トレッキングのスタート地点である山間の村パコラへ向かう朝、運転手との約束通り7:30にはジープが停車している通りに宿から歩いて行った。ここは物産店のような店が並んでいる地味な通りで、ここを起点の山間の村々へ様々な物資を運ぶ輸送用のジープが発着しているらしい。一般の人はあまり来ない場所のようだった。ここで待たされること6時間。どうやら運ぶべき物資や乗客が目一杯になってからの発車のようで、昼過ぎになってようやく出発。暑い中待たされたこともあり、出発するころには少しグッタリ疲れていた。しかも、出発時に分かったのであるが、道中は決して席に座って行けるわけでなく、我々はリュックと様々な物資が満載されたジープの最後尾に足を掛け、手すりにつかまっての移動となった。道路はギルギットの街から出るとすぐ未舗装の砂利道になった。揺れる中で振り落とされないようしっかり手すりにつかまる。炎天下の山間の道を疾走するジープの道中はなかなかしんどかった。陽が傾き始めると涼しくなってきたが、今度はトゲトゲの枝がジープまで迫る木がたくさん生えていているエリアに突入した。手すりにつかまりながら、時に中腰になったりしてトゲの木を避けながら行った。

 

ようやくパコラに着いたのは夜7時過ぎ。ジープはさらに奥の村に行くようで、我々は村はずれに降ろしてもらった。運転手と握手をしたあと山道の遠くに消えていくジープを見送ると、あたりはもうかなり薄暗い。ガイドブックによると、この村に宿はなく、適当なところにキャンプせよとのことだった。通りかかった村人に尋ねて、ジープを降りた場所の近くにあった果樹園にキャンプさせてもらうことにした。持ち主に許可をもらうといったことも不要らしい。言葉がちゃんと通じたわけではなかったが、どうやら勝手にやって問題なさそうであった。ここから夕食の準備である。朝7時半に集合し、6時間待たされ、その上6時間かけてジープで移動した後に、テントを設営してからの食事の準備である。前回のブログにも記載したとおり、カレーやシチューの野菜を切るところから始める想定だったのであるが、ここへきて飛んでもなく良くない作戦であったことに気づいた。本当にげんなりであった。

 

この日は9時過ぎには寝た。翌朝は快晴。暗くて放置しておいたためカレーでカサカサになった鍋類を近くの小川で洗って、テントをたたみ、荷物をパッキングしてスタート。半年ほど意気揚々と準備してきたトレッキングであるが、いざ始めるとなると、ちょっと怯んでしまうような、なんとも言えない気持ちであった。他方、昨日のぐったりさせられる移動や、その後のげんなりさせられる食事の準備なども重なり、奥さんはあまりモチベーションが高くなかった。二人とも黙々と歩き始め、途中村人に山へ向かう道を尋ねながら、やがて村はずれまできて、とうとう山の中に入っていった。いよいよ3泊4日のトレッキングの開始である。

 

パコラ村は標高1900メートルくらいで、この日は3500メートルくらいまで登る予定であった。予定所要時間は5-6時間。山に入り一時間くらいすると、近くの村に住む人だろうか、どこからともなくヒゲもじゃの粗末な身なりをした男が一人現れ、話しかけてきた。ここで何をしているのだろうか。山で何か仕事をしているのであれば道具を持っていたりするだろうが、手ぶらなのである。言葉は通じなかったが身振り手振りも交えて、どこへ行くのか?と尋ねてきた。「アスンバル峠を越えてヤスィーン村へ行く」と伝えると、「荷物を持ってやるからポーターとして雇え」と言っているようで、リュックを背負うジェスチャーをしてみせた。丁重に断ると、「そうかそれじゃ」と森に消えていった。もし雇うといったら、その場から手ぶらのまま3泊4日ついてきそうな勢いであった。ここから先、人と会うことはほとんどなかった。

 

(つづく)

 

↑一日目の山道の風景。遠くの雪山が明後日に超えるアスンバル峠