「この村は、人が助け合う集落ではなく、



殿の存在を隠し、殿に近寄る者を見張る


ための村なのです。」


私はその時、自分がどんな表情を


していたのか思い出せない。


ただ、涙を拭ったことだけは


覚えている。



「そして、時が経ちました。


共に村を作った家臣も

とぅとぅ私一人となりました。


村で生まれた子供たちは、


この事実を知りません。


村の子供たちが何も知らず


生きられるように、


また、村に偶然訪れた者が


この山に入らぬように


鬼と河童の話を作りました。


あなたには逆効果だったようです。」


私は恥ずかしく情けなくもあった。


Г私もずいぶんと老いました。

今すべてを話したのは、


あなたには知っていただくべきと


考えたからです。


あなたはこの村を見つけ、


この建物まで見つけた。


そして、


あなたは世界を知っておられる。


殿は人生の半分を


この森で過ごしました。


せめて、


残りの半分は世界を


知ってほしいのです。


勝手なことですが、


どうか殿をここから

つれ出してはくれませんか。」


いまでも不思議に思うのだが、

村長の言葉に私の驚きはなかった。


むしろ当然とまで思ってしまった


くらいである。



私はこの若者たちと赤子一人の4人で


旅にでることにした。



さっそく身支度をし


村人に別れを告げることもせず


出発した。


歩きはじめてすぐ雨は上がった。




森の木々は

その葉一枚一枚に


小さな雫をため、


雨上がりの雲の隙間から


差し込む光を

それぞれ好きな方向に


反射させていた。



それは


まるで光の洞窟に見えた。



つづく

情けないことですが、


先代の外交能力に頼りっきりの


我々は、戦うすべを知らず、


幼き殿をお守りすることで


精一杯でした。



我々家臣は…



民に戦わずに降伏せよと告げ


奥方様と殿を連れ、逃げました。



攻めてきた国はこれまで、


攻め落とした国の城主を


親族までも生かさなかったのです。」



私は、この二つの大国のことも


この不戦勝の戦のことも知っていた。



長老は続けた。



「我々は何日も何ヶ月も逃げ続け、


ようやくこの地を見つけ、


家族と共に村をつくりました。



あなたがなぜこの村に


たどり着けたのかは


わかりませんが、


ここは、どの方角からでも


三月以上かけて険しい山を


越えなければならず、


さらには、


発見のより困難な地形をした


場所なのです。



(因みに私ただの迷子である)



民を見捨てて逃げ出した我々に、


その罪を償う方法などありません。



せめて、


殿の血を絶やさぬと誓うことが


我々家臣の殿への忠誠と考えました。



30年前、5才で大国の主と


なられた当代がこちらの御方です。」



村長は男を示した。


女の方は、誰なのか既にわかっていた。


村長とよく似ているのだ。








私は生涯忘れない。




あの日の光景も音も


二人の表情も



村長の言葉も


一語一句すべて覚えている。




Г我々は逃げ出したのです。」


村長の声に


私は言葉を出せないまま


聞き続けた。


「私は、ある御方の家臣です。


先代の殿は、城の者にもすべての民にも


それはお優しく、愛情をもって


接しておられ、


我々は何不自由なく暮らしておりました。



先代の人柄は自国にとどまらず、


近隣の諸国とも平和を結び、


他国に災害あれば復旧に赴き、


財政難で崩れかけた国があれば


引き取って立て直し、


逃れる者あれば民として迎え、


気付けば、


大国と呼ばれるまでに


なっておりました。



一人でも多く救うを口癖に


知力、体力を存分に振るい続けた結果、


先代の限界は


とうに過ぎておられたのでしょう。


やっと恵まれた


たった一人の


まだ5才のご子息を残し、


お亡くなりになられました。



その頃、


荒っぽい方法で勢力を伸ばし、


大国と呼ばれはじめた国の者にも、


殿様がわずか5才の大国


という事実は伝わり、


瞬く間に攻めてきたのです。