早朝スエズ港にてスーダンへの船へ乗船。天気は快晴。サウジアラビアのジェッダ経由で、ポートスーダン(正確にはポートスーダンの隣のサワキン港)までの3泊4日の船旅だ。学生時代に八丈島へ行ったときのフェリーと同じか少し大きいくらいの船だと記憶しているが、おそらく乗客数1,500名ほどの船だと思われる。チケットは、ざっくりいうと船内個室の1等、船内の席や雑魚寝スペースの2等、船外のデッキで雑魚寝の3等がある。3等の私は、乗船後すぐ他の乗客とデッキ上の場所取りを争った。シーツを敷いたり自分の私物を置くことにより場所を確保するのであるが、持っていたタオルケットを敷こうとすると、近くにいた真っ黒なイスラムの服を頭から被ったスーダン人のおばさんが、私にすごい剣幕で何か命令口調で言ったかと思うと、いきなり自分の赤ん坊を私に寄越してきた。おばさんが場所取り作業をし終わるまで、しばらく抱いていろとのことらしい。見ず知らずの東洋人の兄ちゃんに自分の子供を放り投げるように預けるとは、すごい神経だなと思いつつ、子供は皆で面倒を見るのが当たり前という、とても大らかな文化であることが想像された。しばらくして赤ん坊を返すと、おばさんはニコリともせず当たり前のように受け取った。

 

私も場所を確保して、少し船内を歩き回っていると、人が次から次へと乗船してきて、しばらくすると、どこもかしこも人だらけになった。どうやら乗客の9割は、サウジアラビアのメッカへの巡礼に向かうエジプト人で、残りがスーダン人や他のアラブの国の人々のようである。私のような旅行者は、私ともう一人オランダ人の若者だけのようであった。

船内もデッキも人が溢れんばかり。船内には恐ろしく映りの悪いテレビが設置されていたが、20型くらいの決して大きくないサイズであるにもかかわらず、200人くらいの人だかりがテレビの画面にくぎ付けになっていた。どうやらワールドカップサッカーの中継をしているのだが、音声は大丈夫なようだが、電波が悪いのか、敵味方がよくわからないほど画像が悪い。他にやることがない退屈な船の旅とはいえ、そんな調子の悪いテレビに大勢の人がくぎ付けになっているのは少し異様だった。

また、トイレも超満員であった。トイレは人の多さに加え、暑さとすごい湿気で、相当環境は悪かった。出航前にもかかわらず、早くも詰まって汚物が流れないまま山盛りになっている便器もあった。このトイレに遭遇したときは先が思いやられ、かなりモチベーションが下がった。

 

やがて出航。船が紅海の波を切って進む。深い青色の海が美しい。砂漠であることから陸地は乾いた砂色で殺風景なのであるが、海の色とのコントラストが素晴らしい。その陸地もだんだん遠ざかる。「やれやれ、やっと船旅開始か・・」などと思っていると、陽がどんどん高くなり、気温がうなぎ登りに上がってきた。また、海上の湿気もあいまって、3等のデッキはかなり暑苦しくなってきた。正午頃には不快指数がMAXになり、いったん空調の効いた船内に避難したが、大変な人込みで落ち着く場所がない。仕方ないので、またデッキに戻る。何か腹に入れようかと、買ってきておいたパンをザックから取り出すと、カビていた。がっかり。私はさすがに戦意を喪失してしまった。以後、「5分おきに腕時計を見ては、ただひたすら時間が早く過ぎるのを願う」といった、パキスタンの酷暑の列車の旅を思い出せるような、ネガティブな心のモードに入ってしまった・・。

 

↑スーダンのおばさんにいきなり赤ちゃんを渡され少々困惑気味のわたし

 

(つづく)