今回は、少し大切なお話です。

「オーバーサージェリー」と聞くと、手術を何度も繰り返して、顔が不自然になってしまう状態を思い浮かべる方が多いと思います。

もちろん、それもオーバーサージェリーの一つです。

ただ、現在の美容医療で注意したい「やりすぎ」は、必ずしも施術回数だけではありません。

一つの部位、一つの術式、一つの注入治療、一つの機器だけで、原因の異なる悩みをすべて解決しようとすること。

治療した一部分は変わっていても、顔全体の調和が少しずつ失われていく。これも、現代のオーバーサージェリーだと私は考えています。

以前は「量」の問題が中心でした

従来のオーバーサージェリーは、比較的分かりやすいものでした。

  • より大きな変化を求めて手術を重ねる
  • 組織を取りすぎる
  • 強く引き上げすぎる
  • 注入治療を繰り返しすぎる

その結果、本来の顔立ちや表情から離れ、誰が見ても「少しやりすぎでは?」と感じる状態です。

このような問題は現在もあります。

一方で、美容医療が細分化され、部位や術式、機器ごとの専門性が高まったことで、別の形の「やりすぎ」も起こりやすくなりました。

それは、施術数の多さではなく、診断と治療の視野が狭くなることから始まります。

得意な施術が、診断より先に答えになっていないか

ある術式を深く習得することや、特定の機器に精通することは、決して悪いことではありません。安全性と治療精度を高めるうえで、専門性はとても重要です。

問題は、患者さんの顔を診る前から、得意な施術が答えになってしまうことです。

たとえば、注入治療が得意であれば、くぼみだけでなく、たるみや輪郭まで「足すこと」で解決したくなるかもしれません。

一つのたるみ治療機器を専門にしていれば、性質の異なるたるみも、その機器だけで治療したくなるかもしれません。

しかし、患者さんの悩みと、術者が得意とする治療が、いつも一致するとは限らないんですよね。

現代のオーバーサージェリーにつながりやすい考え方

  1. 顔全体ではなく、相談された部位だけを診る
  2. 原因を考える前に、得意な施術を当てはめる
  3. 「足す」「減らす」「引き上げる」など、一方向の治療を繰り返す
  4. 隣の部位、表情、横顔、将来の加齢変化を十分に評価しない

一つ一つの施術が技術的には正しく行われていても、その積み重ねで顔全体のバランスが崩れることがあります。

悩みがある場所と、原因の場所は同じとは限りません

顔の各部位は、それぞれ独立しているわけではありません。

額と眉、眉と上まぶた、頬とほうれい線、口元と顎、フェイスラインと首。互いの位置やボリューム、動きによって顔の印象が決まります。

上まぶたが重く見える場合も、まぶたの皮膚だけが原因とは限りません。眉や額の位置が関係している方に、まぶただけの治療を行うと、目と眉の距離や表情のバランスが変わる可能性があります。

ほうれい線も、溝だけを埋め続ければよいとは限りません。頬の位置や顔全体のボリュームを考えずに注入を重ねると、線は浅くなっても、中顔面が重く不自然に見えることがあります。

海外で「オーバーフィルド・シンドローム」と呼ばれる状態も、この問題を象徴しています。

大切なのは、悩みが現れている場所と、原因が存在する場所は、必ずしも同じではないということです。

フェイスリフトでも、顔の各部位は連動しています

フェイスリフトで頬から中顔面を外側までしっかり引き上げたとします。

このとき、こめかみのたるみが残っていると、引き上げられた中顔面と、たるみが残った上顔面との境界、つまり目尻周囲に組織の余りが集中することがあります。

その結果、笑ったときに目尻が「ブリッと」盛り上がるように見えてしまうことがあります。

では、こめかみを強く上げればよいのかというと、そう単純でもありません。

こめかみだけを強く引き上げると、今度は眉毛の外側ばかりがつり上がり、つり目のような印象になることがあります。

中顔面、こめかみ、眉、前額、上まぶたは、すべて連動しています。

私がフェイスリフトに小切開こめかみリフトや内視鏡前額リフトを組み合わせておすすめすることが多いのは、このためです。

中顔面を最大限に引き上げるのであれば、同時にたるみがあるこめかみや上顔面(前額)についても、位置を整える必要がある場合があります。

もちろん、すべての方に同じ組み合わせが必要なわけではありません。眉・前額・上まぶたの位置、皮膚や支持組織のゆるみ、骨格、毛髪の位置などを顔全体で評価し、必要な部位と引き上げる強さを個別に決めることが大切です。

「その部位の成功」と「顔全体の成功」は別です

施術前後の写真で一箇所だけを拡大すると、変化は分かりやすくなります。

でも、その部位の数値や形が改善していても、顔全体で見たときに不自然さが増していれば、本当に成功したとは言い切れません。

正面の静止画だけでなく、斜めや横から見た形、笑ったときの動き、眉や口元の表情、時間が経過したあとの変化まで考える必要があります。

美容医療の目的は、特定の線や膨らみを消すことそのものではなく、その方の顔立ちの中で自然な調和を取り戻すことだからです。

患者さんだけでなく、医師にも「見慣れ」は起こります

治療後の顔に目が慣れると、次のわずかな部分が気になり始めることがあります。直近の治療後の顔が新しい基準になり、少しずつ治療を重ねてしまう状態です。

そして、この「見慣れ」は患者さんだけの問題ではありません。

医師も同じ施術や似た仕上がりを日々見続け、SNSで強い変化ほど注目される環境にいると、「自然」と感じる基準が少しずつ変化する可能性があります。

海外では、術者側の審美的な基準が徐々にずれることを「Professional Aesthetic Drift」と表現する議論もあります。まだ検証が必要な考え方ですが、医師も自分の美的判断を絶対視せず、治療前の写真と顔全体の評価に立ち返る必要がある、という警告だと思います。

専門性が高いことと、適応が広いことは違います

専門性の高い医師ほど、その施術で何ができるかをよく知っています。

同時に、その施術では解決できないことも理解していなければなりません。

成熟した専門性とは、得意な治療を行う技術だけではなく、治療の限界を認識すること、別の方法を提案すること、必要なら他の専門家と連携すること、そして治療をしない方がよいときに「何もしない」と判断できることまで含むと考えています。

カウンセリングで確認したい5つのこと

  1. この悩みは、どの組織・どの部位の変化から生じているのか
  2. 提案された治療で変わる部分と、変わらない部分は何か
  3. 隣接する部位、横顔、表情、将来の加齢にどのような影響があるか
  4. 治療をしない選択肢や、別の方法はあるか
  5. 過去の治療を含め、顔全体としてどのような長期計画を立てるか

希望する施術をそのまま行うことが、必ずしも患者さんの利益になるとは限りません。

医師には希望を丁寧に聞いたうえで、原因と治療のずれを説明し、ときには立ち止まる役割があります。

まとめ

現代のオーバーサージェリーとは、単に施術の数が多いことではありません。限られた視点と限られた道具で、顔全体の問題を解決しようとすることです。

一箇所が改善しても、その代わりに顔全体の調和や、その方らしい表情が失われてしまえば、治療の方向を見直す必要があります。

施術名を選ぶ前に、なぜその変化が起きているのかを考える。部位だけでなく顔全体を診る。そして、必要以上の変化を求めない。

選択肢が増えた今だからこそ、医師にも患者さんにも、施術そのものから一歩離れて顔全体を見直す視点が必要だと思います。

ドクターズブログでは、もう少し詳しく解説しています。

現代のオーバーサージェリー|ドクターズブログ

※本記事は、美容外科・美容医療に関する一般的な考え方をお伝えするものです。特定の術式・機器・注入治療・医師を否定するものではありません。治療の適応や組み合わせは、骨格、軟部組織、皮膚の状態、過去の治療歴、ご希望によって異なります。実際の治療については、診察時に医師へご相談ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ではでは。

今回は、少し大切なお話です。

「オーバーサージェリー」と聞くと、手術を何度も繰り返して、顔が不自然になってしまう状態を思い浮かべる方が多いと思います。

もちろん、それもオーバーサージェリーの一つです。

ただ、現在の美容医療で注意したい「やりすぎ」は、必ずしも施術回数だけではありません。

一つの部位、一つの術式、一つの治療、一つの機器だけで、原因の異なる悩みをすべて解決しようとすること。

治療した一部分は変わっていても、顔全体の調和が少しずつ失われていく。これも、現代のオーバーサージェリーだと私は考えています。

以前は「量」の問題が中心でした

従来のオーバーサージェリーは、比較的分かりやすいものでした。

  • より大きな変化を求めて手術を重ねる
  • 組織を取りすぎる
  • 強く引き上げすぎる
  • 注入治療を繰り返しすぎる

その結果、本来の顔立ちや表情から離れ、誰が見ても「少しやりすぎでは?」と感じる状態です。

このような問題は現在もあります。

一方で、美容医療が細分化され、部位や術式、機器ごとの専門性が高まったことで、別の形の「やりすぎ」も起こりやすくなりました。

それは、施術数の多さではなく、診断と治療の視野が狭くなることから始まります。

得意な施術が、診断より先に答えになっていないか

ある術式を深く習得することや、特定の機器に精通することは、決して悪いことではありません。安全性と治療精度を高めるうえで、専門性はとても重要です。

問題は、患者さんの顔を診る前から、得意な施術が答えになってしまうことです。

たとえば、注入治療が得意であれば、くぼみだけでなく、たるみや輪郭まで「足すこと」で解決したくなるかもしれません。

一つのたるみ治療機器を専門にしていれば、性質の異なるたるみも、その機器だけで治療したくなるかもしれません。

しかし、患者さんの悩みと、術者が得意とする治療が、いつも一致するとは限らないんですよね。

 

現代のオーバーサージェリーにつながりやすい考え方

  1. 顔全体ではなく、相談された部位だけを診る
  2. 原因を考える前に、得意な施術を当てはめる
  3. 「足す」「減らす」「引き上げる」など、一方向の治療を繰り返す
  4. 隣の部位、表情、横顔、将来の加齢変化を十分に評価しない

一つ一つの施術が技術的には正しく行われていても、その積み重ねで顔全体のバランスが崩れることがあります。

悩みがある場所と、原因の場所は同じとは限りません

顔の各部位は、それぞれ独立しているわけではありません。

額と眉、眉と上まぶた、頬とほうれい線、口元と顎、フェイスラインと首。互いの位置やボリューム、動きによって顔の印象が決まります。

上まぶたが重く見える場合も、まぶたの皮膚だけが原因とは限りません。眉や額の位置が関係している方に、まぶただけの治療を行うと、目と眉の距離や表情のバランスが変わる可能性があります。

ほうれい線も、溝だけを埋め続ければよいとは限りません。頬の位置や顔全体のボリュームを考えずに注入を重ねると、線は浅くなっても、中顔面が重く不自然に見えることがあります。

海外で「オーバーフィルド・シンドローム」と呼ばれる状態も、この問題を象徴しています。

大切なのは、悩みが現れている場所と、原因が存在する場所は、必ずしも同じではないということです。

「その部位の成功」と「顔全体の成功」は別です

施術前後の写真で一箇所だけを拡大すると、変化は分かりやすくなります。

でも、その部位の数値や形が改善していても、顔全体で見たときに不自然さが増していれば、本当に成功したとは言い切れません。

正面の静止画だけでなく、斜めや横から見た形、笑ったときの動き、眉や口元の表情、時間が経過したあとの変化まで考える必要があります。

美容医療の目的は、特定の線や膨らみを消すことそのものではなく、その方の顔立ちの中で自然な調和を取り戻すことだからです。

患者さんだけでなく、医師にも「見慣れ」は起こります

治療後の顔に目が慣れると、次のわずかな部分が気になり始めることがあります。直近の治療後の顔が新しい基準になり、少しずつ治療を重ねてしまう状態です。

そして、この「見慣れ」は患者さんだけの問題ではありません。

医師も同じ施術や似た仕上がりを日々見続け、SNSで強い変化ほど注目される環境にいると、「自然」と感じる基準が少しずつ変化する可能性があります。

海外では、術者側の審美的な基準が徐々にずれることを「Professional Aesthetic Drift」と表現する議論もあります。まだ検証が必要な考え方ですが、医師も自分の美的判断を絶対視せず、治療前の写真と顔全体の評価に立ち返る必要がある、という警告だと思います。

専門性が高いことと、適応が広いことは違います

専門性の高い医師ほど、その施術で何ができるかをよく知っています。

同時に、その施術では解決できないことも理解していなければなりません。

成熟した専門性とは、得意な治療を行う技術だけではなく、治療の限界を認識すること、別の方法を提案すること、必要なら他の専門家と連携すること、そして治療をしない方がよいときに「何もしない」と判断できることまで含むと考えています。

カウンセリングで確認したい5つのこと

  1. この悩みは、どの組織・どの部位の変化から生じているのか
  2. 提案された治療で変わる部分と、変わらない部分は何か
  3. 隣接する部位、横顔、表情、将来の加齢にどのような影響があるか
  4. 治療をしない選択肢や、別の方法はあるか
  5. 過去の治療を含め、顔全体としてどのような長期計画を立てるか

希望する施術をそのまま行うことが、必ずしも患者さんの利益になるとは限りません。

医師には希望を丁寧に聞いたうえで、原因と治療のずれを説明し、ときには立ち止まる役割があります。

まとめ

現代のオーバーサージェリーとは、単に施術の数が多いことではありません。限られた視点と限られた道具で、顔全体の問題を解決しようとすることです。

一箇所が改善しても、その代わりに顔全体の調和や、その方らしい表情が失われてしまえば、治療の方向を見直す必要があります。

施術名を選ぶ前に、なぜその変化が起きているのかを考える。部位だけでなく顔全体を診る。そして、必要以上の変化を求めない。

選択肢が増えた今だからこそ、医師にも患者さんにも、施術そのものから一歩離れて顔全体を見直す視点が必要だと思います。

ドクターズブログでは、もう少し詳しく解説しています。

現代のオーバーサージェリー|ドクターズブログ

※本記事は、美容外科・美容医療に関する一般的な考え方をお伝えするものです。特定の術式・機器・注入治療・医師を否定するものではありません。治療の適応や組み合わせは、骨格、軟部組織、皮膚の状態、過去の治療歴、ご希望によって異なります。実際の治療については、診察時に医師へご相談ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ではでは。

今回は、39歳女性のディーパープレーン・フェイス&ネックリフト症例です。

下顔面の重さ、ジョール、ほうれい線、フェイスラインから首へのつながりに対し、自然なボリュームを保ちながら深部組織の位置を整えました。

この症例で大切なのは、顔の表面の脂肪を減らして細く見せたのではない、という点です。

今回の症例

  • 年齢・性別:39歳女性
  • 主なご相談:下顔面の重さ、ジョール、ほうれい線、フェイスラインから首へのつながり
  • 施術:フェイス&サイドネックリフト
  • 写真の時点:術前/術後3か月
  • 治療回数:手術1回。術後は数回の診察・経過観察を行います

症例写真

39歳女性のフェイス&ネックリフト症例。斜位の術前と術後3か月

斜位。左:術前、右:術後3か月。頬からフェイスライン、首へのつながりを比較しています。

39歳女性のフェイス&ネックリフト症例。側面の術前と術後3か月

側面。左:術前、右:術後3か月。顎下から首にかけての輪郭を比較しています。

39歳女性のフェイス&ネックリフト症例。正面の術前と術後3か月

正面。左:術前、右:術後3か月。下顔面の輪郭と左右のバランスを比較しています。

この症例で重視したポイント

顔の表面にある脂肪を減らして輪郭を作るのではなく、下垂した深部組織の位置を整えながら、その方がもつ自然なボリュームを保つことを重視しました。

下顔面の重さ、ジョール、ほうれい線、顎下から首へのつながりを別々に扱うのではなく、頬から首までを一体として評価し、顔立ちそのものを変えずに輪郭を明瞭にすることを目指しています。

選択した術式と目的

従来のDeep Planeより深部の構造まで含め、下垂した組織を再配置・再構築する設計で手術を行っています。皮膚表面に過度な張力をかけず、頬から首にかけての構造的な下垂を整えることが目的です。

顔の脂肪吸引を併用するかどうかは、脂肪の量と位置、皮膚の状態、骨格などをもとに判断します。この症例では表層のボリュームを減らさず、深部組織の位置を整えました。

術後3か月で確認できること

斜位写真では、ジョール周囲の重さが術前より目立ちにくくなり、頬からフェイスラインへの境界が確認しやすくなっています。側面写真では、顎下から首へ移行する輪郭が明瞭です。正面写真では、輪郭が整い、もとの顔立ちを保った変化を確認できます。

術後3か月は腫れが落ち着いてくる時期ですが、傷跡、組織の硬さ、感覚などはその後も変化する場合があります。

治療回数・費用

  • 治療回数:手術1回。術後は数回の診察・経過観察を行います
  • 掲載施術の合計料金(税込):1,925,000円(麻酔代込み・目隠しモニター割引適用)
  • 内訳:フェイス&サイドネックリフト(目隠しモニター)1,760,000円+全身麻酔(人工呼吸器管理)165,000円

※シンデレラ&ダヴィンチクリニックでの掲載時点の料金です。最新の料金は各勤務先の公式料金表をご確認ください。

主なリスク・副作用・合併症

出血、血腫、感染、傷跡、創傷治癒遅延、脱毛、腫れ・内出血・むくみの遷延、痛み、つっぱり感、感覚の変化、顔面神経を含む神経障害、輪郭の凹凸、左右差、後戻り、イメージとの相違など。

まとめ

フェイスリフトは「皮膚を強く引っ張る手術」ではありません。どの層が下がり、どこを解放し、どの方向へ戻すのか。顔と首を一つの構造として考えることが重要です。

ホームページの症例解説では、写真とあわせて詳しく掲載しています。

ディーパープレーン・フェイス&ネックリフト|術後3か月の詳しい症例解説

本記事は一般的な情報提供を目的としています。写真は一例であり、治療結果や経過には個人差があります。実際の適応、費用、リスク・副作用については診察時に医師へご相談ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ではでは。

最近、Preservation Facelift(プリザベーション・フェイスリフト)という言葉を目にする機会が増えてきました。

Preservation=温存。

名前だけ聞くと、なんとなく「ほとんど剥がさない、すごく小さな手術」のように感じますよね。

しかし、これは「どこも剥がさない手術」ではありません。

手術ですから、動かすために必要なところはきちんと剥がします。大切なのは、どの層を温存し、どの層を解放するのかです。

今回は、ホームページのDoctor's Blogに図入りでまとめた内容を、アメブロ版として少し分かりやすく書いてみます。

 

超ちなみにですが、Preservation Faceliftは2024年日本美容外科学会にて初めて、私が概念を発表したフェイスリフトです。たまにカウンセリングで「佐々木先生は Preservation Facelift ができますか?」という質問をされることがあるのですが、SNSでアピールしないとこうも認識がずれるんですね。悲しいですw

 

まずは顔を5つの層で考える

フェイスリフトを理解するには、顔の組織を表面から大きく5つに分けると整理しやすくなります。

  1. 皮膚
  2. 皮下組織・皮下脂肪
  3. SMASと、それに連続する表在性の筋膜組織
  4. スペースと疎な結合組織
  5. 深筋膜・骨膜

もちろん実際の顔が、5枚の板のようにきれいに分かれているわけではありません。

皮膚、皮下脂肪、SMASは細かな線維性組織で連続しています。その一方で、SMASより深いところには、組織が動きやすいスペースと、動きを止めている支持靱帯などがあります。

Preservation Faceliftは、浅い層の連続性をなるべく保ちながら、深い層で動きを妨げる組織を必要な範囲で解放するという手術設計です。

何を「Preserve=温存」するのか

従来のフェイスリフトには、耳の前から皮膚の下を広く剥離し、皮膚とSMASを別々に動かす方法があります。

皮膚と深部組織をそれぞれ細かく調整できる一方、剥離した部分には組織同士が離れた空間ができます。これをdead space(デッドスペース)と呼びます。

Preservation Faceliftでも、耳の周囲など必要な範囲の皮下剥離は行います。

ただし、その範囲を抑え、より早い段階でSMASの深い層へ入ります。そして支持組織を解放し、皮膚・皮下脂肪・SMASをなるべく連続した複合組織として動かします。

温存しようとしているのは、主に次の3つです。

  1. 皮膚と皮下組織の間にある細かな血管網
  2. 皮膚・皮下脂肪・SMASの解剖学的な連続性

つまり、「手術をしない」のではなく、必要のない分離を減らすという考え方です。

Preservationという名前だけでは、そこまで分かりませんよね……。

Deep Plane Faceliftとは何が違う?

Preservation Faceliftは、Deep Plane Faceliftとまったく別の術式ではありません。

むしろ、Deep Planeの考え方を土台にして、浅い層の剥離をより限定する方向へ発展した手術と考えると分かりやすいです。

浅い層をあまり剥がさないだけでは、たるんだ組織は十分に動きません。

SMASの深い層へ入り、リフトアップを妨げている支持靱帯や周囲の“糊付け”を必要な範囲で外して初めて、皮膚だけに強い力をかけずに頬やフェイスラインを移動できます。

従来のExtended Deep Plane Faceliftでは、顔の外側で皮膚の下をある程度剥離してから、SMASの深い層へ入ります。

Preservation Faceliftでは、このDeep Planeへ入る位置をより外側にし、その手前の皮下剥離をどこまで減らせるかを考えます。

浅い層では分ける範囲を抑える。深い層では必要な解放を行う。

ここがポイントです。

浅い層の剥離を抑える理由

皮下を広く剥離すると、皮膚と深部組織の間に大きなデッドスペースができます。

また、皮膚側に残る細かな血管や結合組織にも負担が加わるため、血腫、創傷治癒の遅れ、皮膚の血流障害、瘢痕による硬さや凹凸などに注意が必要です。

皮下剥離の範囲を抑えることには、デッドスペースと表層組織への侵襲を小さくし、皮膚の血流や組織の連続性を保ちやすくするという理論的な利点があります。

ただし、ここは大事です。

剥離が少なければ、必ず安全で回復が早いと断定できるわけではありません。

Preservation Faceliftは比較的新しい呼び方で、術者によって具体的な剥離範囲、進入位置、固定方法も異なります。現在の報告には後ろ向き研究が多く、他の術式に対する長期的な優位性については、今後も研究の積み重ねが必要です。

「構造」と「肌質」は分けて考える

顔の若返り治療は、「Structure(構造)は手術、Texture(肌質)は機器治療」と分けて考えると整理しやすくなります。

フェイスリフトが得意なのは、SMAS、広頸筋などいわゆる土台の部分を移動し、その構造を整えることです。

一方、細かなシワ、色調、毛穴、皮膚表面の質感は、フェイスリフトだけでは改善できないので必要に応じてレーザー、光治療、高周波などを組み合わせる必要があります。また、上述したようにSMASよりも浅い層を手術で改善させようとすると皮下剥離によるデメリットが生じますのでSMASよりも上のたるみは機械での治療をしたあげたほうが得策かもしれません。

このように構造と肌質を別々の方法で整えることも選択肢になります。

 

カウンセリングで確認したいこと

Preservation Faceliftという名前を聞いたときは、次の3つを確認すると手術の中身が見えやすくなります。

  1. 皮下剥離は、どこからどこまで行うのか?
  2. どの位置からSMASの深い層へ入るのか?
  3. どの支持組織を解放し、何を一体として動かすのか?

同じ術式名でも、実際に行われている内容が同じとは限りません。

名前より中身。これはフェイスリフトでは本当に大切です。

まとめ

Preservation Faceliftは、浅い層を必要以上に剥離せず、皮膚・皮下脂肪・SMASの連続性を保ちながら、深い層からたるみを動かすという考え方です。

目指しているのは、単に手術範囲を小さくすることではありません。

必要な解放と移動は行いながら、手術による組織への負担をできるだけ抑える。

「何を温存し、何を解放し、どこをどのように動かすのか」で考えると、術式名に迷いにくくなります。

図を使った詳しい解説は、ホームページのDoctor's Blogにまとめています。

Preservation Faceliftとは ― 浅い層を守り、深い層から整える

本記事は一般的な情報提供を目的としています。実際の適応、期待できる変化、経過、合併症については、診察時に医師へご相談ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ではでは。