年それが再発されたのです。本作もそのうちの1枚です。

 

 

エレクトリック・ライト・オーケストラ バランス・オブ・パワー

ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA BALANCE OF POWER

 

1. ヘヴン・オンリー・ノウズ

2. SO シリアス

3. 哀しみの地平線

4. シークレット・ライヴス

5. イズ・イット・オールライト

6. ひとりぼっちのサンセット

7. ウィズアウト・サムワン

8. コーリング・アメリカ

9. エンドレス・ライズ

10. センド・イット

 

ボーナストラック

11. オープニング

12. ヘヴン・オンリー・ノウズ(Alternate Version)

13. イン・フォー・ザ・キル

14. シークレット・ライヴス(Alternate Version)

15. ひとりぼっちのサンセット(Alternate Mix)

16. コウト・イン・ア・トラップ

17. デスティネイション・アンノウン

 

ポール・マッカートニーなどの音楽の雰囲気がする、シンプルなポップソングが揃っています。僕は、「コーリング・アメリカ」のイメージから、プログレに近いポップ・ロックが中心のグループだと思っていました。プログレ好きなので、どうにかしてそのジャンルに括りたいのですが、実際は、シンプルな曲にカラフルな演奏がコラージュされたような音のつくりになっています。

だから案外、格別な音やメッセージ性の深さはないのですが、シンセサイザーが多用されて、時々オーケストラのようなサウンドを再現してあったりするので、私としては相手にせざるを得ない(笑)オリジナルの演奏合計時間は30分台なんですけどね。

 

歌詞は、全体として、女性との離別、愛する人との理解し合えない寂しさにあふれていて、曲から受けるポップな明るさとは対照的です。

実際、解説書を読むと、ジェフ・リン本人が、もううんざりだ、というインタビューで話していることが記されています・・・そうか、僕が愛する80年代後半とは、見せかけに過ぎなくて、そういう契約上の履行でやむを得ず消化した音楽作業の掃きだめだったのかあ((-_-)←「

 

でも、今聴くと、すごくよくできた良質のポップスの部類ですよ。

最近(2010年代以降)、久しぶりに質のいい、優等生のようなポップスの作品が洋楽でしばしば聞き受けられますが、似たような音は、このELOをはじめ、すでに80年代にたくさん出されていたと思います。

ジェフ・リンは、本作の後、ジョージ・ハリスンの『クラウド・ナイン』(1988)や、トム・ペティの『フル・ムーン・フィーヴァー』(1989)のプロデュースをしますが、それらの音は、ゼッタイにジェフ・リンの音!まごうことなき(笑)

 

 

本作の楽曲ですが、「ヘヴン・オンリー・ノウズ」はオープニングにふさわしいポップで活力のある曲。歌詞は、12のオルタネイトヴァージョンよりも、1のほうが前向きになっています。神のみぞ知る、の意味合いが消極的なものから積極的なものに変わっています。

「ソー・シリアス」は、

いろいろあるけど、難しく考えちゃダメ!

深刻になってどうする!

 

考え過ぎだって!

 

みたいな曲。

 

「哀しみの地平線」は、3番目のシングルヒット未遂の曲で、穏やかな海のようなポップソング。歌詞は、もうどうすることもできないと歌っていますが。来るべき時が来てしまった、もう戻れない、と。いまの僕の複雑な気持ちにこそ、合います。

絶望と希望のちょうど境界線上にいるんですよ、おそらく。

僕らの、世代を越えて、2022年2月現在の全世界の人々に共通した想い、に通じるのではないですか!

 

「イズ・イット・オールライト」は、いまふりかえると、後のトム・ペティの「アイ・ウォント・バック・ダウン」を思い出します。「ウィズアウト・サムワン」は、序盤はジョージ・ハリスンの「FAB」っぽいですが、サビは、当時のエイジアやTOTOを想わせてくれて、だから、ELOをアリーナ系やプログレッシブなロックに含めたくなるんです。

「エンドレス・ライズ」は、嘘をつき続ける女性への哀感に満ちています。特典会で自己表現の下手なアイドルを思い出します(要らんこと言うな笑)。どこか、ムーディ・ブルース的な序盤、途中からビートルズ的であったり、どこか懐かしさも覚えます。

 

いずれも、邦楽に通じるポップな音がほっとさせます。

 

 

最後に、かんじんの「コーリング・アメリカ」ですが、

衛星電話が世に出たことへの興味津々なようすを見せながら、彼女に届こうとするようすを歌っていますね。

 

彼女が電話番号教えてくれてそこにかけているんだが、つながらないと。

 

彼女が導いてくれたはずだが、その彼女にはたどり着かない。

 

前回ヴァネッサ・カールトンの歌では”1000マイル”でしたが(たぶん東京から福岡までくらい?)、今回は、2万マイル。

地球を1周する距離ですね。

 

そうやって、どれだけ離れていようとも、そこへ(彼女のもとへ)行こうという想いが原動力になって、アイドルのSNSも、そして、テレビがインターネットが、その都度僕らを熱狂させ我を失わせてきたけど、

 

冷静に振り返って、そんなときの行動はどのくらい今、自分の身になっているのかと、ふとそのように想うことがあります。

 

だからこそ、こちらの時間と経済を無駄にするアイドル相手にしたくないし、できるだけ質の高いかかわりのできるアイドルと時間を共有したいものです。(←アイドルの話に引き付けるysheart)

 

「コーリング・アメリカ」は、シングルヒットに相応しい、突き抜けるような拡散するような明るさが良いですが、こんなふうに考えていると、少し涙が出てもおかしくない曲だと思います。

 

 

今日は晴天、ゆっくりとできるお休みです。

 

みなさんも、天皇陛下も、よい一日をお過ごしください。そしてコロナに負けないようにまいりましょう。