大リーグボール2号を打ち砕かれ、虚無感に襲われ、東京の街を目的もなくさまよう飛雄馬。ふらっと入った映画館で見たものは、不良少女グループに因縁をつけられている左門の姿であった。左門もまた、花形に先を越され、悔しさのあまり街をさまよっていたのだった。

真面目人間、左門にとっては、全く予期せぬ状況であり、とまどいを隠せない。そこに飛雄馬は口を挟み、不良グループのボス、お京に

「きれいな口をきくんじゃないよっどうせおまえだって、八百長をやってんだろ!」と言われた。そのセリフが、飛雄馬の怒りに火をつけた。

「八百長か・・・男一匹・・・・・・ここまで身も心もすり減らして傷だらけとなったすがたを、どうせ八百長とはよくぞいった・・・」

左門は、こんな連中を相手にして、君まで泥にまみれることはないと、金で解決しようとする。しかし飛雄馬は

「もともと、俺は泥まみれ。やけじみた心境もお互い様だが、それでもゆるせんものがあるらしい」と助太刀にきた、用心棒ヤクザにまで一歩もじさない構えだ。

一触即発・・・しかし、飛雄馬は自暴自棄だ

「星 中日コーチ、いや とうちゃん・・・巨人の星を追い求めたなれの果てがこれだとは、父の誤算か、子にそれだけの資質がなかったか、どっちなのかな?

とにかく・・・今のおれは無性に馬鹿馬鹿しい、何ともはや、馬鹿馬鹿しくておかしくて・・・うふふふふっ」

それでも最後まで左門をかばう。事態を収めようと、左門は土下座してわびを入れようとする。しかし、飛雄馬はそれを許さない。

「よせっ 左門さんのような、立派な男が間違っても頭を下げる相手ではない!おれがゆるさん!!」

 

真面目一徹で、野球に打ち込んできた飛雄馬が、七転び八起き、不死鳥のような根性をモットーに生きてきた飛雄馬にとって、自分の存在を根底から否定されるような挫折体験だった。

これまでは、父が支えてくれた。父が敵に回ったときも、親友 伴が支えてくれた。そして常に姉が影から支えてくれた・・・今や、父は敵、友も敵、姉は行方不明・・・

とことん虚無的になっていたところに、ヤクザの刃を向けられても、飛雄馬は恐怖に怯えるどころか、ここぞ死に場所といわんばかりの投げやりな開き直り状態だった。それでも、誇りは捨てない、友の誇りも傷つけないという熱い心を秘めていた。

結局のところ、飛雄馬の本気の覚悟、そして、泥にまみれても決して誇りを捨てない熱い心が、不良番長 京子の心を動かし、何を逃れることになる。

もやや野球漫画ではない、まるで、後年の作品、ボディーガード牙、空手地獄変だ。何かで読んだのだが、梶原一騎は野球には詳しくなかったらしい。そういわれてみれば、そうだ。巨人の星は、飛雄馬の成長の物語、星親子の葛藤の物語であり、その題材が野球だったにすぎない。ドカベンとか、あぶさんとか本当に野球がすきな水島慎司の野球漫画とは全く違うわけだ。

落ちるところまで落ちた飛雄馬、それでも飛雄馬は蘇るのか、飛雄馬に明日はあるのか・・・。もはや少年少女への教訓的な要素は薄れていく、そして、悩める60-70年代の青年の苦悩とシンクロしていくことになる。