BLACK 20話 ―少年のトラウマ― | 雨の降る夜

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ほとんど小説オンリーです。

「部屋はここを使ってください。 ベッドはすでに注文したので後で取りに行きます。 他に必要な物があれば、町を案内するつもりですのでその時に」


そう言ってカレンに案内されたのは、最初に看病されたクロの部屋と同じくらいの、1人部屋にしては少々大きい部屋だった。机だけポツンと置かれているのが余計に広く感じる。


「ありがとう。 何から何まですまないな」


「かまいません。どうせ使ってない部屋ですから」


カレンは相変わらずの無表情で答える。


「前はシグが使っていたのですが。 シグは研究室にこもりっぱなしでほとんどこの部屋には来なかったのです。 最終的にベッドまで運んでしまいました」


向かいの部屋はクロの部屋、左隣はカレン、そのまた左はカノンの部屋だとも教えてくれた。


他の部屋も案内する、と言われて、ダイニングルームに移動する。


入口から入って目の前にあるのがこのダイニングルームだ。


食事は基本カレンが作るが、全員が揃って食べることはごく稀にしかないそうだ。仲が悪いという訳ではなく、仕事で引切りなしに誰かが出ていくためだ。


そこから右の通路に行くとそれぞれの部屋。2人は左の通路に進む。


「ここが医務室です。 説明の必要はありませんでしたか」


何日も寝かされていた部屋は流石に知っていた。


「隣は第一研究室、またはシグの部屋です」


向かいは書斎があり、その他いろいろな物置きの部屋があり、さらに奥の、突き当りの床にある扉が――


「ここは第二研究し「『A.S』だ」


突然現れたカノンがカレンの言葉を遮った。


「帰っていたのですかカノン。 ここは第二研究室です」


「何故『A.S』なんだ?」


カレンが無視しかけたカノンの発言を、リイアが拾う。


「『(A)開けたら(S)死ぬぞ』だ」


「…………」


「そう呼んでいるのはカノンだけです。 私達は通称『第二』と呼んでいます」


「これ以上ぴったりなネーミングはないぜ。 本当に、ここから先は恐怖の館だ。 特にシグがここに入って3日間以上出てこない時は絶対に入るな」


凄みのある声でカノンは言う。


その時、


「人聞き悪いなー。 普通の研究室だよー」


床の扉が開き、シグレが中から出て来た。


「わっ! お前中にいたのかよ」


「カノン君が来た頃あたりから聞き耳立ててたんだよー」


「ならすぐ出て来いよ! ビビんだろ!」


というカノンのつっこみを無視して、


「ここはねー、僕が治療用じゃない薬を作ってるとこなんだよー」


シグレがリイアに言う。


「……? 治療以外に薬の必要な場所なんてあるのか?」


「あるよー。 一般的に毒って言われるものだねー」


「ど、毒!?」


「何を今更驚いてんのー。 リイア君の世界では無かったのー?」


「いや、あるにはあるが……」


ホームメイドの毒は初めて聞いた。


「あ、そうそうー。 君が殺しかけた男にさー、注射打ったでしょー?」


「……あぁ」


『殺しかけた』男。


出来ることなら無かったことにしたいものだった。


あれだけの出血をさせたのだから、普通なら死んでいるはずだ。


あの時は気が動転していたが、確か注射した後あの男が死んだように動かなくなって、でも死んでなくて。


「あの時の薬も僕のオリジナルでねー。 人間を仮死状態にする薬なんだー。 心臓が止まることはないけど、人体活動は止まるねー」


「仮死状態にする薬を持ち歩いているのか?」


「だって考えてもみなよー。 ハンターを狩るって言っても、僕等が人殺しをしちゃ、本末転倒でしょー?」


「あ、」


確かに言われてみればそうだ。


ハンターを狩るための人殺しが合法とされるのなら、ブレイカーもハンターも変わらないだろう。


「前は生け捕りにして牢屋に放り込んでたんだけどねー。 それでも誤って殺してしまうってのは少なくなかったんだー」


「……凄い」


「えー?」


「シグレは凄いな! 本当に凄い!」


「……シグでいいよー。 君もBLACKのメンバーなんだしねー」


シグレが照れたように言う。


「シグ、お前のおかげで命を救われた人間は相当な数になるんだろうな」


「『命』はねー。 ハンターとして1回でも人を殺したら、その人は罪人なんだー」


「それでもだ。 私もお前に救われたしな」


「俺はシグに殺されかけたけどな」


カノンの言葉に、リイアが驚いてシグレを見る。


「えー、カノン君まだあのこと根に持ってんのー?」


「当たり前だ!!」


そう言い怯えた目で第二研究室への扉を見る。


「あのこと、って何だ?」


「俺はシグレに毒薬の実験台にされかけたんだ」


「…………」


「無意識だったんだよー。 僕に非はないと思うんだー」


「あぁ、確かに完全にイってる目だったよな。 俺が何を叫んでも聞こえてなかったよな。 調合する薬の名前を呪文みたいにブツブツ言ってたもんな」


カノンの体が微妙に震えているのは気のせいだろうか。


「あの時クロが来なかったらどうなっていたか……」


「今生きているのだから良いではないですか」


「あの恐怖は一生ついてくんだよ!!」


「まぁ悪気はなかったんだ。 許してやれ」


「許すか! 俺があの扉を見ても震えなくなったら許してやるよ。 絶対そんなことありえねぇけどな!」


そう言ってカノンは自分の部屋へと歩いて行った。


「大丈夫だよー。 そんなことごく稀にしかないからー。 あ、でも勝手に入るのはやめてねー。 何が起こるか分からないからー」


ごく稀にあるのか、と思いながらも、


「分かった」


リイアは素直に返事をする。


「あ、忘れるとこだったー。 リイア君、手出してー」


言われたとおりに手を出す。


「はいこれ。 クロ君が自警団からもらってきたんだよー」


そう言ってシグレが渡したのは、小さなバッチだった。


「これで君も正式なブレイカーだよー。 自警団からハンターの出没場所の連絡が入るから、遠慮なしに狩りに行ってねー」


金とも銀とも言えない色で複雑な模様が裏まで彫られた、ブレイカーとしての証。


リイアはそれを、強く握りしめた。



















■□■□■アトガキ■□■□■

アト「結局、カノンとシグレのエピソードを出したかっただけっていうね」


レイン『そ、そうだよ! 何か悪いかい?』


「開き直りやがったこいつ。 数学ボロボロなくせに」


『それは関係ないでしょ!? 期末とかほとんど一夜漬けなんだから実力なんてついてるわけないんだよー!』


「管理人は今日実力テストがありました。 特に数学が難しかったです。 死ぬかと思いました。 死ねばいいのに」


『日記!? しかもなんか最後恐いこと言ってるよ!?』


「今日、管理人は深夜0時に切断されます。 疲れました」


『疲れるとか言う次元じゃないよねこれ。 確実にチェーンソー回ってるよねこれ』


「大丈夫。 近所迷惑にならないよう、悲鳴を上げる前に片づける」


『アトちゃん、そんなこと言っていいのかな? 友達からリクエストが来てるんだけど』


「なっふざけるにゃ! 管理人コロスにゃ! ちょっ、元に戻すにゃー!!」


『はい、猫耳アトちゃん(語尾はサービスで)の完成です! うへへへ』


「にゃんで絵、描けにゃいのに無理して猫耳なんて付けようとするんだにゃ!? さっさと戻すにゃー!!」


『はっはっは。 オプションでつけた猫手が上手くいったね。 チェーンソーの心配がない』


「コロスにゃ! 絶対コロスにゃー!!」


『その語尾じゃ迫力ないよー……ふぎゃあ!!』


「あ、頑張ったら爪出たにゃ。 ニヤリ」


『まさかの展開! アト猫め、このタイミングで奇跡呼びやがったぁぁぁ!』


「覚悟にゃぁぁぁぁ!!」



アトガキが長いと自分で思う。姉にも指摘されました。


でも猫じゃらしやマタタビで遊びたかった……。


アト猫め……。