エジプトとスーダンとの国境にはヌビア砂漠が横たわり、その真ん中にナセル湖という湖がある。この湖は、氾濫防止と渇水年の貯水量不足を解消するため、ナイル河を堰き止めて建設されたアスワン・ハイダム(1971 年完成)によって生まれたダム湖である。面積が琵琶湖の8倍近くという巨大な人造湖で、時のナセル大統領にちなんで名づけられた。(ちなみに、世界最大の人造湖はジンバブエ・ザンビアにまたがるカリバ湖という湖で、ナセル湖のさらに1.5倍もある。またナセル湖の十年近く前に完成したらしい)。

このナセル湖エジプトからスーダンへ入国する船があったのだが、私がスーダンへ行こうとした時期には両国の関係が悪化していたことから、この船が休航していた。代わりに、スエズ運河で有名なエジプト北部のスエズという港から、サウジアラビアのジェッダを経由して、スーダン北東部のポートスーダンへ就航している船を利用することになった。3泊4日の紅海の船旅である。デッキで雑魚寝する3等のチケットが100ドルほど。

 

 

出発前日にカイロを発ち、夕方にスエズ港の近くの宿に入った。私が泊った10台くらいベッドのある広々としたドミトリーは、大きな窓から西日が入り、かなり暑かった。客は私一人。賑やかなカイロから急に静かな環境になったが、久しぶりにそれも良いかななどと呑気に構えていた。5月にパキスタンにいた時、ペシャワールからクエッタまで2泊3日の激暑の列車の移動があり、一刻も早く終わらないかと願うあまり、暑さと喉の渇きに耐えながら5分毎に腕時計に目をやり続けるといった経験があったが、この船旅もパキスタンのヤツに負けず劣らない旅になるとは、想像だにしていなかった。

 

(つづく)