いよいよ最終審査だ。私は控え室で自分の名を呼ばれたあと、一度深く深呼吸をした。

長い廊下を抜け、審査委員のいる部屋の扉の前に立つ。これまでの審査の間本当に気の抜けないオーディションだったなと、感慨にふける。

「小里裕美、入ります。」

 そう広くは無い簡素な部屋に審査員は5人。対して審査される側は私だけだった。

緊張している事を覚られてはならない。軽く唇をくいしばり、極力無駄な動きのないように部屋の中央に置かれたパイプ椅子に座る。

言葉を待ったのは数秒だろうか?何かを言われるまでは微動もせず、姿勢も崩さず私は待った。

コホンと審査委員長が咳払いをすると、簡潔に告げた。「小里さん、オーディション合格です。」と。

「ほ、本当ですか!?う、嬉しいー!!」

唐突に思ってみなかった事に、たまらず私は歓喜した。

そんな私の姿に審査委員は深くため息をついて互いの目線で合図を出した事を、その時の私は気付く事もなかった。


その日の夕方、失意の中私は帰りのバスに揺られていた。

 瞼に浮かぶ光景は、舞台の上でずらりと並んだ女の子達。

合格を発表するライトは私を素通りして隣の女の子の上で止まった。

私を含む、まわりの女の子達の困惑、どよめき。

しかし、嫉妬や憎悪の視線とライトを浴びた少女は臆することなく淡々とした表情で合格の感想をこう言った。

「映画『感情の無い女』は原作を読んだ時から主人公を演じたいと思っていました。」

 バスの窓ガラスに映った自分の疲れきった顔をみて私は思った。「次は疲れた主人公狙うか」と。