皆さま、こんにちは。
少し前にXでこのような投稿をしたところ、思いのほか大きな反響がありました。
今日はなかなか鋭い患者さんが数名いらっしゃったのでシェア。
— 佐々木翔一(美容外科医) (@shoichi_sasaki) July 9, 2026
「ナゾラビアルファットの脂肪吸引をして、ほうれい線が良くなったように見えている方って、人中が伸びてる気するんですけど大丈夫なんですか?」とのこと。
うーん、筋膜が切れているからね。それは伸びるよ、という話です。
多くの方に興味を持っていただいたので、今回は「なぜナゾラビアルファットの脂肪吸引で人中が伸びて見えることがあるのか」について、きちんと解説していきたいと思います。
少し長くなりますが、ほうれい線治療の症例写真を見るときのポイントや、さらに知っておいていただきたいリスクについても書いています。
最後までお読みいただけますと幸いです。
ナゾラビアルファットの脂肪吸引で人中が伸びる理由
まず、ほうれい線の周囲には多くの筋肉や筋膜が付着しています。これらは、顔を上方向へ引っ張る「挙上筋」と呼ばれる筋肉です。笑ったときにはこの筋肉が働いて口元を持ち上げるため、ほうれい線も強く折れ込み、深く見えます。
一方で、この筋肉・筋膜には、口元が下がらないように普段から支える役割もあります。
模式図にすると、次のようなイメージです。

【図:ほうれい線周囲の挙上筋群】茶色、青、緑、オレンジの筋肉が挙上筋群となります。
図を見ると、挙上筋がほうれい線を越えて、上唇の白唇部分や口角までつながっているのがお分かりいただけると思います。
ナゾラビアルファットの脂肪吸引は、ほうれい線の上にある「ナゾラビアルファット」という脂肪を減らし、物理的にほうれい線を浅くする治療です。ところが症例によっては、脂肪だけでなく、周囲の挙上筋や筋膜にも影響が及んでいるように見えることがあります。
挙上筋がうまく働かなくなれば、笑ったときにほうれい線を上へ引き上げる力も弱くなります。すると、ほうれい線そのものができにくくなり、一見すると治療効果が非常に高いように見えるわけです。
しかし、この挙上筋は、口元が下がらないように支える“ワイヤー”のような役割も担っています。
脂肪吸引によって筋肉や筋膜が傷つき、その支持力が失われると、口元が下がり、結果として人中が伸びて見えることがあります。
ガミースマイルボトックスを想像すると分かりやすい
この現象をイメージするうえで分かりやすいのが、ガミースマイルに対するボトックス治療です。
ガミースマイルボトックスは、上唇を持ち上げる筋肉の働きを一時的に弱めることで、笑ったときに唇が上がりすぎないようにする治療です。この作用を応用し、症例によっては、ほうれい線を目立ちにくくする目的でボトックスを使用することもあります。
ただし、ボトックスでは筋肉や筋膜そのものが物理的に損傷しているわけではありません。あくまで筋力を弱めているだけなので、時間の経過とともに作用は薄れていきますし、筋肉・筋膜が損傷しているわけではないので大きく伸びることは少ないです。
一方、脂肪吸引によって筋肉や筋膜が傷ついた場合は、単なる一時的な筋力低下とは話が異なります。
いわば、挙上筋の支える力が失われた結果、人中が伸びて見える可能性があるのです。
上手な脂肪吸引なら起きないのか?
では、脂肪吸引が上手なら人中は伸びず、下手なら伸びるのでしょうか。
正直に言うと、現時点では分かりません。
なぜなら、ナゾラビアルファットの脂肪吸引を行っている多くの医師の症例で、人中が伸びて見える症例と、そうでない症例が混在しているからです。
ただ、ひとつ気になる傾向があります。
それは、SNSで大きな反響を集めている症例――つまり、ほうれい線がきれいに消えている症例ほど、人中が伸びて見える割合が高い印象があることです。この部分の解剖は非常に繊細です。ほんの1~2mmの層の違いが、筋肉・筋膜の損傷につながる可能性があります。かといって、浅い層だけを吸えば安全というわけでもありません。ナゾラビアルファットの浅い位置を吸いすぎると、写真で示すように、ほうれい線の上だけに梅干しじわのような凹凸が生じることがあります。しかも、こうした変化は術後すぐではなく、数年から十数年たってから現れる晩期の後遺症となる可能性もあります。
そのため、私はナゾラビアルファットの脂肪吸引を、基本的にはあまりおすすめしていません。
もちろん、将来的にこうした変化が起こり得ることまで理解し、それでも治療を希望される場合には行うことがあります。
一方で、そのリスクをできるだけ負いたくない方は、効果を実感するまでに時間はかかりますが、デバイス治療などで線維性中隔を少しずつ引き締めていくほうが、リスクは低いと考えています。
ほうれい線治療の症例写真は、ここを見る
先ほど、「ほうれい線がきれいに消えている症例ほど、人中が伸びて見える割合が高い印象がある」と書きました。
ここからは、その理由をもう少し詳しく説明していきます。
ガミースマイルボトックスでは、上唇を持ち上げる筋肉の働きを弱めます。その結果、笑ったときの口元の動きが小さくなり、症例によっては、ほうれい線も浅く見えることがあります。つまり、挙上筋群の力が弱ければ弱いほど、「ほうれい線治療がうまくいった」ように見えることがあるのです。
では、脂肪吸引後にほうれい線がほとんど消えている症例で、人中が伸びて見えることがあるのはなぜでしょうか。
脂肪を減らした効果に加えて、挙上筋や筋膜が傷つき、上唇を十分に持ち上げられなくなっている可能性があるからです。
要するに、脂肪を減らした効果と、ガミースマイルボトックスに似た「筋肉が働きにくい状態」が重なり、ほうれい線が非常にきれいに消えて見えることがある、ということです。しかしその裏側では、挙上筋群の支持力が低下し、結果として人中が伸びて見えている可能性があります。
症例写真を見る際は、ほうれい線だけに注目してはいけません。
術前・術後で、次の点も一緒に確認してみてください。
・鼻の下から上唇までの距離が長くなっていないか
・上唇の位置が下がっていないか
・笑ったときの上唇の動きが乏しくなっていないか
・口元全体が間延びした印象になっていないか
・ほうれい線だけが不自然なほど消えていないか
注入治療でも同じことが起こり得る
ほうれい線治療には、脂肪吸引以外にも、ヒアルロン酸注入、脂肪注入、ジュ○ゼンなどの注入治療があります。
注入治療によってほうれい線が埋まると、挙上筋群の動きが弱くなることがある、というデータは論文でも示されています。
ヒアルロン酸は溶解できるため、問題が生じた場合でも調整できる余地があります。
しかし、脂肪注入やジュ○ゼンなど、取り出せない、あるいは取り出すことが難しいものでは、挙上筋群の動きが弱い状態が長く残る可能性があります。これら注入治療においても、ほうれい線が完璧に消えているように見える症例ほど、人中が長く見えることがあるのは、このためです。
また、貴族手術でもガミースマイルが改善する一方で、人中がやや長く見える傾向があります。
ほうれい線治療は、ブラックジャックに似ている
私は、ほうれい線治療はトランプのブラックジャックに似ていると思っています。
(この例えは、私が尊敬する医師の受け売りです)
トランプのブラックジャックは配られたカードの合計値が「21」に近い方が勝ちとなります。
ただし、「21」を超えてしまうと(バースト)、その時点で即負けになります。
ほうれい線治療も同じです。
適切な範囲までは、治療を重ねるほどきれいになっていきます。ところが、治療の適量を超えると、顔のほかの部位とのバランスが崩れます。
その結果、口元が前に出たように見えたり、人中が伸びて見えたり、笑顔が不自然になったりすることがあります。
「ほうれい線が消えたかどうか」だけで治療の成功を判断してはいけません。
顔全体の整合性が保たれているか。
そこまで見て初めて、その治療が本当にうまくいっているかを判断できるのです。
さらに怖い、ナゾラビアルファット脂肪吸引のリスク
ナゾラビアルファットの脂肪吸引では、吸引する層がほんの1~2mm深くなるだけで、筋肉や筋膜を傷つける可能性があります。
さらにもう少し深い層には、顔面神経の枝が走っていることがあります。
そこを損傷すれば、顔面神経麻痺が起こる可能性があります。
実際、ナゾラビアルファットの脂肪吸引後に顔面神経麻痺を生じていると思われる症例を、ときどき見かけます。
しかし、「顔の脂肪吸引で顔面神経麻痺が起こり得る」という情報は、それほど広く知られていません。
そのため、ご本人が麻痺に気づいていないこともあります。
フェイスリフトの手術前に表情の動きを注意深く診察すると、すでに一部の動きが弱くなっている方が、実際にいらっしゃいます。頻度の高い合併症だと言いたいわけではありません。ただ、顔面神経麻痺も起こり得るリスクのひとつとして、治療を受ける前に知っておいたほうがよいと思います。
ほかにもある、「たるみ」を生じさせる可能性のある脂肪吸引
頬骨外側の張り出しを抑える目的で、その周辺の脂肪吸引が行われることがあります。
この部位には、頬骨外側の張り出し付近からモダイオラスに向かって伸びる「マラリス」という筋肉が、アジア人では一定の割合で存在します。
こうした筋肉や筋膜は、アジア人の「たるみにくさ」を構成する要素のひとつです。
しかし、脂肪吸引によってこれらを傷つけると、ジョールファットやモダイオラスの下垂につながる可能性があります。
そのため、この部位についても、私は基本的には脂肪吸引をおすすめしていません。
症例写真を見るときは、頬骨周辺がすっきりしたかどうかだけでなく、同時に次の点も確認してみてください。
・口角周辺が下がっていないか
・ジョールファットが目立つようになっていないか
・モダイオラス周辺が下垂して見えないか
・顔全体として、かえってたるんだ印象になっていないか
まとめ
ひとつの部位が細くなったことと、顔全体がきれいになったことは、必ずしも同じではありません。
症例写真を見るときには、「治療した部位がどう変わったか」だけでなく、「その治療によって、ほかの部位にしわ寄せが起きていないか」まで見ることが大切です。
この視点を持つだけでも、症例写真を見る目はかなり養われると思います。
本日も最後までお読みくださり、ありがとうございました。
ではでは。






