今回の記事は、
【極私的漫画史】漫画的表現の源流を独自に探る試み - その1
2015年11月15日
【極私的漫画史】漫画的表現の源流を独自に探る試み - その2
2015年11月29日
の続編で、一応最終回となります。
しかし、また新たなネタを仕入れ次第、
その続編(第4回)も書くかも知れません。
本シリーズは、
「漫画の歴史」についての独自アピールをするというものです。
というのも、現代漫画がまだ無かった時代に、
如何にも現代漫画風に誇張(デフォルメ)された作品が描かれている例を、
幾つも知った上に、「漫画の早い作例」として特に紹介されてもいない、
或いは、たとえ触れられていても、
特に強調されずにサラッと紹介されるに留まっているものが多いからです。
しかし私は、漫画の歴史について、専門的に学んではおりません。
なので、
「こういうのがあるのですが、どうなんでしょうか?」
という紹介に留めるしかありません。
今回は「中世・古代編」ですが、
その前に、19世紀前半の漫画の先駆者のご紹介をいたします。
クリプトガム氏物語(1845年)
Histoire de Monsieur Cryptogame
(Wikipedia)
スイスの教師、作家、政治家、画家、漫画家である、
ロドルフ・テプフェール(Rodolphe Töpffer)1799-1846
が、近代に於ける「コマ割り漫画」の先駆者だそうですが、
2014年に、彼の業績を紹介した書籍が、和訳されています。
テプフェール マンガの発明(法政大学出版局)2014年
著:ティエリ・グルンステン(Thierry Groensteen)
ブノワ・ペータース(Benoît Peeters)
訳:古永真一 原正人 森田直子
元々は、出版を意図したものではなく、
知人たちを愉しませるために描いていたそうです。
先駆的表現というものは、往々にして、
元々は冗談のつもりで作ったに過ぎなかったものが少なくありません。
例えば、モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)の作品に、
「音楽の冗談」(Ein Musikalischer Spaß K.522)
「弦楽四重奏曲第19番 不協和音」(Dissonanzenquartett K.465)
など、不協和音のあるものがあったりします。
失敗がノーベル賞に繋がった例もありますね。
話を戻しますが、テプフェールの漫画は、
1827年の『ヴィユ・ボワ氏物語』(Histoire de M. Vieux Bois)
が最初だそうですが、この作品も、日本で出版されています。
M.ヴィユ・ボワ ペーパーバック – 2008/11/10 - Amazon
18世紀~19世紀の漫画的表現の画家と言えば、他に、
ジョージ・クルックシャンク (George Cruikshank)1792-1878
ジェイムズ・ギルレイ(James Gillray)1757-1815
トマス・ローランドソン(Thomas Rowlandson)1756-1827
ウィリアム・ホガース(William Hogarth)1697-1764
等もいますが、前回これらの画家について触れなかったのは、
割と有名だと思ったからです。
ヒエロニムス・ボス(Hieronymus Bosch)1450年頃-1516
ピーテル・ブリューゲル(Pieter Bruegel de Oude)1525-1530頃生-1569
の作品にもマンガ的表現がありますが、これらも有名なので、
名前だけ出しておきます。
そんなわけで、「中世・古代編」に突入する前に、この作品を・・・。
松梟竹鶴図(部分)
狩野山雪(1590-1651年)
(No197) 京都国立博物館「狩野山楽・山雪」 鑑賞記 その1 - FC2
このとぼけた表情が、たまりませんッ!!
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700年前に描かれたミッキーマウス?
kurioses / merkwürdiges / nichterklärbares - Terraner.de
2002年、オーストリアのケルンテン州(Kärnten)
マルタ教区(Malta)の教会の外壁の修復工事中に、
偶然この驚くべき図像を発見したとのことで、
現在では「ミッキーマウスの壁画」として観光名所となっているそうです。
でもコレが何を表わしているのかは、不明だそうです。
今回は「中世・古代編」という事ですが、
要するに「オーパーツ」(Ooparts)の一種ですね。
「オーパーツ」というのは、
それらが発見された場所や時代とは
まったくそぐわないと考えられる物品を指す用語。
例えば数億年前の地層から歯車やら機械部品等が発見されたとか、
そんな感じですね。
今回は、こんな感じのものの紹介となります。
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大英図書館に所蔵されている1340年付けの古文書の中に、
「ジェダイマスター・ヨーダ」に酷似した図像が・・・
衝撃…!スターウォーズのヨーダ、中世ヨーロッパから存在したことが明らかに(画像あり) - THE NEW CLASSIC
ローマ教皇グレゴリウス9世(Papa Gregorius IX, 1143?-1241)
が発した教令を記した写本
『スミスフィールド教皇教令集』(Smithfield Decretals)の1340年付けの、
旧約聖書の登場人物である、サムソンの物語が記された頁に、
緑色の顔をし、手に水掻きの付いた人物の図像が描かれているのを、
大英図書館の職員が発見したとのこと。
その緑色の人物が、
「スター・ウォーズ」(Star Wars)の登場キャラクターである、
「ジェダイマスター・ヨーダ」(Yoda)に酷似しているとして、
一部で話題となった様です。
しかし、この人物が何者なのかは、結局分からないそうです。
この写本は、1300~1400年の間に、南フランスで書かれたそうです。
中世の古文書にマスター・ヨーダの図像が見つかる (写真) - スプートニク
14世紀の古文書に「ヨーダ」の姿が発見された!? 『スター・ウォーズ』ファンに衝撃!! - TOCANA
今現在、スター・ウォーズの新作が話題となっており、
タイムリーと言えばタイムリーですな。
で、この「スミスフィールド教皇教令集」なんですが、
他の図像も見てみると、かなりマンガ的というか、
「鳥獣戯画」っぽい描写が沢山あります。
まあやっぱり、中世期頃の西洋のイラストによくありがちな、
ぎこちない動作の人物動物描写が多めですが。
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ポンペイの居酒屋の壁にマンガ
2006年に開催された、
「bunkamura ザ・ミュージアム」で開催されていた『ポンペイの輝き』展に、
私はたまたま足を運んでいたのですが、その中で最も憶えていたものが、
居酒屋の壁に描かれていたという、台詞付きの人物の壁画。
9年半も前の話なので余り憶えていませんが、確か、
居酒屋が再現されていたと思います。
そしてそこに、
台詞付きの人物の壁画も再現されていた様な記憶があります。
2000年も前に、漫画の様なものがあった事を知り、
それがとても印象的で、凄い憶えていたというわけです。
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紀元前の陶器に、現代漫画風に誇張された絵が描かれていた!!
アプリア(Apulia)派赤像式鐘形クラテール
Bacchicstage | The Ancient Greek Stage - WordPress.com
レンティーニ・マンフリア(Lentini-Manfria)派
フリュアクス劇の赤像式鐘形クラテール
(シチリア出土:紀元前350-340年)
History - Theatre - Wikipedia English
ヘレネの誕生(フリュアクス劇)
Nascita di Elena - Farsa fliacica
アプリア(Apulia)派赤像式鐘形クラテール
(Cratere a campana a figure rosse del pittore di Diogene)
紀元前380~370年頃(380-370 a.C.)
バーリ考古博物館(Museo Archeologico - Bari)
「世界美術大全集」(小学館)の
「西洋編4」(ギリシア・クラシックとヘレニズム)
を読んでいた時に、驚くべきものを発見しました。
現代漫画風にデフォルメされた絵の描かれた
甕が紹介されていたのです。
そこで、3年半も前の2012年5月13日に、
この甕を紹介したという次第です。
オーパーツ・オブ・マンガ?(Ooparts of Cartoon)
2012年5月13日
リンクする際、記事を見やすくし、題名も修正、
削除されている頁のリンクも解除しました。
古代ギリシャで、ワインと水を混ぜるのに使用された、
クラテール(Κρατήρ)と呼ばれる甕があるのですが、
その側面に描かれた絵の中に、
漫画風に誇張された絵柄の絵があったのです。
で、何が描かれているのかというと、
フリュアクス劇(Φλύαξ)と呼ばれるもので、
神話や悲劇をパロディにした喜劇だそうです。
Phlyax play - Wikipedia English
私は、小学館という大手の出版社の出版した美術画集に
掲載されているのにも拘らず、この絵が注目されない事にも、
驚きました。
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ナスカ文明の遺物にゆるキャラ風の絵柄
Museo Didáctico Antonini - Turismo en Nazca
確か南米の遺跡に、
ゆるキャラ風にデフォルメされた絵柄があった様な記憶があったので、
何の文明の遺物だったのか調べてみた所、
紀元前後から紀元後800年まで栄えたという、
ナスカ文明(Cultura nazca)のものであると分かりました。
ベロ出してますなぁ。
まあ、ナスカ文明に限らず、
他の南米の文明にもそういう絵柄があったと思うのですが、
より古い時代のものを示した方が、その分驚きもあると思うので。
アントニーニ教育博物館(Museo Didáctico Antonini en Nazca)
《アントニーニ考古学博物館(Museo Arqueológico Antonini)》
が所有しているそうです。
Wikipediaにも、
興味深いゆるキャラグッズ(?)の画像が出ています。
シャチの土器
所有:ラファエル・ラルコ・エレラ考古学博物館
Museo Arqueológico Rafael Larco Herrera
ロブスター容器
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漫画の本当の起源は・・・?
「漫画の起源」といっても、何を基準とするかで、
内容が大きく変わってきます。
「コマ割り漫画」の起源は、
テプフェールで間違いないのかも知れませんが。
弊記事では、絵柄が漫画風に誇張されているかどうかを、
特に重視して記事を書きました。
大昔の漫画というと、冗談や気晴らしで描かれたものばかりで、
正式に描かれるという事が恐らくは無かったため、
積極的に残す努力が払われなかったようです。
そんなわけで、大昔の漫画は、見えない部分に隠され、
それが後に発見される形で後世に伝えられたりします。
こういう状況を考えると、本当の「漫画の元祖」というものは、
結局「神のみぞ知る」という事になるのかも知れません。
もしかしたら、4000年も前に、
現代の漫画みたいな絵が描かれていないとも限りません。
現存する漫画で最も古いものについてなら、
語れるとは思いますが・・・。
アニメーションのコマの一つ一つを横に並べていった様な絵柄の
5200年前の遺物が、イランで発掘されたという話もあります。
CHTHO's Cultural Blunder and Documentary Production on World’s Oldest Animation
記事が長くなり過ぎましたが、
最後にメジェド(英: Medjed)を出して締めるとします。
(何か話題になってる様ですが・・・)
メジェド様がはちまきをしている理由ってもしかして - 現在位置を確認します。
【追記:2023/8/17】
ラファエル・ラクロ・エレラ → ラファエル・ラルコ・エレラ