
力石をリング上で死なせてしまったという十字架を背負い、ジョーは町をさまよう。段平は「もう明日はこねえのかと嘆く」西は「このままでは力石は犬死にだ」とハッパをかける。
しかし、ジョーの気持ちはどうにもならず、苦しみから解放されることはない。ぼろぼろになって、町をさまようジョーを、ドキュメンタリー調にえがこうと後をつけるマスコミ。意地悪いことに、夜な夜な白木葉子が現れるというクラブにジョーをさそう。そして、二人を対面させようという魂胆だ。そうとも知らず、誘い通りにジョーはクラブで葉子にあった。
葉子は、ぼろぼろに傷つき、リングに戻れなくなっているジョーを激しい言葉で挑発する。
「あなたは、ウルフ金串の顎をわり、再起不能にし、そして、力石徹を死に追いやった罪深きプロボクサーなのよ」と。
そして、追い打ちをかけるように、「あなたはふたりから借りが・・・神聖な負債があるはず」
「はっきり自覚しなさい。ウルフ金串のためにも、力石君のためにも自分はリング上で死ぬべき人間なのだと」そうしないとゆるさないと言い捨てる。
それでもジョーは町をさまよい歩き続けたのだ。ある状況に遭遇するまで。
傷ついた人間にかける言葉は難しい。慰めもつもりが、より傷つけることになったり、励ましのつもりが、より追い詰めることがある。逆に、厳しさが気持ちを吹っ切るきっかけになることだってある。
この場合、「あなたはリングで死ぬべき人間、ボクシングをやめるなんてゆるさない」という言葉はどうなんだ。葉子自身が、大切な人間、力石を失って、空虚で自暴自棄な状態になっていたから思わず口にでてしまった言葉だ。
ジョーもそんな葉子の思いがわかるから、何の反論もせずに立ち去った。漫画の終盤でホセ・メンドーサとの試合を控えたジョーに、葉子はボクシングをやめてくれと懇願する。そのとき、ジョーは「リングの上で死ねといった本人の口から、よくそんな言葉がいえるな」という。ジョーはこの時は、スルーしたが、心にはずっとしこりになっていたのだ。
それは、ジョー自身が自分でも心のどこかで、そう思っていたからである。
人は、痛いところを突かれると、強い反応を起こす。場合によっては取り乱すこともある。自分では何とも思っていない言葉を言われても、人は傷つくことはない。人が傷つくのは、実はその言葉自身ではなく、自分の中で起こった心の反応に傷つくわけだ。傷つくということは、それは自分にとって重要なことだからだ。
傷つくことはつらく、苦しい。しかし、傷つくことを恐れることはない。傷つくことで人は成長するのだから。