特等少年院内で、ついにジョーと力石の試合が始まった。力石は、少年院に入る前はプロボクサーで大型新人といわれていた実力の持ち主だ。にわか仕込みのボクシングで勝ち目はあるわけはない。

段平は、試合前にジョーに一撃必殺のクロスカウンターを伝授した。試合でジョーは、何度も何度もダウンを奪われた。半死半生の状態、そこにとどめを刺そうと全力で襲いかかる力石。そのタイミングを待っていたジョーのクロスカウンターが炸裂した。

両者ノックダウンで試合は終わった。

試合後、段平は語る

「勝ったといわせてもろうても、さしつかえあるまい。まるっきりの素人が、プロの大型新人と引き分けたんだ

・・・さっき 偶然の怪我の功名というたが・・・それも、数限りないダウンから、数限りなく立ち上がったジョーの根性があったればこその話」

 

「なんちゅうか・・・流れ流れてドヤ街までしずみ、さんざん人にさげすまれて生きてきたが・・・

生きとってよかったと・・・しみじみ思っとるぞ・・・・

なあ、わしのジョーよ・・・う・・・ううう う・・・・う おおお・・・うおおおおお~~おおっ・・」

 

段平は泣いた、勝った負けたではない。ジョーと出会えたことのうれしさに泣いた。

しみじみ思った、今までの自分の人生は、どうしようもないものだった。しかし、それはすべて、ここでジョーに出会うためのものだったのだと段平は確信したのだろう。

損得ではない、ジョーにボクシングの才能があり、こいつならチャンピオンになれると計算できたからでもない。こんなすばらしい男に出会えたことがうれしい。その先、どんな運命が待っていようがかまわない。この男とともに生きて死ねるのなら、それでいい。未来など保証されていなくても、あしたを信じてともに生きていける。そう、ともに生きて行くに足る男に出会えたことが、心から魂のそこからうれしい。その喜びに段平はむせび泣いたのだ。

男が男に惚れる、人が人に惚れる。男女間のすいたほれたの話ではない。人は誰かを心から信じることができれば、他に何もなくても生きていける。どんな屈辱にも耐えることができる。たぶんそうだ・・と思う。