本年3月10日に前著「安全と安心の社会科学」を上梓したが、まさにその翌日東北・関東地方の沖合を震源として1000年に1度ともいうべき大地震がおこり、大津波が東北関東太平洋沿岸を襲った。さらには福島第一原子力発電所で地震と津波による電源喪失事故がおきて、目に見えない放射能の恐怖との戦いを強いられ、関東大震災と並ぶと言っても過言ではない大災害がわが故国日本を襲ったのである。

 百万人に垂とする被災者の皆様には心よりお見舞いを申し上げる。特に福島は著者の父祖の地でもあり、原発事故の予断を許さない現状には胸が痛む。今まさに日本の国力が試されているとも言える。

 実は、急いでこの小著を認めた訳は、テレビに出てくる一部の御用学者の皆さんが、自分では当然わかっているはずなのだが、国民の無知?につけこんで、放射能で汚染した水がダダ漏れしているのに原子炉容器は破損していないとか、放射線の照射線量と空間線量率、内部曝露と外部曝露を混同して安全だ、安心だと根拠のない念仏を唱えていることに怒りを覚えたからにほかならない。医学が専門で物理学は専門でない著者にもそのくらいの判別はつくのである。

一方、この大災害は安全と安心を考える生きた教科書になりうるものであり、現時点での情報をもとにその点を考えて見た。したがって、統計数値等は原則として本日現在の暫定的なものであることを予めお断りしておく。

震災後の新聞、雑誌、原子力関係の書籍は渉猟したので、重要な事実と問題点は網羅されていると思うが、紙幅の関係で詳述できなかった点もあるので、震災、原発事故の経過については巻末に記した参考文献を参照していただきたい。

 前著にも書いたように、天災にも人災の要素が必ずあり、それには原因があるが、起きてしまった事故の危機管理はマニュアルどおりにはできないものであり、結局のところ当事者、そして国民の人間力が問われるわけである。8章の「危機管理」がその点で前著の延長上にある。

いずれにせよ、著者は大震災をわれわれ日本国民が必ずや克服していけると信じるものである。しかし、そのためには本文でも少し触れたようにパラダイムの転換が必要ではないだろうか。