購入した宅地から“基準値を超える有害物質”が検出→契約書には「瑕疵担保責任3ヵ月」の文字が…期限超過も「契約の解除」は可能か【弁護士が判例解説】
2023年12月24日(日)THE GOLD ONLINEさんの記事です!
マイホームを建てるために買った土地から“環境基準を超える有害物質”が複数検出されたら……当然、売買契約を解除したいと考えるでしょう。しかし、売主が「瑕疵担保責任」を3ヵ月と定めており、「引渡しから3ヵ月以上経っているので無効」と反論してきた場合、泣き寝入りするしかないのでしょうか。弁護士の北村亮典氏が、実際の裁判事例をもとに解説します。※本事例は、2020年4月の改正民法施行前の事例となりますので、現行の法令では異なる判断になる可能性があることにご留意下さい。
宝飾卸売業者が買主に売りつけた“ヤバい土地”
不動産の売買における瑕疵担保責任の期間制限について、民法は、570条、566条3項で
「買主が事実を知ったときから1年以内にしなければならない」
と規定をしています。
ただし、この瑕疵担保責任の免除の有無や期間制限については、原則として、契約当事者間において自由に取り決めすることができます。
これに対する例外として、売主が宅建業者である場合、宅建業法上の瑕疵担保責任に関するルールにより、 売主が宅建業者、かつ、買主が宅建業者ではない場合、瑕疵担保責任を目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、民法に定める責任と比べて買主に不利な特約を締結することができず(宅建業法40条1項)、これに違反する特約は無効(同条2項)とされています。
また、売主が宅建業者ではなくても、法人等の事業者である場合、消費者契約法の適用があり、消費者契約法は、消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する特約を無効としていますので、売主が事業者の場合、瑕疵担保責任の全部を免除することはできません(消費者契約法8条1項5号)。
では、売主が宅建業者ではない「事業者」の場合、瑕疵担保責任の期間を1年よりさらに短縮する旨の合意をすることは消費者契約法の関係で許容されるのでしょうか。
この点が問題になったのが、東京地方裁判所平成22年6月29日判決の事例です。
この事例は、売主が「貴金属、宝石類の卸売業等を目的とする株式会社」で、その所有する土地を個人の買主に宅地用途で売却したという事例で、瑕疵担保責任については3ヵ月間に制限する特約がありました。
土地の売買後、土地から環境基準(150mg/kg)を超える鉛250mg/kgが検出され、また、過去に当該土地上で皮革が燃やされたり埋設されたことがあり、土地に埋まっていた皮革の燃え殻から、15.3ppmの六価クロムが検出されたということも判明しました。
買主「瑕疵担保責任の期間を過ぎているが、契約解除したい」は通用するのか
そのため、買主は瑕疵担保責任により契約の解除を申し出ましたが、すでに引渡しから3ヵ月が経過していたため、買主側は、瑕疵担保責任の期間を3ヵ月に制限する特約が消費者契約法に違反し無効だと裁判で主張し争ったのです。
裁判所が「売主が設定した特約は無効」と判断した根拠
このような事案について、裁判所は、結論として
「本件特約は、民法1条2項に規定する基本原則である信義誠実の原則に反して消費者である買主の利益を一方的に害するものであるというべきである。したがって、本件特約は、消費者契約法10条の規定により無効である」
と述べて、瑕疵担保責任を3ヵ月に制限する特約は無効であると判断しました。
裁判所が、このような期間制限の特約を無効と判断した理由としては、単に事業者だからという理由だけではなく、下記のように述べて、従前の土地の利用態様や取引時の売主の説明が事実と相違していたという事情を重視しています(被告とは、本件の売主です)。
「被告代表者の兄であるBが、本件土地に皮革等の燃え殻を埋設し、その後、被告代表者が、本件土地を買い受け、被告に対し、本件土地を売却した」
「被告は、平成20年1月31日の本件売買契約の締結時、原告X1の妻から、本件土地の従前の利用方法や埋設物の有無等の確認を求められたのに対し、居住のみに使用しており、問題はない旨回答し、埋設物の可能性を記載することなく、原告X1に対し、物件状況等報告書を交付したものの、
その後、同年7月、環境基準を超える鉛が検出されるとともに、同年8月25日、皮革等の燃え殻が多数埋設されていることが判明したため、
原告X1が、同年10月16日、被告に対し、本件売買契約を解除するとの意思表示をしたことが認められるのであって、原告X1は、適宜、本件土地の調査等を尽くしたというべきである」
したがって、法人等の事業者が不動産の売主となる場合の瑕疵担保責任については、期間制限を1年以下に設定する場合、従前の土地利用や取引の経緯に注意をする必要があるといえます。
売主「自社は宅建業者にはあたらない」と反論も…裁判所は“一蹴”
なお、売主側は、裁判では、反論として
「自社は貴金属、宝石類の卸売業等を目的とする株式会社であって、不動産の売買を業とするものではないから、消費者契約法の事業者にはあたらない」と主張しました。
これに対して、裁判所は
「消費者契約法2条2項は、事業者とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいうと規定するから、法人は、その業務との関連にかかわらず、事業者に該当するものというべきである」
と述べて売主の主張を一蹴していますので、不動産の売買の場合では、売主が不動産業者かどうかは消費者契約法の観点では関係がないということになります。
※この記事は、2019年8月31日時点の情報に基づくものです(2024年12月20日再監修済)。
北村 亮典
弁護士
大江・田中・大宅法律事務所
北村 亮典さんの記事でした!
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