これは俺たちがグランノエルのクリスマス時期に自分たちでできることから始めようと自発的に始めたことだった。
でもやはり今の自分たちにはできることが限られていて歯がゆい思いもしていた。
ジョンは薬が手に入らないことに苛立ちを隠せないでいたし、なにより自分が医師になると決めたものの、まだひよっこのひよっこだということにもイライラしていた。
俺は俺で、この状況から子供たちが抜け出せる手段は教育も視野にいれなければ堂々巡りなんだろうと考えていた。
食事を与えられるのをただ待つだけでなく
自立して自活していく手段やチャンスを与え、時間はかかるがそのほうが
この子たちの為になるんじゃないか?と
お互い帰り道は黙りこんで2月の終わりのロンドンの下町を歩いていた。
タウンハウスに帰りつくとジョンは自分の部屋に引っ込んだ。
普段ならリビングに直行するのに
部屋に引きこもる。
「言いたいけど言えない」
そういう時は引きこもる。そういうやつだ。
リビングに行くと執事のトマスが紅茶と手紙の束を持ってきた。
「温かい紅茶を召し上がりくださいませ、フレデリックさま。オックスフォードの教授からお手紙が届いております」
「ありがとう」
紅茶をのみながら手紙を開封する。
オックスフォードからの手紙は合計3通
ひとつは「大学研究室」から
ひとつは「ダウンタウンの教育について」
俺が書いた論文についての教授からの返答。
ふうん、そうか。やはり早めに教育に着手が同意見なんだな…
それから最後の一通は
こっそりジョンのゼミの教授から。
「医師試験と卒業についての単位についての
合格の知らせ」
これはまだ、ジョンは知らない。
クリスマスの時期に教授に頼み込み、こちらにも連絡してくれるようにしてもらっていたのだった。
やるじゃないかジョン。
おまえ、ちゃんと「合格」してる
「トマス。夕食まで出かける。
それとちょっと頼みたいことがある。ガラス瓶の、製造工場に試薬瓶やアンプル瓶をそれぞれあるだけ買ってきてもらいたいんだ」
「わかりました。お急ぎで?」
「ああ、すぐにだ。」
「わかりました。」
馬車の中でもう一度手紙を読み返す。
革職人の工房に着いた
注文していたものを見て、中身についてあれこれつけたしして説明すると
職人は「こんな細かい指示ははじめてですが、腕がなります。1週間で仕上げます」と
言ってくれた。ジョンの合格祝い
合格すると決めつけていたから先に注文していた「ドクターズバッグ」
薬局にいき、必要そうな薬草や薬品を買う。
木箱ごと買うというと店主は目を見開いていた。
「あの…実は奥にもっといいものが…」
「見せろ」
店の奥に入り、自分で材料を検品してピックアップして今必要なものをまるごと買った。
明日、全部納品してもらう。
夕食あとジョンはやっぱり自室に引っ込んだ。
イライラする
ドアノックしないでいきなりドアを開けた
(ほぼノックなんてしないが)
「リビングに来い」
「疲れてるんだ」
「嘘つくな」
「嘘じゃない」
「言いたいことあるなら言え」
「うるさい。一人にしてくれ」
「ノン。来い」
引きずりだしてリビングの椅子に座らせた
向かいあって座る
「言いたいこと言え」
「いうとケンカになるから言わない」
「馬鹿か?いいから言え」
しぶしぶ口を開いたジョンはやっぱり俺の予想通りの事を言った。
「で?おまえどうしたいんだ?」
「僕は…歯がゆいんだ。何にもできない。何にもしてあげられない。悔しい。自分に腹が立つ」
「本当にそうか?出来ることないのか?」
夜中まで話あった。
次の日、大学から帰ってきて
タウンハウスに届けられた大量の薬草の木箱やガラス瓶の山にジョンはあっけにとられていた。
「これ…何?どうしたの?」
「作りたいんだろ?
出来ることしたいんだろ?…やるぞ」
「うん…」
こうして今の自分たちに出来ることをはじめた
「ないなら作ればいい」
簡単な話だ。