こんにちは。

 

 

 

遺産トラブル相続サポートです。

 

もしも、自分自身が知らないところで夫に多額の借金があったら・・・・

 

 

相続で承継するのはプラスの財産だけでは有りません。

マイナスの財産も引き継ぐ必要があります。

 

相続人が取りうる手段は3つあります。

①単純承認

②限定承認

③相続放棄

です。

 

 

この3つの手段のどれをとるか、被相続人が亡くなった後、あるいは自分が相続人であると知った日から3カ月以内に決定しなければなりません。

 

今回は、③の相続放棄のやり方について具体的に見ていきたいと思います。

 

 

突然の電話

 

奥様はあわてて私どもの事務所にお電話をされてきました。

名前を名乗ることもできず、ただただ「夫に借金があった」ということを繰り返しました。5分ほどなだめてやっと、お名前を聞き、その日の夕方にご相談を受けることになりました。

 

夕方、3歳程度の女の子の手を引き、奥様は私どもの事務所にやってきました。

お子様には少し離れたテーブルを用意し、子育てになれた熟練スタッフが一緒となり、おとなしく塗り絵や絵本を楽しんでいるようでした。

奥様は少し小声になり

「今朝このようなものがポストに入っていまして・・・・」

と某消費者金融数社からの督促状を見せていただきました。

債務の額は遅延損害金を含めて約500万円でした。

ただし、あて先がどうやらお子様の名前になっているようでした。

 

 

「失礼ですが、ご主人様とは?」と私は尋ねました。

「あの子が生まれてすぐに離婚しました。」

 

なるほど。離婚した場合は奥様は当然のことながら相続人とはなりませんが、お子様が第一順位の相続人であることには変わりはありません。

 

「元ご主人様の遺産は?」

「詳しいことは向こうの両親から聞いていませんが、ほぼ何もないと思います」

 

「返済されるご予定ですか?」

ご相談者様は強く首を振りました。

「とてもそんな余裕はありません・・・・ましてや、あの子に借金を負わせるようなことはできません」

ご相談者様は強い言葉で言い切りました。

 

相続放棄

 

ご主人が亡くなってからすでに2か月を経過しているようです。

相続放棄をするためにはご自身が相続人となったことを知った日から3カ月以内に裁判所に相続放棄の申述をしなければなりません。

今回のケースでは相続人である娘様が父親の死を知った日となりますが、未成年ですので、ご相談者様が知った日と考える必要があります。

 

ご相談者様が知ったのは亡くなって数日とのことでしたので、あまり余裕はありません。

急いで手続きの準備をする必要があります。

 

必要な書類

1.相続放棄の申述書(裁判所のwebサイトにて取得可能)

2.被相続人の住民票の除票

3.申述人の戸籍謄本

4.被相続人死亡の記載のある戸籍(除籍)謄本

 

今回のケースでは相続人がお子様だけですので、比較的相続放棄で集める書類も少なくなり助かりました。

 

1週間後の同じ時間に面談の約束をしてご相談者様は安心して帰っていきました。

 

相続放棄の提出先

 

1週間後、相続放棄に必要な書類を集め、ご相談者様は事務所にやってきました。

今回は娘様は一緒ではありませんでした。近くに住むご相談者様のお母様が預かってくれているとのことです。

 

「前回は、急なことで母親に頼めなかったんですが、今日は大丈夫でした。やはり、こういった話を聞かせるのは・・・・でも、先日のご対応はとても助かりました。娘はまた事務員さんと一緒に遊びたいと言っていたんです。」

 

そう言っていただけて私どもも胸を締め付けられる想いでした。

 

一通り書類の確認をして、いざ相続放棄の申述書に署名捺印をしていただく段階になって、奥様の筆がとまりました。

 

そして、

「娘が相続放棄したら、この借金はどうなるんでしょう?」

 

第一順位のお子様が放棄されると、第二順位である元ご主人様のご両親が相続人になる旨説明すると、奥様はしばし黙っていらっしゃいましたが、

 

「仕方ありませんよね・・・・この借金がいつのもので何に使ったのかわかりませんし・・・・ましてや私一人で返済していくことなどできませんから・・・・」

 

「先方のご両親様とのご関係は今も・・・・?」私が聞くと

「えぇ。別れたとはいえ、娘は孫ですので。よくしていただいています。この件について相談したところ、気にすることはないとおっしゃってくださっていますが・・・・」

 

「そうですか。わかってくださっているのなら・・・・。一番大切なのは娘様を守ることではありませんか?」

 

私が言うと、ご相談者様はうなずき、署名捺印を済ませました。

 

私は最終書類を確認し、「これで手続きに入る」旨ご相談者様にお伝えしました。

 

相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所にする必要があります。

亡くなられたのは隣の件でしたので、今回は郵送にて送付することにしました。

 

必要な書類に、返信用の郵便切手や収入印紙(800円分)を貼付し翌日に郵送しました。

 

 

参考:相続放棄の期間について

 

 

1か月後

家庭裁判所より相続放棄の申述受証明書が届きました。これではれて相続放棄ができました。すぐにご相談者様に連絡を入れると翌日の夕方にお子様を伴って事務所に来ていただけました。

 

書類について説明し、ついでに、債権者に娘様が相続放棄をした旨電話で連絡を入れました。

 

 

「これでもう安心ですね・・・・」

 

ご相談者様は安心した顔で帰っていきました。

「また遊ぼうね」と娘様は名残惜しそうにして手を振っていました。

 

 

私どもは可能な限り、ご相談者様がまた事務所を訪れないことを、強く祈るばかりです。