10年前の6月、母が死んだ。
明け方に病院から連絡を受け、
脳梗塞後正常でなくなった父を
乗せ新宿へ向かった。
病室の母の目は既に死んでいた。
私は母の掌を握りしめ、なぜか
抓ったりもした。
凍った目は何も変わらなかった
入院後6ヶ月、真摯に対応してくれ
ていた主治医が私を呼んだ。
- どうするかい
- 終わりにしてください
母は死んだ。
葬式を終え、整理など少し落ち着いた
夕方私はジャズ・バーで飲んでいた。
不安だった‥ 妻、子ども、仕事‥
そして父のこと‥
静かなピアノが流れ、年配の女性
ヴォーカルの声が私を優しく包み
込んでいた。
涙が止まらない
Here's to Life
彼女は切なげに、しかし力強く歌う。
人生ってこんなもの
ゲームから降りたら負け
あなたの、私の
人生に乾杯
暫くしてマスターが寄ってきた。
- カウンターに来ませんか
- 見られちゃいましたか
- 見ました、聞きました
マスターはカウンター席の客に
ジンロックを作った。もちろん
自分のが特盛りだ。
- では人生に乾杯
- ワタシならお酒の飲める人生
にだなあ(客)
もうすぐ母と、5年前に死んだ父の
命日だ。
梅雨時はいつもなにかを想いだしながら
過ごしているように思う。
