どうもこんにちは、修士2年の長澤です。

 

本日は前回の予告通り、放出後2日目からの運用の状況について書いていきます。

ある程度中身のあるイベントをひとまとめにして、なるべく時系列に沿って進めます。

しっかしながら、今思い出してもなかなかタフな日々でした。

 

衛星位置の大まかな特定

 運用方針が大分固まったので、早速やる気を出して運用に取り組み始めました。

正直この時点では、まだ可能性は残っているし何とかなるよな!と思っていました。

他のメンバーがどう思っていたのかは、心を覗き見ることができなかったので

分からないですが、所感、諦念2やる気8という感じの雰囲気でした。

 

 取り組みとしてはオブジェクトの特定作業が基本になります。初日運用開始時では

ISSのTLEを利用していたのですが、初日途中からは今回のISSの放出条件を用いて

TLE要素の計算をおこない、衛星群の軌道を予測していました。この結果はある程度

正しいと考えていたのですが、二日目にして元々受信できていたはずの衛星の受信感度も

小さくなってきました。

 

 

「TLEの情報から少しずつずれていくのはそうなのだけど、にしても早くないか?」

 

 

 そういった不安がよぎった矢先の僥倖、オランダ電波天文学研究所の方の観測に

よって衛星群のTLEが公開されているという情報をキャッチしました。なんでも衛星電波の

ドップラーシフトから軌道要素を特定したとのこと(詳しくはこちらをご参照ください

https://github.com/cbassa/strf)。頭が上がりません。感謝。

 

そしていざこのTLEを用いて電波が確認出来ている衛星の受信に挑戦したところ、

かなり明瞭にCWを受信できたため、まず問題ないだろうという結論にいたりました。感謝。

 

またこのTLEを用いて今後の軌道を確認してみると不思議なことが分かりました。

いままでの予測では衛星群はISSの後方を航行していると考えられていたのですが、

なんと前方を航行していることが判明したのです。・・・そりゃ電波弱くなるよね。

 

 というわけでこの時点に至りて、ようやく衛星の位置の不確定さはおおむね解消されました。

依然受信は出来ていないのですが、他の衛星の受信のしやすさが向上し、その点で他の

衛星の特定がしやすくなってきました。「あっFM通信してる…。羨ましい…。」

 

プリアンプの修理

 各種対応に追われていて初日には気づけなかったのですが、

どうも地上局側アンテナ直下のプリアンプが作動していないことが判明しました。

 

 プリアンプとは?な感じがするので、ここでは先にプリアンプの役割を簡単に

説明しておきます。結論から言いますと、プリアンプとは「信号処理をする際の

SN比を良くするために先んじて設けられる信号増幅器(アンプ)」のことです。

 

一般に信号の品質はSN比(信号対雑音比)と呼ばれる値で評価されるのですが、

なんてことはありません。送られてきた信号の大きさが他の余計なノイズに比べて

どれだけ大きいのかというだけです。なので「SN比 = 信号の大きさ ÷ 雑音の大きさ」で

表されます。SN比が大きいほどノイズの影響が少なくて良いということです。

 

では早速SSSRCの地上局で考えてみましょう。

 

 まずプリアンプを付けない場合を考えてみます。これは下図の左側に該当します。

SSSRC自慢のアンテナは衛星から送られてきた電波をしっかりと受信しますが、

世の中には様々なノイズが存在していて、そいつらも受信しちゃいます。そして屋上に

設置されたアンテナから1階の衛星運用部屋までだいたい60 mぐらいの同軸ケーブルを

伝わって、受信機に到達します。もちろんケーブル内を伝う間にもノイズは乗っかるので、

最終的にSN比は赤枠の通り、S/N = 電波/(外雑+内雑)になります。

 

 ではプリアンプを付けた場合はどうなるかですが、ケーブルを伝う前に電力マシマシに

しちゃうので、途中で乗っかるノイズは無視できるぐらいに小さいと考えることができます。

なので最終的なSN比は、こちらも赤枠の通りS/N ≃ 電波/外雑になります。

たしかにプリアンプを付けることでSN比が良くなることがわかりますね。

 

                       プリアンプの役割

 

 プリアンプの大切さが理解できたところで、故障してしまっている現実に戻りましょう。

時刻は確か22時前ぐらいでしたが、急遽としてプリアンプおじさんこと川原君を

招集するかの小会議が始まりました。

 

「帰宅して(下宿)30分ぐらいでしょうけど呼び出します?」

 

「我々も運用しているのだから大丈夫、大丈夫。」

 

「よしGOだ!!」

 

というわけで川原君は無事に衛星部屋に招集されて、夜中の屋上で彼の先輩と

確認作業が行われました。結論としては給電部分が破損していたようです。

暗い中の修復作業は危険なので、この日の昼の間に修復作業が行われました。

 

            プリアンプ夜の確認

 

             プリアンプ昼の修理

OB・OGの方々のご支援

 これは時系列的には少しずれるのですが、OB・OGの方々から、衛星部屋に差し入れが

届いていました。カップヌードル、お菓子の詰め合わせ、さらにはコーヒーメーカーまで

送っていただきました。流石かつて運用を経験したOB・OGだからこそ、欲しいものが

分かっているというラインナップ。深夜の運用の時にそれらがあるだけで少しワクワクします。

カップヌードルに名前を書いてあったのに食べられていたり、カップヌードルに

書かれていた名前が置き換わっていたりとお茶目なトラブルもありましたが、

それもいい思い出です。本当にありがとうございました。

 

また差し入れだけではなく、グループLINEなどでも様々なアドバイスを実体験も

踏まえてしていただき、運用メンバー共々胸が熱くなる思いでした。

これは何としても無事に成功の報を届けなければならないという使命感が芽生えてきました。

 

今後私もOBになってしまうわけですが、いわゆる老害にはならず、

今回のOB・OGのように立ち振る舞えるように努めたいものです。

 

      

  差し入れのコーヒーをいただくメンバー           差し入れのカップ麺をいただくメンバー

コマンドアップリンクの開始

 もともと、定期アンテナ展開(一日に一度ニクロム線に電流が流れてアンテナ展開を

実行しようとする)が3回行われても受信ができない場合には、アンテナ展開コマンドを

アップリンクしてみようという運用計画だったこともあり、17日夕方最初のパスにて

コマンドを送信してみたものの、上手くいきませんでした。またその後の話ですが、

停波になっている可能性も考慮してパラメータ変更コマンドを送信しました。

しかしこれも上手くいかず、また一つ希望の糸が切れていきました。

TLEの公開とオブジェクトの特定

 コマンドアップリンクを試みた同日22時半頃、ついに公式の仮決定TLEが届きました。

掲載されている情報をすべて入力して(フォーマットの関連でソフトウェア側がエラーを

はきだしてきたのでかなり手間取りましたが)それぞれの衛星がどの程度離れているかを

確認しました。

 

 結果としては、どの衛星のTLEを用いても決定的に受信できなくなるということは

無いということがわかりました。「電波を受信できておらずTLEが予想できていない衛星に

ついては、もしかしたら放出衛星群から逸脱していて、検討違いのところにアンテナを

向けていたから受信できていないのではないか?」という希望的観測が打ち砕かれた瞬間でした。

 

この情報が確定した付近から、私も少しばかし弱気になってきました。前回おこなったFTA的に

考えうる、そうであって欲しい受信失敗理由の可能性の線がほぼほぼ無くなってきたからです。

 

「電源が入っていないのか?」

 

「太陽電池が動いていない?」

 

責任はどこにあるのか?犯人捜し的な様相を呈してきそうな現場でしたが、

責任のそれ以上に、誰彼と無く反省が止めどなく出てきたことが思い出されます。

 

 しかし、ここで諦めるわけにはいきません。まだ条件の良いパスでの受信の可能性はあります。

条件の良いパスは、衛星追尾精度がよくないとその旨みを発揮できませんので、逆に言うと

ここにきてようやくこの可能性にかけることができるようになったとも考えることができるでしょう。

したがって、どのTLEがどの衛星のものか、オブジェクト特定がもろに必要となってきました。

 

ここまで、それぞれの衛星のドップラーシフトや、CWの間隔などもろもろを調べてきました。

また衛星のサイズ、放出時の高度、姿勢系の情報も統括していきました(こうして書くとたったの

二行ですが解析班は皆必死でした)。そうしてこれがひろがりに違いないと決め打ちして、

条件の良いパスを待つ。ここにきて自分たちでできることの限界が見えてきました…。

 

 初日こそ、運用に参加する人は十分にいましたが、可能性に限界が見えてくると人は

離れていきます。所感としては18日~19日にかけてのパスにおいて、ある程度限界を

迎えた瞬間が運用メンバーの諦念のピークだったように思われます。結果として19~20日

の運用はリモートで参加していた人を省くと二人しか参加していないという事態に陥りました。

 

 

 結構な量になってきたので、本日はここで区切りをつけたいと思います。

「なんて暗いムードのところで終わるんだ!」というお声も分かりますが、

夜明け前が一番暗いのです。日が昇る時、是非とも次回にご期待ください。