少年院全体にボクシング熱が広がっていた。社会のルールから逸脱し、ぐれて生きてきた少年達がルールのある闘いの為に汗水垂らしてトレーニングを始めた。

ジョーも今度こそ力石に勝ちたい。力石はプロのプライドにかけて負けるわけにはいかない。ジョーは段平に「あしたのために=その5,6・・」どんどん教えてほしいと頼んだが、なぜか段平は冷たい。それどころか、よわよわしい青山に、筋がいいといって個人指導を始めた。焦るジョー、いったい何が段平にそんな行動をとらせたのか、自分が失礼なことをしたなら謝るから・・・ついにみなの前で土下座までして、ボクシングをおしえてほしいと懇願したが、それでも段平はジョーの願いに応えることなく去っていった。

プライドまでぼろぼろにされたジョーは雨の中に飛び出し叫ぶ

 

「ようし・・・たのまん。こうなったら意地でも拳キチなんぞのコーチは受けんっ。自力で・・・自力で堂々と対抗試合にのぞんでやるっ」

 

西は「おっおっちゃんとジョーの・・あのふたりの師弟の間には何かあったらしい。炎がメラメラと燃え始めたような気がする。

正体は検討がつかんけど・・・うっかり早わかりしようとしたり、手をふれたりしたりすれば、やけどをするような・・・青白く・・・はげしく・・・あつい炎が・・・や!」

 

当初は、段平にボクシングを強要されることに抵抗し、人の夢に巻き込もうといしているだけだとののしったジョーも、今や段平を必要とするようになっていた。

本気でボクシングに打ち込もうとしたとき、指導者の必要に目覚めたのだ。段平はおもったより優秀なトレーナーだ、力石に勝つには段平の指導が必要だと認めたのだ。何もかもが初めての体験だった。初めて人に頼ること、人に教わることを知ったジョーに待ち受けていた試練は・・・

大人が子供にものを教えるとき、頼らせる指導は容易だ。「なんでも聞きなさい、いつでも頼っていいんだよ。君は一人じゃない。私がついているから大丈夫だよ」

子供の時はそれでいい。しかし、いずれは、長く生きていけば一人で乗り切らなければいけない場面に遭遇するだろう。誰にも頼れない、自分の力で乗り越えるしかない、その時人はどうするのか・・・。

ここで大切なことは、一人で乗り切る力は、しっかりした信頼関係の裏付けの元でしか育たない。しかし、頼る気持があれば、一人で乗り切る力は育たない・・・矛盾だ。

頼ることを教えるのは簡単だ。しかし、頼らない力を身につけさせるのは難しい。一歩間違えば、見捨てられたと思われ傷つくだけだ。信頼関係もこわれてしまう。頼らない力が身につくどころか、せっかく身につけた頼る力も失ってしまう・・・

頼る力を身につけ、その後に頼らない力を身につける・・そうやって人は成長していくのが理想だ。現実には、そんな理想的なトレーナーに遭遇すること、そんな教育者に恵まれること、そんな大人に出会えることは難しい。