観ていない人に向けて

 殺人事件の犯人として刑務所に入れられた主人公。閉鎖感と絶望感が漂うその場所で、彼は他の者とは違う、散歩でもしているかのような雰囲気をまとっていた。親友の語りで進行するため、主人公が何を考えているのか一切分からない。信用して良いのか分からない。映画を観て、ぜひ考えてみてほしい。主人公をどんな人だと思ったか、なぜ彼は他の者と違ったのか。

 

 

 

感想 ネタバレ有り

「印象操作」

 冒頭から閉塞感の強い映画だと思って観ていた。だからこそ春の珍事で酒を仲間に飲ませてやるシーンが印象的だった。レッド曰く「シャバのような自由を感じた」、伝わる。酒を飲んでいる様子を眺めながら、満足そうに微笑んでいる主人公が信じられる奴だと思えたシーンだった。制作者の狙いで主人公が本当に無実であるかは作中では明言されていない。それに加え主人公は正直に不利になるようなことも言う。何を考えているか分からない顔もする。「彼が無実なのか分からない」状態からの、この印象操作は完璧だった。印象が変化する人物ほど記憶に残りやすいのかもしれない。良い面でも悪い面でも。

 

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 その後の主人公の活躍は、見ていてワクワクするものがあった。段々存在が大きくなる様子は、こっちまでやれることが増えていったかのような開放感がある。それとは別にヤられるみたいな監獄あるあるは「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」って思ったが。絶対に刑務所には入りたくない、というか本当にあんなことがあるんだろうか。

 

「みんなが空を見上げていた」

 本とかを寄贈してもらった時の感想も印象的だ。「たったの6年」。週に一度州へ手紙を6年間監獄から送っていた事に、「たったの」という言葉を使っている。主人公の本寄贈に対する思いと、その行為がいかに無謀で困難なことだったかを表わしているように感じた。

 そしてよ、これまでに勝ち取った看守からの信頼があるにも関わらず、本の寄贈後すぐに音楽を全体放送で流すという違反行為。囚人のように何年も監獄の閉鎖感を感じてきた視聴者(私)にとって、その歌は救いだった。歌はオペラのソプラノのような普段なら絶対に感動しないような曲だったが、なぜか感動した。この音楽を流して看守に怒鳴られているときの主人公の顔は、酒を仲間にやった時の顔と一緒で、彼が「何を喜びとして生きているのか」を物語っているようにも感じた。それにこの音楽を流した要因として、クロックスの自殺も関係しているのかもしれないと思った。彼の50年というブランクからくる出所への孤独感や不安は計り知れず、追い込まれていく様子は胸が痛かった。「出所して追い込まれていく人もいるのか」と学ぶ。

 

「どっちを信じたい?」

 新しい囚人が入所してくるという流れも見ている側は飽きない、むしろワクワクするような展開だ。新人トニーが監獄の生活に馴染んでいく様子も勉学に励むようなった事も、高校卒業認定を勝ち取った事も、観ていて楽しい。彼のような正直で明るい性格の人は、昔と比べて減ったのか増えたのか気になる。その分銃殺シーンは悲しかった。主人公とレッドの会話で印象に残ったのは「忍耐には限界がある」と「必死に死ぬか、必死に生きるか」だ。どっちも現実的で正しいんだけど、どこか矛盾しているというか、この時点での彼ら二人の考え方の違いを見せているような台詞だと思った。こういうキャラが立つような台詞は好きだ。彼らの考え方が形になっている感じが。

 

「名作」と言われる理由

 そして自殺やらの不穏な雰囲気の朝に、主人公は脱獄したっていうのがね。展開をまったく知らなかったっ事も相まってめっちゃ興奮した。そうくるかと、あの時の小さなツルハシがここでかと。そして「フィニアスとファーブ」がこの映画を真似たシーンを使っていたこともを知った。この映画が余計に名作に見える。下水の道を這っていくシーンは「うわぁ」となったが、自分が同じように何年も閉じ込められていたらどういう行動をとるか分からない。そっから脱出して雨の中天を仰ぐシーン!まさに「解放・自由」を勝ち取った感覚を全身で体現しているようで印象に残る。そっからのドンデン返し展開は見ていて気持ちが良かったなー、伏線回収が鮮やかに爽快にされて、ほんっとにスカッとした。出所後のレッドが例によって不安に駆られている時に主人公の言葉を思い出して、それを頼りに再会するっていう最後のシーンも感動だった。草原や空の様子が、非常に温かい雰囲気だった。

 

「あなたは持っていますか」

 結局この映画は何を伝えたかったのか・見せたかったのかについて、最初はストーリーの面白さに見入っていて気付かなかったが、時間が経って二回目を観たら分かったような気がする。それは「希望を持つことの大切さ」だろう。作中でも主人公は当然のように「人間の心は石じゃない。誰にも奪えないものがある、それは希望だ。」と発言している。行動も「希望をみんなに与えている」と考えると、表情に納得がいく。この行動自体が主人公にとって趣味のようなものだったんだろう。でもその考えに納得ができなかった現実的なレッドを、出所後の不安な状況から救ってくれたのが「親友の言葉・あいつに会えるかもしれない」という「希望」だったっていうのがまた、映画のメッセージを強くしている。希望がないと人間前なんか見れない。全体を通して、人物の表情やら仕草がほんっとにそれぞれの心情とリンクしていて、映画全体が魅力的に見えた。個人的にこの映画は、面白いとか感動するというのではなくて、「魅力的な映画」っていう表現がしっくりくる。この映画のすごい所は、刑務所暮らしを通して「希望を持つことの大切さ」を表現した事ではなく、「希望が大切だと考えている人の行動」を、親友目線から描写している点だ。これにより、「視聴者に何が大切か」を考えさせられる。親友目線に描写が固定されているから、彼の目の届かない展開を最後に持ってくることによって、意外性を演出し、希望の大切さに説得力を持たせている。作り込まれている。

 姉は、最初ゲームをしながら視聴していたが、最終的に映画に夢中となっていた。