バンコクで2泊の時間をつぶした後、インディアンエアでカルカッタへ。カルカッタの空港からは、貧乏旅行者向けの安宿があるサダルストリートへ。飛行機の搭乗時に知り合いになった日本人旅行者何人かでタクシーをシェアする。その途中で空が真っ暗になりバケツをひっくり返したような夕立が降ったが、サダルストリートに到着する頃には止む。タクシーを降りて雨上がりの少し薄暗い曇り空を見上げ、いよいよ旅が始まると実感する。

 

カルカッタでは1泊だけして、すぐ翌日の夜行列車に乗ってプーリーへ。プーリーはカルカッタのあるウェストベンガル州の隣にあるオリッサ州の海岸沿いにある小さく静かな地方都市。ジャガンナート寺院というインドでは有名なヒンドゥー教のお寺がある聖地。(ここで行われる4年に一度の大祭のNHKドキュメンタリーを以前観た。数百名を載せる60トンもある巨大な山車が街を練り歩くのであるが、毎回森から何千本と切り出した木材を組んだ手作りの山車であることに大変驚いた。しかも設計図はなく棟梁から棟梁へ口伝であることを知って、「うーん」と唸ったきりで言葉も出なかった。インドの偉大さを心から実感した。)
カルカッタの夜行がお昼前に終着地プーリーへ着くころには乗客はまばら。ベンガル湾にまっすぐ向かって南に延びる線路もプーリー駅で終わる。列車がプーリー駅に完全に停車すると、到着したことを知らせる短いアナウンスの後、あたりは静寂に包まれ、海からの風がそよぐ。
プーリーは安宿も多く居心地が良いことから長期旅行の貧乏旅行者が溜まる場所としても有名である。僕は旅のはじまりとして、ストレスが少なそうなプーリーに1週間ほど滞在しようと計画していた。旅をし始める以前に、まずは居心地の良さそうな場所での滞在を通じ、故郷から離れて暮らす生活自体に気持ちを慣らせていくことが必要と考えたからだ。

駅からサイクルリクシャで10分ほど行った海岸の近くにある安宿に滞在することにした。部屋には天井のファン以外、空調はなく暑い。蚊やハエが自由に部屋へ侵入してうっとおしいことこの上ない。それ以外は、狭苦しくもなく、使いやすい部屋である。水シャワーとトイレも部屋についていた。

尚、カルカッタで会った休暇中の日本人のおじさんとツインの部屋をシェアすることにした。IT企業に勤めているという40代のおじさんで、学生時代にプーリーへ来たことがあるらしい。今回は1週間の休暇を取って、懐かしいプーリーに数日滞在することだけを目的に来たらしい。相部屋したことにより1泊2食付きで一人300円ほどだったと記憶している。

 

プーリーの最初の晩、あまりにもカレーが美味しかったからか、食べ過ぎてしまった結果、生涯を通じても1,2を争う酷い下痢になった。そして、なんと相部屋のおじさんも全く同じような症状に。真夜中に便意で目が覚め、それ以降、二人して交互に数えきれないくらいトイレとベッドを往復した。そのうち吐き気もして、胃の中のものを吐き切って何もなくなってからも吐き気が止まらなかった。翌朝はグッタリしてベッドの上で精魂尽き果てていた。身体に力が入らず、口を開けたまま目玉しか動かなかった。窓の外には青空がチラッと見える。日本から持参した下痢止めも全く効かない。

少しして便意がやっと落ち着いたと思われたころ、宿の人にサイクルリクシャを呼んでもらって相部屋のおじさんと薬局へ行くことにした。相変わらず身体には力が入らないので、サイクルリクシャの上で上半身はうなだれたまま、二人揃って舗装されていない路面で身体は揺れるに任せるといった有様であった。なんとか薬局にたどり着いて薬を飲むと、ほどなく便意と吐き気はピタっと落ち着いた。電解質の粉末を入れた水を飲み脱水した身体に水分を補給する。今日一日何も食べないで暮らせばなんとか持ち直しそうだ。

 

↑プーリーの海岸

                                                (つづく)