飲兵衛さんの思い出。再録+
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飲兵衛さんの思い出
昔学生の頃
バイクで帰ってきて
路地へゆっくり入ったところで
赤いお鼻の
飲兵衛(のんべえ)さんが
バイクに近寄ってきて
紙切れのようなものを差し出して
訳の分からないことを
たいそう不機嫌そうに言うもので
うるさいから無視して進もうと
エンジンを吹かし始めたら
怒ってバイクの前に
立ち塞(ふさ)がってしまった
腹が立ったが顔を見ると
やり場のないものが
鬱積(うっせき)しているらしい
どうしよう
このままでは帰れない
無理にバイクを前進させれば
ぶつけて怪我(けが)をさせるか
喧嘩(けんか)になって
こちらが怪我するかも知れない
しかたないと諦(あきら)めて
エンジンを止めて紙切れを見た
数字が書いてあった
電話番号のようでもあるが
よく分からない
近くの通りの公衆電話のことなど
首をかしげながら話していると
顔が和(なご)んできた
のに気づいた
最後にはニコニコ
笑って通してくれた
気づいた
怒った飲兵衛の話など
まともに聞く人はいなかった
皆ごまかして逃げるか
力ずくで押しのけるか
しかしこの飲兵衛さん
にだってプライドがあった
あちこちで角を立てながら
さらに傷つきながら
求めていたのだ聞き手を
関わるまいと逃げる人
から聞く人へ
キーを回して
エンジンを止めるという行為
それは聞き手になりますよという
こちらの意思表示になった?
あのとき思った
案外、精神科医に向いている
かもしれないという見込み
は見事に外れたが
患者になってしまった今は思う
心を病んでいる人も
それぞれの精神の
受け皿を持っている
(1999年06月26日)
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思いがけず、自分が和ませた、癒したかのような
気持ちになっていましたが、
飲兵衛さんもいろいろです。乱暴な人もいるかもしれません。
たまたま、そういう飲兵衛さんに出会ったひとときの間、
そういう出会いによって私が、ある意味、
思いがけず、和んだ、癒された、つまり、
そういう飲兵衛さんがいて、よかった、ほっとした、
という思い出かもしれないと今は思っています。
武装?
正直と正直は
解決を見出すかもしれない。
飾りと飾りは
どこまで行っても飾りだ。
偽りと偽りは
どこまで行っても偽りだ。
偽りと正直は
加害者と被害者を生む。
怒りと怒りは
衝突して何も見出さない。
怒りは一時的だが
根に持つと怨念になる。
大切なのは基本的に
正直をもって武装しておくことだろう。
(2020年03月26日)
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