こんにちは.B4の上田滉也です.今年もあと一ヶ月を残すのみとなり,あっというまだったなあとしみじみ思う今日この頃です.今年の6月に「SSSRCの読書の輪を広げよう」というブログを書き,その後多くの皆さんがオススメの本を紹介してくれて,読書の裾野の広さを感じています.
1. はじめに
さて,今回のブログは題名にある通り,SSSRC学生有志で参加した「第29回衛星設計コンテスト」について書いていこうと思います.まずは概要について簡単に紹介します.このコンテストは,『高校生から大学院生までの学生を対象にした、コンテスト形式の教育プログラム』(衛星設計コンテストHPより原文ママ)であり,JAXAや日本機械学会など各種学会・組織により実施されています.本コンテストには,ミッションを含めた衛星システム全体を設計する「設計の部」,ミッションアイデアの独創性・有用性を競う「アイデアの部」,高校生以下の児童生徒が競う「ジュニアの部」の3部門があります.3部門のうち,私達は「設計の部」に取り組み,『ワイヤレス電力伝送実証衛星「Wi SAT」』を設計しました.審査の結果,本衛星は「電子情報通信学会賞」という身に余る賞をいただきました.(衛星設計コンテストと書くと少し面倒なので,以下では英語名称の頭文字をとって,SDCと呼称します.)
SSSRCがSDCに取り組むのは,SDC HPを見る限り2008年の第16回大会から13年ぶりとなるようです.ですので,引き継ぎ書類が一切残っておらずとても苦労したので,今回アメブロという形で引き継ぎ書類を残すことにしました.内部的にはもちろんword,紙媒体でも書類・データ等を残していますが,長い期間を経ると書類はどっかにいっちゃうんですよね...アメブロはこれらの書類が全て消えたときでも,もしかしたら後世の人の目に触れる事があるかもと思って,今ブログを書いています.よって,今回のブログは引き継ぎ書類としての役割も兼ねているので,かなり冗長になります.時間・興味があれば目を通していただけると幸いです.なお,設計書類(解析書)はSDCの公式HPで公開されているはずですので,そちらでご覧ください.(2021年11月現在はまだ非公開のようです.)
以下で,時系列に沿って第29回SDCの軌跡について書いていきます.ちなみに,私はSDCのプロジェクトマネージャー(PM,最高責任者的な役割)とミッション設計,構造設計(のごく一部)を担当したので,これらに関する記述が多めになります.
2. 2021年4月~7月までの経過
SDCの設計の部では,衛星システム全体(ミッション設計,構造設計,熱制御,姿勢制御,電源設計,コマンド・バス部設計,通信設計)について検討し,その結果をまとめた「解析書」を7/5 正午までに提出する必要がありました.本章では解析書の提出にいたるまでの経過について述べていきます.
2.1 4月 「SDC始動! ミッションどうしよう??」
2月に弊センター2機目の超小型人工衛星「ひろがり」の打上げがありました.とても嬉しかったですが,実は今のB4以下はその開発にはあまり関わっておらず,衛星をどう設計すればよいのか全くわかっていない状況でした.「このままじゃ次の衛星作れんくね??」と思って,私が「SDCやらない?」と声をかけ始めたのが3月の終わりのことでした.みんな乗り気でメンバーはすぐに集まりました.
今後の方針について検討する最初の会議をするにあたって,まずWBSを作成しました.下図のように,私の方で全体の締め切りを設定して,各系に系ごとのWBSを作成してもらうよう依頼しました.また,始動が4月と遅く,「これは1週間に1回進捗会議をしてたら間に合わんわ」と思ったので,進捗会議は3日ごとに開催することにしました.ただし,高頻度であるので1回の会議時間は30分未満とし,メンバーの負担が過剰にならないよう配慮しました.そんなこんなで最初の会議を終え,「衛星で何をするのか」を考える「ミッション検討」に移ります.
ミッションを検討するにあたっては,各メンバーにミッション案とその根拠となる論文・記事等を探してきてもらい,進捗会議で発表するという形態をとりました.色々と考える中で「俺らが考えるミッション,大体他のところがやってるやん...」という絶望を味わいましたが,なんとかどっこい検討を進め,4/9時点で3つの案まで絞りました.そこからはより詳細に実現可能性・意義等を検討し,4/14に「ケーブルレス衛星」を作ろうということに決定しました.
ケーブルレス衛星としては,「電力伝送路を無線化する」もしくは「データ伝送路を無線化する」という2つの方向性がありますが,「どっちが面白そうか」という投票の結果,前者に決定しました.次に具体的な実現方法ですが,ワイヤレス電力伝送には「電磁誘導方式」「電波受信方式」「磁界共鳴方式」の3つがあります.一番最初のものはスマホの充電など身近で最も広く使われている方式ですが,送信距離が数mm程度で応用が利かないという点で却下,真ん中のものは宇宙太陽光発電で検討されている方式で,伝送距離が数万kmとハチャメチャに大きいのでこれも却下.残った3つ目は数cm~数mの中距離で電力伝送でき,しかも送受信コイルの位置ズレにも強いということで,これを採用することにしました.下に10月に作成したミッション部ブレッドモードモデルの実験動画を置いときます.動画より,コイル間距離が大きくなったりコイルの相対角度が大きくなったりしても青色LEDが点灯していることがわかり,「中距離・位置ずれに強い」という磁界共鳴方式によるワイヤレス電力伝送の良さが見て取れるかと思います.
ミッションの輪郭がはっきりしてきた4/24あたりから,「ミッションを行うのは各系にはどんな機能が必要か」を考える「要求分析」を行いはじめました.ちなみに,この頃に緊急事態宣言が発出され,活動は全てオンライン(slackでの連絡,zoomでの進捗会議・作業)になりました.
こんな感じで,駆け足でミッション検討を行ったのですが,この駆け足は後に問題となりましたが,それはまたブログ後半で...
4月時点でのWBS
低サイト全体の行のみ私が作成しました
SSSRCのYouTubeチャンネルに飛びます.
他の動画もぜひご覧ください!
2.2 5月 「ミッション,何もわからんわ...」
5月からは具体的な設計検討に入っていきましたが,いかんせん私も含めた全員,衛星設計に関してはほぼ素人状態だったので各自設計に必要な知識を学習しつつ,設計を進める感じになりました.また,5/4にミッション設計を担当する「ミッション系」を組織し,具体的なミッション設計もスタートしました.各系で設計を進めるにあたってはミッション設計(どのくらい電力使うかとか,発熱するかとか)を先に決めないといけないんですが,「磁界共鳴方式による電力伝送」は誰もやったことがなかったので,ここでめちゃくちゃ苦戦しました.ネット上の英語の論文を読んだりしてなんとか設計しようとしますが,とっっても難しく,進捗が生めない状態がしばらく続きました.こんな状況だったので,各系の設計もなかなか進まず,加えて自宅での自粛の関係で他のメンバーの作業も見えないので,設計全体が停滞していきました.
「流石にこのままじゃヤバい」と思ったので,5/22にzoomで「もくもく会」を開催しました.「もくもく会」とは,「特定の場所に集まって,各自別々の作業をして進捗を生もう!」というものらしく,対面での話し合いはできないものの,せめてオンラインで互いに議論して開発を進めるために実施しました.実施にあたっては,zoomのブレイクアウトルームで各系の作業部屋を作って,なにか聞きたいことや検討したいことがあれば自由に部屋を移動してもらう感じにしました.各系の綿密な連携が非常に重要な初期設計において,「もくもく会」のような場所を設定できたのは幸運だったなあと思います.なぜ連携が重要かというと,衛星のサブシステムは互いに複雑に関係しあい,ある部分での設計変更が影響を及ぼす範囲がとても広いからです.例えば,電源系が「バッテリーを変えたい」と思った場合,「大きさ的に入るか」(構造系),「バッテリの許容温度範囲は?」(熱系),「電力の供給量はどれくらい?」(姿勢系,C&DH系,通信系,ミッション系)というふうに多くの系と折衝しないといけません.こうした話し合いはもちろん文章でもできるんですが,文章を書くのは口頭よりやっぱり大変じゃないですか(今もブログを書きながら文章書くのって大変だーってなってます).できれば口頭でチャチャッと済ませてしまいたいので,そうしたおりに「もくもく会」を行うことができて,良かったと思います.
そんな感じでもくもく会を複数回実施したのですが,依然ミッション設計は固まらず,「これは論文とか読んでどうにかできる問題じゃないわ」と思ったので,「グリーン・エレクトロニクス」という雑誌に載っている回路をもとにミッション回路を設計していくことにしました.自粛生活を粛々とこなしながら,その一方で開発のタスクに苦しみながら5月は過ぎていきました.
もくもく会で設計検討した際に書いた図
画面共有と各種ソフト・サービス(OBSとかJamboard)を駆使すれば,案外オンライン上でも作業ができる.
2.3 6月 「対面授業とSDCの両立ムズッ!」「あれ?もう6月末??マズくね???」
6月からは講義や演習・実験も対面で行われるものが多くなり,課題に追われつつ設計をする日々が続きました.プロジェクトの進行を管理する私も講義や研究室での活動に追われるようになり,活動との両立に苦労しました.設計においては,徐々に各系で使う機器や使用電力・通信速度・姿勢制御方法について仕様が固まってきていました.がしかし,6月中旬あたりから姿勢制御の部分でどん詰まりになってしまい,関係する各系で協力しつつなんとか困難を乗り越えていきました.
そんなこんなで設計を進めていっているなか,ふとカレンダーを見ると,もう6月末.この時点で解析書の総ページ数は5ページ程度(37ページ程度書くのが標準).「あれ?これって相当マズくね?」とそのとき思いました.私の大きな反省点なのですが,このときタスクのスケジュール管理はほぼしていませんでした.言い訳をすると,私自身ミッション系の設計でキャパがなかったこと,あくまで自発的な活動なので締切を強調してやる気を下げたくなかったというものがありますが,PMとしては相当ダメだったなあと反省するばかりです.ただ,締切が迫ってくるとむしろタスク管理はやりやすくなるようで,ここからは進捗報告会毎に次の会議までの成果物を明確に示したり,もくもく会を設定して進捗を生みやすくしたりとPMとしての仕事をしていきました.
6/20頃のslackでの会話
この頃から全体的に焦りが出てきて,slackでのやりとりが今までに増して活発になる
2.4 7月 「wordぶっ壊れた?!」「解析終わらん...」「間に合うか,これ」
6月末から毎日のように各自作業を進めてきましたが,細かい設計の部分は詰めきれず7月に突入します.締め切りが間近に迫り,精神的に追い詰められつつ設計を進めていきました.細かい設計のすり合わせと同時並行で解析書の執筆(word)も各自進めてもらいましたが,wordを同時編集する機能を使っているにも関わらず,他の人の書いた部分が消滅するという現象が相次ぎました.どうやらwordを開きっぱなしでしばらく「保存ボタン」を押していなかった人が文書を保存してしまったことでこうした現象が起こってしまったようです.血反吐を吐きながら書いた解析書が消えてしまうのを防ぐべく適宜バックアップを取るようにしました.
また,解析書には衛星がロケット打上げ時の振動に耐えられるかを示す「構造解析」と,各機器の温度が許容温度範囲内に収まるかを示す「熱解析」の結果を示す必要がありましたが,詳細な設計を固めるのが遅れたため,これらの解析では地獄を見ました.私は構造解析の一部を担当しましたが,本当に不安でたまりませんでした.「解析失敗」と赤字で出てくる場合はまだいいですが,解析が通ったにも関わらず,その結果がトンチンカン(固有振動数が小さすぎる,部品がどっかに飛んでいく)だともう本当に泣きそうになりました.結局構造解析が全て問題なく終わったのは提出の18時間前,7/4 18時頃だったと思います.(熱解析はもっと大変で,7/5未明に完了しました.本当にお疲れ様...).開発の遅延はほんとにダメだなあと思うとともに,スケジュール管理の大切さを実感しました.
さて,そんな感じで7月に入ってからは研究室の用事を放り投げて,毎日夜中まで開発を続ける日々が続きました.特に7/4(解析書提出締め切り前日)はみんなで必死になって解析書を書きました.7/5 朝3:00くらいに解析書の執筆が大体終わり,体裁・文章の見直しを経て,同日朝7:00に提出が完了しました.
7月に入ってからの追い込みは本当に大変でしたが,メンバーの皆さんにはどれだけ感謝しても足りないくらい感謝してます.(私はなんだかんだ終わってしまえば「楽しかったねー」とかなんとかになってしまいがちなんですが,しっかり反省しないとなと今あらためて痛感してます.)
解析書締切前日のメンバーのお昼ごはん
この頃はご飯が唯一の楽しみでした.
私は昼抜きで構造解析を行っていたので,正直泣きそうでした...おいしそーやなあ.
8時間分の進捗が消し飛んで焦り,@channelで通知を飛ばしまくるPMの図
20:10にアーカイブを取っていたので九死に一生を得た
2.5 7月までを振り返っての反省
- タスク管理はPMたるもの絶対に行う.タスクの進捗が遅れると結局はメンバーに後々負担をかけることになるので,遅れは早めに挽回する.
- 進捗が停滞していると思ったらできる限り早く関係者を集めて,何が問題なのかを明らかにし,方針を決定する.
- みんなが楽しく開発できるように努める.左記は今回私がPMを務める上で最も重視したことなんですが,やはり自発的な活動である以上,楽しいものでないとやる気も湧いてこないと思っていました.みんなが「SDC楽しかったなあ」と思ってくれていれば,本当に嬉しいです.
3. 2021年9月~11月までの経過・最終審査会の感想
7/5の解析書提出を終えたあと,一旦反省会を行い,9月までは一次審査の結果を待っていました.審査の結果,無事一次審査を通過したときは本当に嬉しかったです! 9月中旬くらいから審査員の先生方から「もっとこうしたらいいよ」ということなどが書かれたコメントを受けて,設計の修正を行っていきました.設計の修正にあたっては,修正すべき設計毎にAI(Action Item)を設定し,そこに各系から人員を派遣してもらう形を取りました.ちなみに,審査員の先生からの質問票回答締切が11/5 17:00,改訂版解析書・最終審査会の発表スライドの締切が11/8の17:00,設計した衛星のモックアップを紹介する動画の締切が11/11正午でした.
10月に入ってからは,私が教育実習で忙しくなり,なかなか活動に注力できない時期が続きましたが,皆さん本当によく頑張ってくれました.ただ,やはりタスク管理が上手くいかず(特に10月後半が教育実習で対応不可能だった),11月前半は地獄を見ました.私も反省を活かしきれておらず,不甲斐ないばかりです.
この時期で一番大変だったのはEMC(電磁両立性)の解析による検証です.コメントで指摘されたのですが,本衛星は高周波の交流電流をコイルに流すので,コイルから発生する磁場が通信機等の各種機器に悪影響を及ぼさないことを示す必要がありました.その解析にはFEKOというソフトを使ったのですが,非常にクセのあるソフトで,使い慣れるまでにかなり苦労しているようでした.この解析が終わったのも訂正解析書の締め切り8時間前くらいと非常にギリギリで,結構心臓に悪かったです.
結局,各種提出物は締め切りギリギリでの提出となり,最終審査会前日も予備スライドの作成を夜中まで行いました.
3.1 最終審査会
一次審査を通過した学校は11/13に開かれる最終審査会で衛星の概要の発表と質疑応答を行う必要がありました.ちなみに,設計の部では私達以外では北海道大学,東京大学と錚々たる大学が一次審査を通過しており,とても怖かったです.
発表自体はつつがなく進行しましたが,質疑応答ではミッション意義に関して厳しいご指摘を多く頂きました.具体的には,私達が実証しようとしていた電力伝送は数cm程度で,応用が限られること,原理的に宇宙でも地上と同じ電力伝送結果が得られるはずだから,地上での試験で十分であることを指摘されました.ついにここで,4月序盤にミッション検討を急いで進めてしまい,ミッションの意義について詳しく検討しなかったツケが回ってきたのでした.
最終審査会時のYouTube配信画面
発表の後,「なんかYouTuberの謝罪会見みたいやな」と複数の友人から言われたのはナイショです.
4. 後輩の皆さんにつたえたいこと
以上,SDCを走りきって,後輩の皆さんに伝えたいことを以下に列挙します.
- タスクの締め切りは必ず守る,守ってもらえるようにPMは働きかける.
- 軌道設計は入念に行う.今回のような概念設計の段階で,ISSからの放出軌道などの既存の軌道にとらわれる必要はなくて,ミッションにとって最適な軌道を設計するようにしましょう.
- ミッション検討は時間を多くとって,多くの議論を重ねること.ミッション意義・背景の検討が不十分だと,どれだけ衛星が上手く設計できていたとしても,存在意義そのものが危うくなります.「なぜ宇宙でやる必要があるのか」「実証したい技術の具体的応用は?」という質問に明確に答えられ,かつ反論のしようがないほどまでに詳しく検討しとくと吉.
- 楽しく開発する.これはほんとに大切です.
- 守りに入らない.今回はノウハウ的な観点から2U衛星で設計してしまいましたが,結果としてこれがミッション意義を弱くする原因になってしまいました.もっと大きな衛星で概念設計をすることを強くおすすめします
5. 終わりに
- 中村明「語感トレーニング -日本語のセンスをみがく55題」(岩波新書): 「給料」「給与」など同じことを意味するのに,その語から喚起されるイメージがなぜ違うのかなど,多様な日本語について学べる.結構おもしろい.
- 塩川伸明「民族とネイション -ナショナリズムという難問」(岩波新書): 今年の夏にあった「映像の世紀」の再放送を見て,ナショナリズムについてより詳しく知りたくなったので読んでいる.もっと中学生のときの社会の授業を真面目に受けといたら良かったなあと思う次第です.
- V.E.フランクル「夜と霧」(みすず書房): 教養として知っておくべきというだけでなく,WW2でのユダヤ人迫害に関心がある(迫害などの辛い出来事を今後起こさないために知っておきたい)ので読んでいる.






