「この村は、人が助け合う集落ではなく、
殿の存在を隠し、殿に近寄る者を見張る
ための村なのです。」
私はその時、自分がどんな表情を
していたのか思い出せない。
ただ、涙を拭ったことだけは
覚えている。
「そして、時が経ちました。
共に村を作った家臣も
とぅとぅ私一人となりました。
村で生まれた子供たちは、
この事実を知りません。
村の子供たちが何も知らず
生きられるように、
また、村に偶然訪れた者が
この山に入らぬように
鬼と河童の話を作りました。
あなたには逆効果だったようです。」
私は恥ずかしく情けなくもあった。
Г私もずいぶんと老いました。
今すべてを話したのは、
あなたには知っていただくべきと
考えたからです。
あなたはこの村を見つけ、
この建物まで見つけた。
そして、
あなたは世界を知っておられる。
殿は人生の半分を
この森で過ごしました。
せめて、
残りの半分は世界を
知ってほしいのです。
勝手なことですが、
どうか殿をここから
つれ出してはくれませんか。」
いまでも不思議に思うのだが、
村長の言葉に私の驚きはなかった。
むしろ当然とまで思ってしまった
くらいである。
私はこの若者たちと赤子一人の4人で
旅にでることにした。
さっそく身支度をし
村人に別れを告げることもせず
出発した。
歩きはじめてすぐ雨は上がった。
森の木々は
その葉一枚一枚に
小さな雫をため、
雨上がりの雲の隙間から
差し込む光を
それぞれ好きな方向に
反射させていた。
それは
まるで光の洞窟に見えた。
つづく