• まだ観ていない人に向けて

 「私より絵が上手いなんて許せないっ!」

 クラスの学級通信で、小学生ながら四コマ漫画を連載している藤野にここまで言わせた京本は、実は藤野の大ファンであった。二人の出会いが、未来に繋がっていく。

 変えられないことや自分と対峙したとき、人はどうやって向き合うべきなのか。そんな答えを、本作のポスターは象徴的に体現していると思う。

 

  • 感想(ネタバレ有り

 最初に言っておきたい。私は、明らかに原作の方が面白いと思った。正直、インターネットのレビューや評価に困惑しているぐらいである。確かに原作を知らずに本作を観たら「なんて凄いものを作ったんだ」となるのだが、知っている者としては「わざわざ映画化する必要があったのか」と思ってしまう。映画化と聞いて、期待をしすぎていたのかもしれない。それか、原作を知っているからこそ、それに対する個人的な印象を映画に求めてしまったのかもしれない。以下は私が違和感を持った点である。

 

① 声

 原作の台詞は、漫画だからこそ自然に、藤本先生独特の「妙に雰囲気に合ったリズム」で伝わってくる。しかし、漫画の台詞を動画でそのまま発言されると違和感がある。例を挙げれば、京本が初めて藤野に出会って慌てる序盤のシーン。アニメーターがこだわったであろう藤野の無表情さに対し、声が浮いていると感じたシーンもあった。このことから、各キャラクターの声のイメージを守るのに必死で、演技を忘れているような気がする。結果、漫画の吹き出しをそのまま読んでいるように聞こえたのだろう。

 

②アニメーション

 物凄くレベルが高かった。個人的には京本が藤野に寄っていくノソノソ感は、原作の印象そのままで、「ああ、京本が動いている」と感動したぐらいだ。藤野が京本の手を引っ張っていくシーンも大好きである。藤野は自分が外の世界へ連れ出してしまったことを後悔するのだが、京本自身から見たその時の藤野の姿がどれだけ愛おしく、嬉しく、頼もしい存在だったかを感じさせてくれるシーンで、見ていてグッとなった。しかし違和感を持ったシーンが2つある

 1つ目は「京本からファン宣言をされ、雨の中を疾走する藤野」のシーン。本作の見所の一つであり、個人的にも走る後半部分は、頑固だけど高ぶるテンションが前面に出てしまっている、藤野の慣れない気持ちが表れているように感じられると思い、グッときた。違和感を持ったのはその前半部分の走りである。どちらかと言えばリズムを取っているようなシーンがあった。リズムを取っている。私はこのシーンの藤野は、嬉しいような誇らしいような、そういう感情が溢れてしまって無我夢中になって走っているのだと思っていた。なのに、妙に一定の型を意識して舞っているような動きが違和感だった。しかしこの違和感は完全に私の主観だと思う。

 2つ目は「京本が美術大学に行きたいと涙を流す姿を見た藤野」のシーン。一瞬顔が震えた。非常にリアルな人間の反応なのかもしれないが、私には違和感だった。他のアニメでも感じる事なのだが、リアルな演技を追求しすぎて、一定のデフォルメを前提にしているアニメのキャラクターに、いきなりリアルな人間の反応が入ると、「気持ち悪い」と感じてしまう。これも私の主観だ。

 

③ 演出・音楽

 上映早々から強く思ったのだが、BGMの音量大きくないか?

机にかじりつく藤野の後ろ姿は、もっと静かに、シンとしているイメージだったのだが、聞こえてくるのは雨の音や生活音のみの印象だったのだが、変に音楽が鳴り響いていて、原作とのギャップを感じた。

 最後の「京本との思い出がフラッシュバックするシーン」だって、「押しつけがましい」と思った。異様に音量が大きく、「ここで感動するんですよ!さぁ鳥肌が立つタイミングですよ!!」と感動をセールスされている気分だった。それを我慢して、私は「ああ、藤野が何のために絵を描いてきたのか。それはきっと、とても身近な理由で、とてもシンプルだったんだ。」と感動していたのだが、フラッシュバックが段々と長く感じるようになってきた。原作以上にカットが多い。その間、押しつけがましい音楽が同時並行するから、感動から冷めてしまった。長々と続くCMを見ているような気分。「原作は人気があるんだし、アニメーションのレベルも高いし、ここら辺で良い感じの音楽を流せば感動するだろう」という考えがあったのかと、疑いたくなってしまう。

 

まとめ

 原作『ルックバック』の人気は絶大である。これが映像化されれば、大勢の人が足を運ぶことはほとんど間違いなかった。だからこそ、「作品の印象を変えないように」とか「万人受けするようなテーマや演出が必要」となってしまい、原作が持っている、「薄暗くも力強いパワー」が失われていったと感じた。誇張された感動物語に成り下がってしまっているように感じた。

 また、アニメーションではなく、漫画だからこそ出来る表現があることも学んだ。アニメなら、行動と行動を繋ぐ動きを挿入する必要があるが、漫画であれば必要なカットをコマにあてはめていけば良いのであり、その方がスピード感を持ってキャラクターの気持ちを描けることもある。感動シーンだって、アニメーションならば音楽が無いと盛り上がりに欠けるが、原作の『ルックバック』を読んだ人であれば、最後のページを思い出してほしい。とても静かだ。この方が、黙々と決意を持って漫画を描いている藤野の気持ちが伝わる。コマ割は構成次第で、アニメーションには表現できないことが描けるのだと思った。

 以上が私の感想である。インターネット上の多くの人が口を揃えて高評価をしているため、正直「自分の感覚がズレているのか」となっている。なので、これを読んで反論や共感があれば、教えてほしい。