数年前のことだったが、古本の買い取り業者が来て書棚から何冊か持って行ったことがあった「ここへ来る前はどこへ行ったのですか」と訊いたら、池部良さんのお宅へ行ったという。そこからはだいぶ離れているはずだが、池部邸には珍本、奇本でもあったのだろう。 池部さんは3年前に亡くなられていたが、生前には酒の話をいくつか書いている。その一つに『酒あるいは人』(平凡社)という海外での酒体験を書いたものがあり、その中に「オランダの透明な酒」という話がある。これは、ジュネヴァで「オランダに来て飲まねばならぬ酒はジュネヴァを措いて何があるか」と言われて飲んだが、これをストレートで飲むのは素人で、ジュネヴァを一口飲んではビールを一口というのが玄人の飲み方だと教えられた、とある。 私はかつてベルギー方面からオランダへ足を踏み入れるや、その足でロッテルダム郊外のジュネヴァの工場を訪ねた。巨大な風車のあるその工場は見学受け入れには充実していた。 杜松のことをフランス語でジュニベルという。そこから来たのがジュネヴァである。杜松の実が健康にいいということからはじめは薬用として使われていたもので、写真にあるのは、その杜松の実と見学した工場の一部である。 工場の試飲室でジュネヴァを勧められた。キュンと鼻をさすジュネヴァベリーのこの風味はかなりクセが強いだけに抵抗はあるものの、いったん取りつかれたら病みつきになる性質であると思われる。ガイドが言った。「日本のお酒は温めて飲むそうですが、このジュネヴァは10~12度くらいがフレーバーが出て最もおいしいんです」 クセの強いジュネヴァとは反対にクセのあまりないビールのハイネケンがオランダの風味というのも面白い。