こんにちは,B4の米山まうむです.

現在運用中の2UのCubeSatひろがりは着々とミッションをこなし,先日(12/6)はひろがりの成果をまとめて発表する機会として記者会見も行いました.報道各社のみなさまにひろがりを記事にしていただけて大変ありがたく思います.

 さて,ひろがりも放出から約9か月が経ちましたが今でも宇宙で元気にしています.電源系の人間としては興味があるのが太陽電池の劣化具合です.太陽電池による発電は衛星のエネルギーの源であり,これが途絶えれば衛星はバッテリが尽きてすぐに死んでしまいます.ひろがりの場合,運用期間が短い(1年程度)ためそれほど問題にはならないと思いますが,もしそういった変化が追えればおもしろいなと思った次第です.

 ここで軽く衛星の外側を見ておきますと,写真にあるように大きな台形のパネルが12枚,小さい三角形のパネルが40枚が四方八方に貼ってあります.

 

ひろがりの外観

 

ひろがりでは宇宙用のGaAs太陽電池を使用しています.GaAs太陽電池は効率が良いですがお値段が張るという代物です.太陽電池を張り付ける際は諭吉さんが何度も頭をよぎりながら作業していました.
(全然関係なくぶっこみますが,(福沢)諭吉さんの次は(渋沢)栄一さんですね,NHK大河の吉沢亮さん(栄一役)の断髪シーンめっちゃ推せません?共感してくれる方いません?)

 

一枚数万円の太陽電池をマウントパネルに(諭吉の圧を受けながら)張り付ける様子

 

 ひろがりはこのような太陽電池パネルから電力を得ているわけですが,宇宙では放射線や温度変化などの過酷な環境によって太陽電池が劣化します.この劣化具合の有無を見るべく太陽電池からの電流データを見てみようと思います.ひろがりでは5面全6ケ所の電流値を見ることができます.ただしここで問題があります.太陽光の当たり方によって電流は変化します.そして太陽光の当たり方は姿勢によって変化し,その姿勢はというと,ひろがりの場合回転しています.そのため一定期間の最大値を求めて比較しようと思いますが,この電流値のデータは150秒おきに保存されたデータであり,果たしてこの中に最大値が含まれるのか?という問題があります.運用初期や数か月後に確認していた際には,概ねデータシートのスペック程度の値が確認できていたので今回も同様の値である分には劣化が起きていないと判断できるかな?ということで,とにかく計測データから最大値を抽出してみました.以下がその結果です.運用初期と最近における一定期間(3~5月と10~11月)の最大値を比べています.

 

各パネルの太陽電池の電流値の一定期間における最大値

 

これを見る限りはメインの台形の太陽電池に劣化はなさそうです.三角形の太陽電池は展開パドルに貼られているので,3~5月の値はパドルの展開(3月30日)前の最大値であり,10~11月の値はパドルが展開したことで太陽光の当たり方が変化し,値が小さくなったものと考えられます.なお+X面については運用初期からパネル面積に対して半分の電流量となっており,2直2並列の並列のどちらかが死んでいるようです.ということで劣化はなさそうという結論となりました(若干そんな程度の検討で大丈夫??という部分もありますが...).こういう検討をしているとこういうデータが取れたらいいのになと感じる点もあるので,次の設計に生かしていけると良いなと思います.

 以上,こんなところで失礼したいと思います.ひろがりが元気そうでなにより...

 

 

P.S.

 太陽電池の劣化に関する検討例がどっか(インターネット)に転がってないかなとグーグル先生で調べてみると,X 線天文衛星「すざく」に関する資料(「X線天文衛星すざく太陽電池パドルの軌道上発生電力解析」)が見つかりました.6年目あたりでガクッと発生電力が落ちたようで,セル温度や放射線劣化による影響が検討されています.最終的な顛末は「X線天文衛星「すざく」 ―打ち上げから現在までの経緯」におおまかに記されていました.もし関心がある方がいらっしゃればどうぞ.これを見ると季節変化とかもありそうだから今回の検討の妥当性...