・まだ観ていない人に向けて

 普通の映画じゃありません。ホラー映画でもありません。しかし、この映画を私が一言で表わすなら「トラウマ」です。いろんな意味で観る時に体力を使いますが、めちゃくちゃ面白いです。まずは観ましょう。観ながらいろいろ考えて、解説記事等を読んだら、驚愕すると思います。私も理解できない部分があるので、皆さんの意見を聞いてみたいぐらいです。

 

・感想 ネタバレ有り

 部屋を暗くして、楽しむ気満々だったのだが、この映画の始まり方からして時間を無駄にするような映画なのではないかと不安になった。なぜなら2時間半ほどのこの映画を観始めたのが0時だったのだ。明日朝早いのだ。そして内容はとんでもなくぶっとんでいたから。

 

「なんじゃこりゃ」

 「美しくも不思議なミステリー」って聞いていたのに、最初まったく会話がないので違和感でしかなかった。「お前ら誰やねん」っていうのもあった。そして感覚的には「パルプ・フィクション」かって思わせるぐらい、無関係の各キャラの描写が続いた。何を観ているのだろうかともなった。そして途中から各キャラの配役が変わる。この感じは「ファーザー」を思い出した。が、これは認知症によるものではなく、前半の内容が「夢だった」からであった。

 

「予想・熟考」それが醍醐味

 ここで私は自分の最初の予想が当たっていたのが嬉しかった。主人公の両親の感じとかが不自然だったし、主人公が空港から出たとき「夢みたい」って言ったからだ。その時の鞄の有無にも違和感を持っていた。しかし夢なら「主人公以外の成り行きを映せなくね」って思ったからこの説を捨てていた。しかし全ての描写が主人公の願望だったらしい。確かに他人に焦点を合わせた夢もある。自分が主役になるよう監督を脅すのも、ヒロインが恋人になるのも、ぜーんぶ「こうだったらいいのに」っていう夢を見ていたのだ。あのとんでもなく気持ち悪い遺体は主人公自身で、これが夢である象徴的なもの(見たくない現実)だったのだろう。

 

私的トラウマシーン

 パン屋さんで、夢と同じ状況が段々と作られていく様は面白かったな。ワクワクした。デジャブのように「どこかで見た、同じ映像」が捉えるカットの動き(看板の前を通り過ぎる様子や、会計をする男の様子)は、私にも経験がある。なぜか見覚えのある不気味さ。結末も分かっている、だから怯えるのだが、逆らえない。行く先々がデジャブで、避けようがないのだ。外に出て、「怖い男」がいる角を曲がろうとするあのシーンは、本当に怖かった。あそこにいるのは流れで分かっていたはずなのに、途中で動画を止めてじっくり見れば男が座っているだけの画像なのに、あそこに誰がいようと私はとんでもない恐怖感を持つだろう。悪夢が持つ「避けられない恐怖」を、起きている状態で体感した気分だった。あれはトラウマになる。

 

「疑問」と「怖さ」

 二人が森を駆けていくシーンは綺麗だった。その先で主人公は裏切られるわけだけども。結局カウボーイは何だったのか、ショーを見ている意味は?内容は?最後のシーンの意味も気になる。この映画は怖くしようとしたらいくらでも出来るシーンがあった。しかしあえてそれらをスカすことで他の怖いシーンがより怖く、スカしたシーンでは妙な空気感を演出していた。これが夢っぽさなのだろうか。最後、両親が笑いながら詰め寄ってくるシーンはホラー以外の何物でも無いぐらい狂気を感じた。これを真っ暗な深夜、一人で観ていたのも悪かったのだろう。後ろの壁に映った自分の影すら怖かった。

 

「追記」

 今調べて面白かったのを追加する。どうやらこの映画は、名誉と金と権力が渦巻くハリウッドそのものも表わしていたようだ。主人公はそんな世界に憧れた一人の少女だった。夢の中で名乗るベティとは、別のシーンのウエイトレスの名前と一致する。こういう少女は下積時代にウエイトレスをしていることが多いらしい。だから「私も彼女たちも」というような事を言っていたのだろう。パン屋で話していたダンは主人公の代弁者、彼は「夢の証拠である怖い男を見たくない」という。しかし夢と同じ状況が続いて、これが夢だと気付くっていうのも面白い。この映画は難解だが、構造が理解できればめっちゃ面白い。「ただ夢の様子を表現する」だけにとどまらず、「こんな人が見る夢だから」を反映させ、後半に夢から覚めさせることで、人間関係等に矛盾を作り、視聴者を混乱させる映画。どこまでも考察を巡らせることの出来る映画だ。凄い。