追憶・お日様と『黒いメダカ』(2) | 珍説・「豐葦(タカツキノアシ)原の瑞穂の国」 

珍説・「豐葦(タカツキノアシ)原の瑞穂の国」 

古事記に載る「豊葦原瑞穂之国」の解釈に付いて、第三の解釈があってもいいのではないかと思い、イネ科ヨシ属の(セイタカヨシ)の登場を願い、此処に珍説を披露するものです。

 (四)  


勇次は、暫し我を忘れていたが、やっと現実に戻ると・・・

或る疑問にぶつかった。


「どうして、〔上がり湯〕の中に『黒いメダカ』がいたのか?」

「それを入れた犯人は誰なんだ?」

と、それはごく当たり前な疑問だった。


それで・・・無い知恵を絞り、それらしい答えを見出した。


「此処の一切を任されているのは番頭さんだから、番頭さん以外の人は考えられない」

「とすれば、『黒いメダカ』を入れた犯人は番頭さんに違いない」

「そうだ。番頭さんが犯人だ!」


勇次は自分で自分の答えに満足し、些か得意満面。


すると、丁度いい具合に・・・


当の番頭さんが、女湯での仕事が終ったのか、例のねじり鉢巻に股引姿と云う装いで、男湯に向かって来るのが目に入った。


勇次は是はいいタイミングとばかりに、早速、入って来た番頭さんに、


「番頭さん。番頭さんが入れた『黒いメダカ』、女湯の小母さんが全部捕って行ってしまったよ」

と、〔上がり湯〕を指差しながら報告した。


学校で、先生に告げ口をしている様な後ろめたさもあったが、この場合は仕方がない。


だが、番頭さんは・・・

「儂が『黒いメダカ』をどうしたって?」

と、怪訝な顔で寄って来た。


「番頭さんが『黒いメダカ』を入れたんでしょう」

「いや、儂は知らん」

「・・・」

「坊主、その『黒いメダカ』とやらは本当にいたのか」


「はい。僕は見ました、本当です」

「そうか、坊主が見たと云うなら信用しよう。ところで坊主、そいつは一体何匹いたんだ」


と、今度は番頭さんが問い掛けて来た。


「・・・」

勇次は急な質問に戸惑ったが・・・咄嗟に、両手を出して凹型を作り、

「この位の黒い塊で泳いでいたけど、もじゃもじゃしていて数えられなかった」

と、有りの儘を有りの儘に答えた。


すると、番頭さんは眉をひそめて、

「黒い塊が・・・もじゃ・・・もじゃ」

と、変な口調で呟いたかと思ったら、やおら、顔を天上に向け、


「昨日の大風で(よしず)が外れたか?」

と、独り言を云った後、

「ところで坊主。坊主は小学何年生だ」

と、是又、場違いな質問をして来た。


「四年生です」

「四年生か、四年生では少し無理かな・・・いいか坊主。上の天窓を見てみろ、紐が二三本見えているあの真ん中の天窓だ」


番頭さんが右手を上げて天窓を指す、釣られて勇次も其処を見ると、番頭さんの云う通り、真ん中の天窓に紐らしき物が見えていた。


「うん、分かった・・・」

勇次は答えたものの、話が犯人探しから外れて行くのに少し戸惑っていた。


だが、そんな勇次に関係なく、番頭さんは、身振り手振りで演説を始めた。


                         (続く)