カラシュ渓谷で1週間のんびりと過ごし、イランへ向かう気持ちになった。そのために、まずはペシャワールに戻らねばならない。そのためにはペシャワール行きの乗り合いバンの起点となるチトラルで1泊する必要がある。チトラルではペシャワール行きのバンが出発する場所の真ん前のホテルに泊まった。

 

チトラルは山間の小さな田舎町である。昼間でも「下界」のような騒々しさとは無縁であるが、日が暮れるといよいよ人通りもなくなり、かなり静かになる。宿の食堂で軽く夕飯を摂ったのち、本を読んだりしながら煙草を吸ってくつろいでいた。イスラム教を国教としているパキスタンではアルコールはない。平和な夜である。食堂にはテレビがあり、その前に宿の人らも集まってくつろいでいた。テレビでは天気予報らしき番組がやっていた。観ていた宿のおじいさんが顔をしかめているので、どうしたのかと聞くと、明日は大変暑く、「下界」では最高気温が53度くらいになりそうとのことだった。涼しい夜も今日までと思っていたが、53度とは度を越した暑さだなと笑うしかなかった。

 

翌日ペシャワール行きのバスは早朝5時頃の出発だった。宿のおじいさんに朝起きれるだろうかと相談すると、30分くらい前に起こしてやるから心配するなと言ってくれた。なんとご親切な。そして、翌日おじいさんは約束通り部屋まで来て起こしてくれた。ただ、まだあたりは真っ暗。腕時計を見るとまだ2時半。どうやら夜中にルーチンとなっている小用のついでに起こしてくれたらしい。2度寝できそうもなかったので、結局そのまま朝まで起きて暗闇の中で煙草を吸って夜が明けるのを待っていた。あまりの大雑把さに驚いてしまったが、今思えば、年老いたおじいさんが、目覚まし時計もない田舎で、ちゃんと私を起こすことを憶えておいてくれたことだけでもかなり感謝すべきことかもしれない。

 

↑チトラルの街の男たち

 

(つづく)