どうもこんにちは、修士2年の長澤です。皆さんはGWをどのようにお過ごしでしょうか?
私は研究と資格(第一級陸上無線技術士)の勉強がもっぱらになりそうです。
それはそうと、このLittle By Littleも早いもので第4回です。書き始めたのは良いものの、
思っている以上に書きたいことが多く、ここまで来てしまいました。前回で遂に手詰まりに
なってきた私どもでありますが、ここから事態は急転します。
ひろがりは、そして運用メンバーはどうなったのか、さあ見ていきましょう。
JAXAから送っていただいた写真
前回の最後で述べましたように、19~20日の運用は、リモートで参加していた人を省くと
二人しか参加できておらず、メンバーの運用へのモチベーションが底となってしまった日でした。
ですが、同時に一筋の希望が見えた日でもありました。
放出後にJAXAに依頼していたことなのですが、放出時のひろがりの高画質画像を
送信していただけるようにお願いしていました。ひろがりは、底面にある二つのスイッチが
解放されることで33分後に電源が付く作りになっているのですが、このスイッチが
解放されているかを確認したかったのです。そして同日、依頼していた画像が遂に届いたわけです。
送っていただいた画像を、心臓をバクバクさせながら見ていきました。そしてある一枚の
画像を拡大したとき、スイッチが解放されているかどうか、ある程度の見極めがつきました。
JAXA提供のひろがり放出時の高画質画像(二つの赤丸がスイッチ部分)
「これスイッチは解放されてるんとちゃうか!?」
この画像を見て、私もかなり勇気が誘起された…失礼、とにかく「アンテナ展開できてないから
受信できていない」可能性が高いならまだいけるぞ!と奮い立ったものです。
JAMSATシンポジウム2021への参加
ひろがりはアマチュア無線帯を利用して通信している衛星ですので、JAMSAT(日本アマチュア
衛星通信協会 https://www.jamsat.or.jp/) の方々へ自分たちの活動を報告するのが礼儀です。
3月20日に開催されたJAMSATシンポジウム2021にて、現状のひろがりの運用を発表しました。
発表後の質疑応答の際に、参加者の方々から、「これまでにアンテナが未展開でもCWを
受信できたケースはあるし、ひろがりに当てはめてみても可能性は十分にある」というご意見を
いただきました。大ベテランの方々からそう言っていただき、昨日の画像の件も合わせて、
精神的にだいぶマシになったことが思い出されます。ありがとうございました。
決戦は21日
現状、「アンテナ展開していない」 or 「電源周りの故障」のどちらかである可能性が濃厚である
以上、前者に願いをかけて、天頂付近を通る(仰角80度以上)パスを万全な状態で迎える必要が
あります。20日のパスでは、残念ながら一番良くて40度程度なので、80度後半となる明日21日の
深夜のパスが勝負です。
これまでにも1, 2回天頂付近のパスがありましたが、そのときはまだ衛星のTLEが定まっておらず、
また仮にそれがちゃんとひろがりの軌道を捕えていたとしても、衛星の見え始めから追跡を
行っていたためズレがかなり大きくなっていた可能性が大です。しかし、今回はある程度自信を
持ってTLEを選定出来ていますし、一番いいところを捕えるために、衛星を最初から天頂付近で
待ち構える戦法をとるつもりです。これまでで一番の盤石な体制です。これまでの解析はこのために
あったと言っても過言ではありません。
また技術的な条件だけでなく、願掛けも万全です。放出時から日々心の支えだった「日めくり
まいにち修造カレンダー」(ご購入はこちらからhttps://www.amazon.co.jp/dp/4569820786/) も21日は
『次に叩く一回で、その壁は破れるかもしれない』となっていました。「次に通るパスで、CWが
聞こえるかもしれない」、「次の自動アンテナ展開でアンテナが開くかもしれない」など運用メンバー
共々、好きに置き換えて己を鼓舞していました。

出典: [日めくり] まいにち、修造! 心を元気にする本気の応援メッセージ, 21日目より
以前に飛行神社に願掛けに行った話をしました。実は団体として、もう一つ電電宮(
https://www.kokuzohourinji.com/dendengu.html)と呼ばれる電気・電波の守り神を祀る宮にも
参拝していたのですが、その時にメンバーの一人が代表して引いた御籤に次のような記載が
なされていました。
「思わぬ方よりたすけを得て仕合せよし」
これは修造さんが導いてくれるのではないか!? などと個人的に思っていました。
明日はきっと何か起こる気がする。そんな予感がした20日の運用でした。
電電宮の看板とおぷー、おみくじの結果
21日...その時は来た
人間、気分が高揚するとなんでもできる気がしますが、冷静になるとその落差は大きく、
逆にどうにもならないだろといった体になります。つまり何が言いたいのかというと、昨日と
打って変わって皆淡々としていました。「今日も何も進展しないかもね」といった感じです。
ただ昨日の今日なので、これまで運用に主に関わってきたメンツがほぼほぼ集まっていました
(燃え尽きたメンバーの一人はシン・エヴァンゲリオンを見に行っていました...)。
言ってしまうと今日のメインは深夜の天頂付近のパスですので、それまで皆、ほげーっと
過ごしていました。そして20時30分頃、「あまり仰角の高くない(10度以下)パスだし、
他の衛星のCWでも確認するか…ワンチャン自動アンテナ展開で開いているかもね」
などと思っていた時、ついにその時が来ました。
衛星運用一番の功労者B4の森瀧君が受信電波のスペクトル(受信電波のどの周波数成分が
強くなっているのかを表示したもの)を眺めていると、あることに気づきました。
「なんかひろがりの周波数帯にほとんどフィットした形で信号を捕捉していないか?」
ほんの少しずれてるけど、ひろがりの周波数帯でドップラーシフトしながら届いている電波が
あることに気づいたのです!現時点で府大の上空を飛翔するこの周波数帯の人工衛星が
ひろがり以外に無いかを確認しつつ、その場にいたメンバー総出で、CWの音とスペクトルの
強度からひろがりであるかを判断します。最初に「HRG」のモールスが判読できれば
まず間違いなくこの信号はひろがりから送られてきた信号です。そして…
・・・・ ・―・ ― ―・
(CWの音)トゥトゥトゥトゥ、トゥトゥートゥ、トゥートゥートゥ
「H..R......G!!!!!うおおおおおおおおおお!!!!」
ついに七日目にしてひろがりのCWを受信することに成功しました!!!その後ひろがりの
コールサインも確認してこの信号が正真正銘ひろがりのものであることもわかりました!!!
さらにはデコードソフトを用いてCWに載せた情報も読み取ることに成功しました!!!
<CW受信成功時の報告>
タイミング的には定期アンテナ自動展開直後のパスでしたので、自動展開が8度目にして
成功した可能性が高いと考えられます。まさに七転び八起きのニクロム線騒動。
そしてCWデコードの成功によって次のことがわかりました。
- バッテリーは満充電
- バッテリー温度も20℃付近で最適な温度
- 受信強度は他の衛星と比較しても、かなりしっかりしている(しかも低仰角)
- 電源投下後の計測経過時間から判断して、放出後無事に電源が入っている
- 異常検知がなぜか14回カウントされている(今後どこかで話しますが、問題ありませんでした)
何か起こると直感した20日の予感は最高の形で実現しました。
SSSRCは松岡修造さんに全身全霊感謝を申し上げます。
出典: [日めくり] まいにち、修造! 心を元気にする本気の応援メッセージ, 21日目より
心再燃
燃え尽きていた彼のメンバーも、この報を得て再び燃え上がり、大慌てで衛星部屋に
駆け付けてきました。もちろんその場にいた他の運用メンバーの心も再燃していました。
次に確認すべきは、ひろがりにコマンドを送信してデータを降ろしてこれるかです。
これができて初めて、ひろがりは晴れて宇宙のゴミから人工衛星になります。
もしコマンドをひろがりが読み取ることができれば、ひろがりからACK(アック)と呼ばれる
ツーツーツーという三音が返ってきます。読み取れなかった場合はNACK(ナック)と呼ばれる
ツーという一音が返ってきますので実際上は二回目のツーが聞こえればコマンドが
通ったと確認することができます。
そして勝負の時が来ました、ひろがりに向けてコマンドを送信してACKが返ってくるのを待ちます。
ツーツーツー
ひろがりが確かに人工衛星になった瞬間でした。
私は涙もろいところがありまして、いわゆる泣かせる作品に触れると涙を禁じえない質ですが、
そういった作品の感動というのは主に別れに伴う悲しさです。この日、私は恐らく初めて嬉し泣き
というものをしました。私の大学生活の大きな割合を費やしてきた熱意の塊が、ゴミの塊から
誇り高き人工衛星へと昇華したのですから…。
歓喜の他にも色々と思うことがありました。ひろがりが無事に放出までこぎつけたのも、
既に卒業された先輩や、新社会人になるにあたって既に大阪から旅立ってしまった先輩の
ご尽力があったからに違いありません(もちろんご協力いただきました各所企業団体様のご尽力
のおかげでもあります)。それが何の実も結ばずに終わるなんてあまりに報われないじゃありませんか。
そう思うにつけて本当に良かったなあと感激したわけです。
また、今回のひろがりの成功・不成功がこれからのセンターの未来にかなり影響すると考えていました。
というのもやはり打ち上げても動かない衛星を作る団体には共同開発を依頼したいと思われないな
と考えていたからです。また成功の無いところに出資したいなと思ってくれる人はそうそういませんから、
金銭面的にもかなり悲観的になっていました。そういったことからも、本当に今回の成功は深い安堵を
私たちに与えてくれたわけです。
それでは最後にその時の現場の熱量を感じ取ってもらえるように、三つの音源を用意しました
(動画で用意出来たら良かったのですが、保存時に画像部分がロストしてしまったので…)。
①ひろがり発見か!?
といった感じで今回は見事に陽が登り切ったところで終わりです。
きっとこの日の感動や成功が一生自分を支えてくれると思います。
次回からは成功を経て「調子乗り期」に至ったあたりまで書きたいと思います。お楽しみに。




