マッサンの技師としての執念 | 山本祥一朗の酒情報

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30年以上も前の拙著に『日本産ウイスキー読本』というのがある。そこでは当時のウイスキー会社の社長との対談を収めてあるが、ニッカの竹鶴威氏との話の中で、原酒の樽を作っていた職人さんが、元は桶屋だったが商売にならないのでウイスキーの樽作りに来たそうで、その仕事の一部である輪っかをはめる作業などを体験させてもらった、という話題が出した。今は機械で締めているが、縁の下の力持ちといった作業で、その他にも燃料をくべることなども体験したと話した。いわゆる労働の部分である。

NHKの『マッサン』を見ていると、ウイスキー造りのこのような隠れた部分の話を実感として思い浮かべる。マッサンがスコットランドでおそらく体験したであろう、このような下積みのウイスキー造りを日本でも、という気持ちはわからないではない。

竹鶴政孝氏が会長として存命の頃、ニッカの営業担当重役が「お客様の前でも会長は弊社の安いウイスキーを飲まれるのは困ります」とボヤいていたのを思い出す。安いウイスキーも、それなりに可愛いのである
(写真は樽作りの作業と燃料をくべる作業の筆者)