ここは警察署だ。


周りをよく見たら、警察官以外にも色んな人がいる。



騒ぎを見てた皆の目には、さぞ滑稽に見えてるだろう。



土下座する爺さん。

泣き叫びながら縋りつく婆さん。

汗だくのサラリーマンが来た途端に、ジャンピングビンタ劇。



この場にいる全員が、耳をそばだてて好奇の視線を向けてるような気がした






少しして、女性警察官と警察官が二人で来た。


「相手女性の言う通りだと、ご主人が言われました。奥さんにとっては不法侵入ですが…ご主人が合鍵を渡してるので、これ以上は民事になりますので、我々としてもちょっと…。
しいて言えば、器物損壊とか…。まぁ奥さんが被害届を出すか否かですが…どうされますか?」

神妙な面持ちだが、心底心配してくれてる訳ではないのだろう。

内輪揉めは面倒だ…という色が見えた。



私→被害届は出しません。相手にも主人達にも今は会いたくないので、私は帰ってもいいですか?


もう一人の警察官が頷く。


女性警察官→…結構です。後の事は、ご主人に伺います。
タクシー呼びますか?







タクシーは外で捕まえます…と御礼を言って頭を深々と下げた。

警察署から大きな通りに出て、すぐにタクシーを捕まえた。




マナ→東京の○○区の▲▲駅辺りまで…

運転手は、高速代が…夜間の割増料金が…今ナビで調べますね…とかゴチャゴチャと言っていたが、そんな事はどうでもよかった。

カードもあります、大丈夫です…とだけ言った。


後部座席に座り、高速に乗るからシートベルトを締めて背もたれに全体重をかけた。

目をつぶった。

悪い夢だと思いたかった。




数時間後、実家に着いて鍵を開けてもらった。

起きて待っていてくれたのだろう。
腫れて赤くなった目の母の顔を見た途端、私は小さい子供の様に泣き崩れた。


母がアキの隣に布団を敷いてくれて、私は横になった。



泥のように眠った。




お昼前に、私はいとこが離婚の時に世話になった事があると聞いた弁護士事務所に電話をした。

面談の予約をとりつけて、一息ついた。

起きてから、ずっと私の足元からくっついて離れないアキ。




ママと一緒にお散歩いこっか?と言って、外へ出た。



区役所へ行った。

深呼吸をして【離婚届をください】と窓口で言った。




近くのコンビニでお昼ごはんを買って帰った。

玄関で靴を脱いで、洗面台でアキと一緒に手を洗った。



そこへ、家の電話が鳴った。

母が取ると、私にチラッと目配せをして、子機を持って奥へ行った。



母→今▲▲駅にトオルさんとウトさんトメさんが着いたって…。これから来たいって…どうする?

子機を持ったままの母に

私→お父さんが帰ってきて、アキが眠ってからにして。8時過ぎね。


母が頷いて、それを伝える。


「それは本人が…」
「決めるのは親じゃないので…」
「まだ本人からは…」
等とボソボソ話している母の声が聞こえた。



子機を戻した母が「どうするの?」と言ってきた。


区役所から貰った、離婚届が入った封筒を黙って差し出した。

それ以上は、母は何も言わなかった。



珍しく昼寝もしなかったアキは、夕ごはんの後にお風呂にも入らずに寝た。

8時になって、トオル達が来た。



三人は玄関に入る前に土下座をして、許しを求めた。

私は「離婚します」と言った。




リビングに入り、三人に離婚を考え直すよう求められたが、私にはもう夫婦としての自信が無かった。


何を言われても、私は無言を貫いた。



0時近くまで、土下座や謝罪、離婚を思い留まるよう説得が続けられたが

母→もう娘は疲れております。明日も主人(父)は仕事なので帰ってください

と言って、帰ってもらった。

何回もトオルから電話やメールが来た



翌日にケータイの番号を変えた。

家の電話も徹底的に無視した。






弁護士事務所で面談をして、その場ですぐに契約した。

トオルへは離婚調停を申し立てた。

女へは損害賠償請求の内容証明を送った。





女は、慰謝料500万円を何も言わずに振り込んできた。

更に、女の両親が「大変な事をしでかしました…家の中を壊したりしたので…」と言って、わざわざ実家へ謝罪をしに来た。

「器物損壊の被害届も出さないでくれて、ありがとうございました。」とも言われた




表に【お詫び】裏に【伊井トモミ】と書いたパソコン書きの謝罪文の手紙と、女の両親から、娘のやらかした事と家具等を壊したお詫びに…と300万円を渡された。

ご両親は関係ないので持ち帰ってほしいと私は言ったが、娘の親だから責任がある!と言って、頑として持ち帰ってはくれなかった。

女の両親いわく、本当かどうかは分からないが、あの女の事は勘当して、女は大手に務めてたのに会社も辞めて、一人で関西方面へ行ったらしい。
トオルと女は、居酒屋で知り合ったらしく、妻子持ちである事は最初から知っていた…と言ってたそうだ。







お詫びと書かれた封書を読んだ。


トオルとは、行きつけの居酒屋で知り合った、と。

奥さんもお子さんもいると聞いていたが、一度関係を持ってしまってからは気持ちが抑えられなかった、と。


そう不倫関係になった経緯と謝罪の言葉が書いてあった。




女は最後まで姿を現さなかった。

アパートの廊下で睨みつけられた鬼のような顔が最後だった。

あの顔は今も忘れられない。




トオルとの離婚調停は苦痛だった。

離婚したい私

離婚したくないトオル



話は平行線で全く進まなかった。



あの騒ぎから一年近くが過ぎた7回目の調停で、話の埒があかないので離婚調停を不成立にした。

調停のたびに中部地方まで行くのも、精神的に辛くなってきたし。






お互いの主張が全く噛み合わなかったので、審判離婚には移行されなかった。


私は、笹木先生とともに、すぐに離婚訴訟へ踏み切った。

そして裁判所の和解勧告で、ついに夫が折れた。


諸々と細かい事が決まった。



ほぼ私の言い分通りに事が進んだと言えた。


そして、離婚が成立。


別居開始から1年以上経っていた。





苗字は勿論旧姓に戻した。

アキの苗字も私の旧姓にする為に、細々とした手続きもあった。



離婚後から現在も、事ある毎にトオルやトメから復縁を求められるが、もう無視している。





別居当時まだ2歳だったアキも、今は小学生になった。

シングルマザーに理解がある時代になったとはいえ、まだまだシングルマザーに向けられる視線が痛い事も多い。


アキには、沢山我慢をさせてしまったと思って申し訳なく感じてる…

毎日精一杯の愛情を注いでるつもりだ。

たまに生意気な事を言うけど(笑)
素直に育ってくれて幸せだ。

アキは中学受験に備えて、自分から勉強してる。
塾にも通い始めた。

アキの将来は無限大だ。



離婚に後悔は無い。



もう私は結婚には懲り懲り(笑)



アキの手を煩わせる事無く、悠々自適に老後を過ごしたいし、定年退職するぐらいには、お金持ちな再婚相手見つけるかな!(笑)

もしくは、うんと年下!(笑)





案外、私は大丈夫v(´∀`*v)



大学を出てから就職しなかったし、小さい子がいるシングルマザーの就活が上手く行かなかったのは事実。

だけど、就活に妥協はしなかった。

シングルマザーだからこそ妥協はしなかった。




トオルは念願叶った地元中部地方での勤務だったが、また東京へ最近異動してきた。




ウトとトメは、熟年離婚したらしい。

離婚理由を深くは聞かなかったけど、もしかして私達の事で揉めたのが引き金になったのかもしれない。



ウトは、中部地方で一人暮らし。

トメは、トオルと一緒に東京で暮らしている。



そんなトオルとなんて、余計に復縁なんて嫌だっつーの!(笑)

無理無理無理(笑)

お金貰っても無理!(笑)



不倫が分かった時は、世界で一番私が不幸だと思った。

もう世界が滅べば良いのに…と呪った

トオルも女も、世の中皆不幸になれ!って本気で思ってた。



だけど大きい不幸を見てるより、小さい幸せを見てる方が良い事に気がついた。


アキもいる。

父も母も一緒にいれる。

裕福かと言われればアレだけど(笑)

慰謝料と養育費は貯蓄して、これからアキに使いたい。


ぶっちゃけちゃうと、さ。


家にいるのは単なる旦那の不倫相手だと分かってたのに、わざと泥棒かも…って警察を呼んでもらえるように仕向けた事は、人として正しかったかと言えば、それは微妙だけど(笑)

トオルと女に恥をかかせたかった。


器物損壊で被害届を出しておけばよかったかな?と思った日もあった。


だけど、もう十分。







〜終〜



この色で書いた部分。

去年の春に、アキの爆弾発言によって糞夫と不倫バカ女との不倫が分かり、どうすべきか迷っている時期にハナコさんへ泣きつきました。

その時、実際にハナコさんが私へ言った言葉をそのまま書きました。



なかなか現実味が無さそうですが、これは本当に実際に起きた出来事です。



メールアドレスが変わりました!と、ハナコからのメールが届いた時に、何の気無しに、新しい生活(ご主人と転勤したばかりだったから)はどう?こっち帰ってきたら連絡してね〜カナヘイきらきらと返事をした私。





新宿のカフェで「私ね、旦那と離婚する事にしたの」と言われ、目が白黒・口がパクパクしてしまった。




あまりにも酷い…と思った。

そんなドラマみたいな事が現実に起きたのかと、耳を疑った。


ハナコさんは強い。










私、自宅不倫でタローくんと駐車場に張り込みをしてる間、ハナコさんにLINEしたんです。


不倫女を警察に突き出そうかと思う…って。



反対されました。

自分はやったじゃないか笑い泣き (笑)






逆切れした伊井さんや糞夫が何をするか分からないから!って。

警察に踏み込まれて、不倫女や糞夫がマンションの窓からジサツされたり、マナが刺されたりしたら大変だからやめとけ!って。


証拠の撮り方、どこを見ればいいのか詳しく教えてくれました。





ハナコさんの言う事を聞かずに、もし同じ事をしていたら…




何か変わっていたかもしれない。





伊井さんが警察に連れていかれてたかもしれない。


糞夫が今以上に恥を晒す事になったかも。






ううん。





もしかしたら、不倫ゴミ二匹がジサツしてたかもしれない。

もしかしたら、私が刺されてたかもしれない。



それでもいい!破滅させてやりたい!と思った瞬間が無かったか?と言われれば…

それはNOだ。


こんな事をされたんだから、もう私は糞夫と伊井さんと刺し違えてもいい…と何度も 頭を掠めた。







だけど、私は一歩を踏み止まった。


ダメだ。


父に言われたじゃないか…と。






だから、部屋に踏み込んだ時に、私は便器水やら排水口のゴミ汁やらで終わらせたんです(笑)






今、私が正面から勝負ができるのは、ハナコさんがいたからかもしれない。





ありがとう。