J&F 番外編 〜 イギリス貴族について | Palace St. Grails

Palace St. Grails

ようこそ、「パレス サン・グレイル」へ。
19世紀ロンドン、二人の鍊金術師ジョンとフレデリックが生み出した「香り」が、時間と空間を超えて、数々の物語とともに蘇ります。
「世界基準で美しさと豊かさの循環を目指す」という当時から持ち続ける信念とともに・・・

皆さま、ご機嫌よう。

パレス サン・グレイルのマダムでございます。

 

2017年夏よりスタートいたしました「ジョン&フレデリックの物語」シリーズをご拝読いただきまして、大変ありがとうございました。

 

物語が進むにつれ、登場人物も増えたりしておりますので、近いうちにそのあたりもまとめてご紹介したいと存じますが、まず今回はこの物語の舞台となっております「貴族の世界」について少しお話しておきたいと存じます。どうぞ物語をお楽しみいただく、一つのエッセンスとなれますように・・・

 

 

わたくしたちがおりますのは19世紀終わり頃のイギリス。王族を頂点に構成される、厳格な階級社会が存在しております。

 

王族のすぐ下に存在する貴族には、実は長い歴史がございます。イギリスの貴族は、1066年にブリテン島を征服したウィリアム一世の騎士たちと軍隊から始まったと言われています。

貴族のお役目は中世の時代から、地方領主として政治を行うことと、戦争が起これば騎士として国王のもとに駆けつけるということでした。

 

貴族の称号には、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵がございます。完全に世襲制で、しかも「直系の長男のみ」が家督(爵位、領地、財産)を相続するため、数はそれほど多くございません。イギリス全土で600家ほどと言われております。これは他の国、たとえば王政復古時のフランスや「舞踏会」にもいらしたミハイルコフのロシアに比べると桁違いに少ないのです。ちなみにロシアには60万人も貴族がいらっしゃるとのこと。

 

これだけ限られた貴族が、イギリスの国内・海外の植民地のすべての領地を分割して所有していております。領地の管轄は貴族の大きなお役目の一つでございますが、そこから得た富でお城を造ったり、盛大なパーティーを催すのみならず、その領地の民たちの生活を守ることも貴族の大切な任務です。

 

ちなみにわたくしの祖父、父、兄であるアンリやフレデリックの父アーサーは、貴族議員として国政に参加しておりますが、これも貴族の義務の一つであり、無報酬で行っております。

 

そして「教会のこどもたち」を通じて、ジョンとフレデリックが目覚めて行く「ノブレス・オブリージュ」〜 高貴なるものの義務 〜のもう一つが、戦争には率先して駆けつけ、勇敢に戦うこと。わたくしの敬愛する友でもあるラッセル夫人のご子息も、先のクリミア戦争に向い、戻る事はございませんでした。戦争のたびに大勢の若い貴族が戦死しております。

 

華やかに見える貴族の生活ではございますが、譲り受けたものを次世代に繋いで行く、きちんと社会に還元していくというお役目も簡単なものではございません。ですが、一人ではできないことを皆で作り上げて行く・・・それを目指して、わたくし自身は館でサロンとシガールームを開催しているわけでございます。

 

実は今年の「グラン・ノエル」にて、ご招待させていただいた皆さまとお話させていただく中で、この貴族の世界も変わりつつあるということを切に感じております。

 

先ほど貴族は世襲制と申し上げましたが、最近は一代限りの子爵(ナイト)が増えておりますし、裕福な方達がお金で土地だけでなく、称号も買いあさる新貴族も増えております。

この100年間で貴族の数は3倍以上になっているという事実もございますのよ。まだまだ増えて行きそうな勢いも感じております。その一因としましては、海外の植民地からの安い穀物が大量に輸入されるようになり、貴族が自身の領地の小麦の収穫から得る収入では生活が立ち行かなくなったという現実問題もございます。

 

その変化の中で生じるひずみのようなものが、シガールームにも影響を与えつつあるようです。

 

さて、ジョンとフレデリックが壮年期になる頃には、どのようになっているのでしょうか。

まだしばらくの間は、サロンと、そしてシガールームで二人を見守ってまいりたいと存じます。

 

新しい年もどうぞ「ジョン&フレデリックの物語」をお楽しみいただけますよう、心よりお祈り申し上げております。