どうもこんにちは、修士2年の長澤です。前回はひろがり運用初日のあらましを書きました。

 

 それはそうとして前回、地獄の耐久編を書くと綴って筆を置きましたが、書いてみると

思っている以上に「受信失敗原因の検討と運用方針の決定」の部分が大きかったので、

今回はこの部分の話になります。少し深堀りした内容になるので、「あっキツイな」と思われた

読者は、今回は飛ばして読んでもらって構わないです。この回を読まずとも次回以降

すんなりと読み進められると思います(そういえばなのですがPC表示での閲覧をおすすめします)。

CW受信失敗の原因検討と運用の方針決定

 仮眠を終え、顔を洗う。CWは実際には受信できており、前回の記事は

悪い夢だったんじゃないか?と今一度確認してみましたが、やはり受信は

成功していませんでした。とほほ…。まあ成功していないものは仕方ないので、

緊急で何が原因であるかの検討が始まりました。

CW受信失敗の原因検討

 こういったトラブルが発生した時にはFTA(Failure Tree Analysis)、そのまんまですが

日本語で故障の木解析と呼ばれる手法がよく使われます。これは根本的な問題

(起こっているトラブル)を最上位として、その発生に寄与する原因事象を後ろ向きに

たどることで、問題の要因を探る解析手法です。昨日CW受信で待機しているときに、

もともと学生サイドでも原因をまとめていましたが、南部先生(現 株式会社レヴィCEO)

にも考えていただいていたので、これらをもとに検討を進めていきました。

 

FTAの事例 参照:https://seisangenba.com/ft-analysis/

 

 まず根本的な問題として「電波が受信できない」があり、考えるものとして大きくは

次の4つの要因が従属します。

  1. 「電波が放出されていない」
  2. 「電波の強度が足りない」
  3. 「地上局設備に問題がある」
  4. 「衛星を補足できていない」

1. 「電波が放出されていない」

 電源供給ラインや無線機の破損も考えられますが、そもそも電源が入っていない

ということが可能性として濃厚でした。ひろがりでは機体下部に二つスイッチがあり、

それらが解放されて33分後に電源が入るという設計になっているのですが、この部分に

ついての信頼性が一番低いことに起因しています。

 

ISSからの放出の瞬間:この後衛星は分離するが、そのタイミングで

下部のスイッチが解放されることで33分後に電源が入る

 

2. 「電波の強度が足りない」

 テグスが切れていないことによって、アンテナ展開していないことが可能性として濃厚でした。

これはニクロム線の熱の伝わり方とニクロム線への電流供給の二つの観点から考えられます。

ただし地上試験の結果から、前者ではテグスが容易に切断されており、後者ではバッテリー

自己放電による電圧低下は軽微であることから、1よりは可能性が低いと考えられました。

 

3. 「地上局設備に問題がある」

 3は可能性としては非常に低いと考えられました。というのも屋上でトランシーバによって

確認した限りでは問題なく電波が確認でき、同時に放出された衛星のCW捕捉もできたからです。

また、そもそも運用開始前から他の衛星を用いて何度も試験を行っていたため、信頼性が

高かったことも挙げられます。

 

4. 「衛星を補足できていない」

 最後に4についてですが、現状他の衛星との位置はそこまで離れているとは考えられず、

回線設計(衛星と地上局間の通信に必要な電力を、ある程度余裕を持って設計すること)上、

姿勢が多少乱れても問題なく通信出来ることから、これも可能性は低いと考えられました。

 

 

 以上の解析から、濃厚「電源スイッチが入っていない」、期待「アンテナが展開していない

&衛星捕捉できていない」という結果に至りました。ここで期待と書いたのは、前者だとCWの

産声を聞ける望みは限りなく少ないですが、後者であればまだ可能性があるためです。

放出後アンテナ展開を行うことができなかった場合に備えて、一日に一度アンテナ展開処理

(ニクロム線に電流を流す)を行うようにひろがりは設計されていました。ですので電源さえ

入っていれば通信の可能性はあると言えます。また回線設計上、アンテナが開いていない

場合でも、捕捉条件が最高の状態であればCWを受信できる可能性もありました。

 

 なおバッテリー電圧降下の可能性が低いと考えたため、上記では触れなかったのですが、

ひろがりではバッテリー電圧が3.0 V以下になると3.2 V以上になるまで受信機・送信機ともに

オフになるスリープモードというものを採用しています。よってスリープモードに入ってるために

電波が出ていないのではという考えもありました。また、これはメンバー個人の完全な

希望的観測ですが、何らかの設定ミスで最初に停波モードになっているため、モード遷移の

コマンドを送信すれば問題なく動くのではないかという考えも浮上していました。

 

微かな希望をなんとかして手繰り寄せようと思考する、涙ぐましい努力があったわけです。

 

 

・運用の方針

では今後どういう運用を進めていくかでしたが、これは主に次のようになりました。

  1. オブジェクトの特定
  2. コマンドの送信(様子を見る必要はある)
  3. 他衛星の受信協力
  4. SatNOGSやSNSの監視

 

1.オブジェクトの特定

 通常、衛星の軌道は北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD:North American Aerospace 

Defense Command)によって公開されている二行軌道要素(TLE:Two Line Element)を用いる

ことで計算されます。軌道投入直後はTLEが提供されていませんが、今回はISS放出であるので、

放出直後はISSとTLEがほとんど変わらないと考えられます。日を経るにつれてずれていきますが、

そのころには有志のアマチュア無線家がドップラーシフトを用いて作成したり(今回この情報を

得られたのは運が良かったのかもしれません)、NORADも仮のTLEを提供してくれたりするようになります。

 

 しかし、ここで一つ問題があります。それはISSから同時期に複数機放出されているため、

公開されたデータのどれが自分たちの衛星のものであるかはわからないということです。

現状衛星のCWを受信できる可能性は、最高の捕捉状態(高仰角かつ送受アンテナ同士の

向きがずれていない)である場合に限られます。これを実現するためにはTLEがだいたい

同じではなく、マッチしている必要があるため、オブジェクトの特定は必須となります。

 

 では実際にどのように特定していくかですが、あるTLEはこの衛星だと考えて、

その衛星の周波数にチューニングしてドップラーシフトを補正することで特定していきます。

実際にその予測があっていればスペクトラムの軌跡はまっすぐになりますし、

違っていればずれていきます。これを繰り返すことで当たりを付けていくわけです。

 

 ただこの手法にも抜けがあります。ドップラーシフトを利用する関係上電波が

受信できていないと推測できないのです。ひろがりを含め8機が放出されているのですが、

悲しいことにこの時点では電波を確認できない衛星がうちを含め3、4機あったため、

それらの特定が確証をもってできませんでした。「なんで電波出てないのかな、困るわ」などと

自分たちのことは完全に棚に上げたことを言っていたのはここだけの話です。

 

2. コマンドの送信(様子を見る必要はある)

 ひろがりにはアンテナ展開を実行するコマンドが存在します。また停波モードである可能性を

信じてモード遷移を行うという手段をとるのも一つの手です。ですが、送信については二つの

点を考慮する必要がありました。一つは、一度コマンドが通ると、一日一度のアンテナ展開処理は

打ち切られてしまう点です。コマンドが通ったのは良いものの、それが奇跡的に通った場合

であったときには、その後の再現性は無く、一日に一度の機能が損なわれて復帰の可能性は

減じます。もう一つは送信に430 MHz帯のアンテナを利用するために、他の衛星のオブジェクト

推定ができなくなるということです。回線設計上アンテナが開いていないとアップリンクが通る

可能性はかなり低いので、リソースを割いて良いのかは考えどころです。

 

3. 他衛星の受信協力

 SSSRCの地上局アンテナは手前味噌ですが、144 MHz帯と430 MHz帯のアンテナとしては

とても立派なアンテナです。ですので、他の設備では受信できなかったけど、うちではできた

ということが起こることがあります。 私たちとしてもCW信号の取り扱いについては、今後のことを

考えて訓練する必要があったため、他衛星の受信協力を行っていこうという風に落ち着きました。

正直自分たちのところのCWでは無いので悔しさが半分ありましたが、ワクワク感とこれが

他団体の糧になるという使命感も確かに半分ありました。

                           地上局アンテナ外観1                                    地上局アンテナ外観2

4. SatNOGSやSNSの監視

 もし電源がオンならばCW信号が出ているはずなので、他のアマチュア無線家の方々が

受信している可能性は大いにあります。SatNOGS(https://satnogs.org/)は、自分の地上局を

登録して他の人に共有する代わりに、共有の地上局を時間予約で利用することができる

サービスです。(認識が間違っていたら申し訳ありません)

そしてこのサービスでは、ひろがりの受信に挑戦した結果も報告されています。

またtwitterなどのSNSでもひろがりの受信に挑戦したという報がちらほら投稿されています。

これらの情報を監視しておくことは運用上重要です。

 

 字面が多く、少し目が疲れてきましたね...。 ということで今回はここで終わりにします。

次回「この信号まさか!」ということで、3月15日~21日にかけての実際の運用の雰囲気や自分が

思ったことを書いていきます。恐らく写真多めで今回よりはとっつきやすいと思いますのでお楽しみに!