6月15日
本日は松本龍くんの誕生日
友人達に祝われる1日はあっという間に過ぎ、気付けば放課後になっていた。
軽い足取りで演劇部の部室へと向かう。
祝ってもらえるかもと僅かに期待していた松本は見事に裏切られた・・・。
本川「いい加減にしろよ!」
部活が始まると最初に行われるアップ中、突然本川部長のお説教が始まった。
部長のマジなお怒りに部室は緊張感に包まれる。
本川「アップだからって、手を抜いてんじゃねえよ!!特に松本!!」
松本「え?俺!?」
本川「お前だよ!なんだよあの発声!」
本川からの理不尽な怒りに、松本はぐっと我慢する
松本「・・すいません。」
門田「龍は真面目にやってましたよ、言いがかりはやめてほしいですわ。」
本川「は?」
森田「まあまあ、落ち着けよ瑞樹。」
本川「彬もたまには先輩としてガツンと言えよ!!」
森田「あー・・いやまあ、アップは大事だよなあ。」
門田「ほんなら先輩達かてそうやないですか。」
本川「はあ?なんだよ、お前。」
森田「いいから、落ち着けお前ら。」
門田「龍も黙っとらんとなんか言えや。」
松本「はあ・・・。落ち着こうぜ、とりあえず。」
門田「なんやねん!言われっぱなしでええんか!龍は真面目にやってたやんか!」
本川「門田は黙って聞いとけ!!」
門田「ああ!?」
松本「いいから、いい加減落ち着いて・・・。」
松本の我慢の限界はすぐ側にまでやってくる
本川「見えなきゃ意味ないんだよ!やってたつもりになんなよ!」
松本「いい加減に・・・。」
森田「いい加減にしろ!!今日は松本の誕生日なんだぞ!!」
森田の発する誕生日という単語を合図にケーキを持った八重嶋が登場した。
それと共に松本の我慢も怒りと共に限界を突破した。
八重嶋「龍くん!お誕生日おめで・・・。」
松本「そうだよ!!俺の誕生日だよ!!誕生日になんで理不尽に怒鳴られなきゃいけないんだ!ふざけんな!!」
限界を突破した怒りのまま、松本は部室から出て行く。
部室に残された部員達は予想外の出来事に固まった
八重嶋「あれれれー・・・。」
門田「やったわ、これ。」
本川「・・もしかしてサプライズ失敗?」
森田「ああ・・。超、スーパー、ハイパー失敗だよ。」
八重嶋「本川部長がガチすぎるんすよ・・。さすが演劇部部長・・。」
本川「いや以外と門田が噛み付いてくるから・・こう、乗っちゃって・・。」
門田「めっちゃ怖かったっすよ部長!?俺めっちゃ震えながら頑張ったんすから!」
森田「とりあえず反省は置いといて、このサプライズをどう立て直すかを考えるべきだ。」
門田「あー・・・。」
本川「うーん・・。」
八重嶋「はい!!!」
本川「どうした、俊。」
門田「ええ案思いついたか!?」
八重嶋「ケーキ、どこで冷やしときます?」
**
雨が強く降り注ぐ校舎裏。
誰からも見つからず、隠れるのにこの場所は丁度いい。
そこに雨に打たれながら、縮こまっている松本はいた。
松本「なんだよ・・くそ・・!」
全くサプライズに気づいていない松本は、雨に打たれ続ける。
その時松本の体に降り続いていた雨は突然止んだ。
不思議に思った松本が顔を上げると・・
田口「何をしているんだい、こんなところで。」
鈴木「・・・。」
そこには松本が濡れないように傘をさす田口とハンカチを手渡す鈴木の姿があった。
松本「えっと・・生徒会長と副会長・・?」
田口「知ってくれていて光栄だよ。」
松本「あ、ありがとうございます・・。」
田口「制服までずぶ濡れじゃないか。早く校舎に入りたまえ。」
鈴木「田口くん・・僕ジャージ持ってるから・・これ・・。」
田口「いいのかい?」
鈴木「うん・・。」
田口「ということだ。早く校舎に入り、鈴木くんのジャージに着替えて帰宅しなさい。」
松本「え、でも、俺部活・・。」
田口「部活動生か。何部?名前は?」
松本「あ、演劇部2年・・松本です・・。」
田口「演劇部か・・。」
鈴木「あ・・。」
松本「え?」
田口「丁度いい、適任がきたね。」
3人のところに木村ひなたが通りすがる。
木村「何してんの?びしょ濡れじゃん!早く校舎はいんなよ!」
松本「えっと、はい・・」
木村「うわー、下級生だよね?なに?生徒会にいじめられた?」
田口「そんなことをするか。彼がずぶ濡れでここにいるから声をかけたまでだ。鈴木くんはジャージを貸したんだぞ。」
木村「ええ?ああ、そうなの?さすが田口生徒会長に鈴木副会長。」
松本「ありがとうございます。」
木村「どうしてこんなところに・・あれ?あんた・・。」
田口「演劇部の2年生、松本くんだそうだ。僕らは忙しいから、代わりに送り届けてくれ。頼んだよ、木村くん。」
木村「はあ!?なんで俺が・・」
田口「演劇部副部長の森田くんと仲良しだろ?頼んだよ。」
松本「あ、あのジャージとハンカチ・・!」
鈴木「だ、あ、え、えっと・・明日・・。」
田口「明日返してくれれば問題ないそうだ。」
松本「ありがとうございます!」
去っていく田口と鈴木
木村「はー、勝手だよな。あいつら。」
松本「すいません・・俺一人で大丈夫ですから・・。」
木村「いーよ。どうせ彬の部活終わるの待ってて暇だし。とりあえず着替えてきな。俺は彬に連絡するから。」
松本「ちょっと待ってください!」
木村「ん?」
松本「あ、えっと・・色々あって・・。」
木村「あー、そういうこと。」
松本「・・・。」
木村「3年の教室おいでよ。あそこ今誰もいないし。」
松本「あ、はい。」
木村「その前に、着替えてきな。あそこのトイレで。」
松本「は、はい!」
着替えに行く松本
一人になった木村は、携帯を取り出す。
木村「もしもし?彬?俺。ずぶ濡れの松本くん?預かってるから。・・・良いから、今は来ないで。え?何?・・・・・・あー、そういうこと。じゃあさ、俺にとりあえず任せてくれない?」
**
3年生の教室にやってきた木村と松本。
松本はアップ中に起こった出来事を淡々と木村に説明した
木村「なるほどね。本川ねー、あいつ真っ直ぐだからなー。」
松本「何で怒られないといけなかったのかよくわかんないです。」
木村「色々溜まってるんだよ。部長さんだし。」
松本「俺は、真面目にやってたんですけど・・やっぱり他の人から真面目にやってるって見えなかったら意味ないってことですよね・・。」
木村「松本・・真面目だね・・。」
松本「雨に打たれたおかげで、頭覚めました。」
木村「え、頭覚ますために雨に打たれてたの?」
松本「はい、そうですけど・・。」
木村「すごーい・・・松本、真っ直ぐでおバカなんだねー。」
松本「からかってますか?」
木村「いやいや、落ち着いた?」
松本「はい。木村先輩と話してたらだいぶ。」
木村「誕生日おめでとう。」
松本「どうして木村先輩が・・・?」
木村「本川たちさ、松本に喧嘩ドッキリしたかったんだって。」
松本「ええ!?」
木村「だから松本が雨に打たれる必要なかったんだよ。」
松本「そうだったんですね・・・。あれ、何でそれを木村先輩が・・?」
木村「彬に聞いちゃった。松本が着替えてる間に。」
松本「そうですか・・。」
木村「ごめんね!田口に彬に届けろ〜って頼まれちゃったからさ。あの生徒会長まじで怖いんだよー。」
松本「いえ!そんな!俺こそ、話聞いてもらっちゃって・・ありがとうございました。」
木村「どういたしまして。」
松本「勘違いしちゃってたみたいですし・・俺、戻ります。」
木村「お、そっか。彬―、来いよー。」
木村は教室の外に呼びかける
現れたのは演劇部の部員たち。
八重嶋が大事そうにケーキを抱えている
松本「みんな!」
門田「堪忍な〜龍!」
八重嶋「遅くなったけど、ハッピーバースデーケーキです!!」
森田「ごめんな、サプライズしようと思ってたんだけど、瑞樹の演技がガチすぎて。」
本川「そんなにだった!?いやあ、何だか褒められた気がするなあ!!」
松本「部長の演技、すごくて騙されちゃいました。」
門田「ええ〜、俺は?俺もかなりええ演技やったやろ!」
松本「祐平もすごかったよ。あと、俺も、勢いのまま出て行ってすいません。」
本川「いいんだよ!俺らが悪いんだから!」
森田「そう!気にすんな。」
木村「まあ、全部ひっくるめてサプライズってことで。おめでとう、松本。」
松本「あ、ありがとうございます!」
八重嶋「なーんか良いところ、ひなたくんに持ってかれちゃった気がしますねー。」
木村「気のせいだよー。」
八重嶋「ああ!龍くん!これ!ケーキ!!」
松本「俊・・、ありがと。」
門田「龍、誕生日おめでとう。」
本川「ハッピーバースデー、龍。」
森田「ほらこれ、俺ら演劇部から!」
八重嶋「龍くんに似合うと思います!」
松本「ありがとうございます!!サプライズ、大成功ですね。」
次の日から、松本の腕には紫のリストバンドが付いていた。
松本龍くん、お誕生日おめでとう!