今年、何かと世間を騒がせた日本大学であるが、11月に入って話題の主、アメリカンフットボール部日大フェニックスが社会人との練習試合を行っている。

「例の事件」の処分として、今季は公式戦出場停止処分をくらっているため、さすがに、大学チームとの試合はできないが、選手のモチベーションを維持するには対外試合は必須である。過去に日本一を決めるライスボウルで何度も戦ったこともある名門アサヒビールとの一戦は、世間も注目したようだ。

なお、今季日大が試合できず7校編成となった関東学生1部リーグのTOP8には、全敗扱いで降格する日大に代わって2部リーグ1位の東京大学が国立大学として初めて昇格を決めている。また、今シーズンの大学日本一を決める甲子園ボウルだが、東日本の代表は東北大学に圧勝した早稲田大学が、西日本の代表は「日大事件」の被害者である奥野選手の関西学院大学が立命館大学を試合時間残り2秒から逆転して1点差で出場を決めた。24ヤードのフィールドコールが決まって3点入ると同時に試合終了。こうなるともう漫画の世界である。

 

12月2日(日) 関学が逆転勝利した甲子園ボウルの西日本代表決定戦 

(SPORTS BULL 動画より)

(https://sportsbull.jp/p/434790/)

 

 

さて、いささか旧聞に属するが、帝国データバンクが夏に四国に本社を置く各企業の社長の出身大学について調査結果を公表しているので紹介したい。地元でのブランドイメージに対する実績結果というところか。字面だけでは「ふーん」で終わってしまうので、ひとこと付け加えておく。

 

毎日新聞2018年8月28日 地方版より

 

四国企業社長の出身大学
松山・香川・愛媛大も 日大に続きトップ10入り /四国

 20社に1社の社長の出身は日本大だが、松山大や香川大、愛媛大もトップ10入り--。帝国データバンク高松支店が四国企業の社長の出身大学を調べたところ、こんな状況が浮かび上がった。

 6月時点の同社データベースから、四国4県に本社を置く企業の社長8779人の経歴を集計した。

 同支社によると、上位は、(1)日本大482人(2)松山大405人(3)近畿大284人(4)慶応義塾大281人(5)早稲田大274人(6)明治大194人(7)中央大178人(8)同志社大162人(9)香川大、愛媛大156人--など。

 年代別の最多は50代、60代、70代以上だと日本大だが、40代と30代以下では松山大だった。全体で34位(33人)の徳島文理大が30代以下で3位、全体で9位の愛媛大が40代で3位と、両大学は「若手社長」の輩出を印象付けた。

 女性社長(364人)に限ると、25人の松山東雲短大が最多で、徳島大(14人)▽徳島文理大(12人)▽松山大(11人)--と続いた。徳島県を地盤とする大学は四国大短大部(9人)や徳島文理大短大部(8人)、四国大(7人)も上位で、トップ

 

これだけでは、さすがに「もやっ」として何のことかわからない。

新聞記事には記者のフィルターがかかるし、何より紙面のスペースという制約があるためである。

そこで、帝国データバンクの元資料にあたってみよう。

便利な時代である。ニュースリリース資料が同社のHPに残されており、一般人でも詳細データを見ることができる。

 

下の資料を見て感じることは、同族経営の会社が多い地方の企業においては、結果的に都会の私立大学が強いということである。「東都遊学」という言葉が明治時代にあったが、将来的に家業を継ぐことを予定されている自分の子弟を4年だけでも東京や大阪にやって、「都会の空気を吸わせてやる」ということが今日でも行われている。

このため、四国四県を合計した上位10校の分布は、国立大学2、私立大学8で公立大学は0である。

私立では、、学生数が多い日本大学、中央大学、近畿大学の3校、慶應義塾大学、早稲田大学、明治大学の知名度のある東京六大学の3校と関関同立からただ1校同志社大学が上位を占め、地元私立からは愛媛県の松山大学が2位につけている。四国の私立大学のなかで上位30校に名を連ねているのは唯一この松山大だけであるので、戦前の松山高商からの看板が生きているといえよう。

上位10校のうち国立大学は、もともと県民人口が一番多く新制大学発足当時から理学・工学系の学部を持つ愛媛大学と、戦前の旧官立高商が前身の香川大学の2校だけだが、12位の徳島大学は戦前の旧官立医専と高工が母胎の理工系が看板の大学だけに県内では日大、早・慶を抑えてトップにある。したがって、この3県では地元国立大学が健闘していると言える。逆に、同じ国立でも上位10校どころか30校からも漏れている高知大学は、残念ながら存在感が薄いと言わざるを得ない。上位30校の「選外」ということは四国4県あわせて69人以下は確実で、4県の合計社長数が150人前後で拮抗している愛媛大、香川大、徳島大との差は歴然としており、高知県内限定でもようやくどん尻の10位に名を連ねている寂しさである。

 

〔国立大学4校の地元県での社長数比較〕

(愛媛県3位)愛媛大学・・・127名〔7学部+1特別コース〕

(香川県2位)香川大学・・・107名〔6学部〕

(徳島県1位)徳島大学・・・・99名〔6学部〕

(高知県10位)高知大学・・・・24名〔6学部+1プログラム〕

 

〔国立大学4校の四国4県合計の社長数比較〕

(四国9位)愛媛大学・・・156名〔7学部+1特別コース〕

(四国9位)香川大学・・・156名〔6学部〕

(四国12位)徳島大学・・150名〔6学部〕

(四国選外)高知大学・・・不明〔6学部+1プログラム〕

 

1頁目の四国四県の合計ランキングと、4頁目の各県別を総合してわかることが1つある。

それは、四国の私立大学の中で唯一強いとされる松山大学が、ほぼ愛媛県内に限定された「強さ」であることだろう。東京・大阪の学生数の多い私立大学とはここが決定的に違う。

愛媛県内の松山大学出身の数は338名で県内1位、これに対して松山大学の四国全体の社長数は405名。その差は67名である。つまり愛媛以外の残り3県の社長数の比率は17%である。

同じ旧高商を母胎とする経済系が看板の香川大学の場合はどうか。香川県内の香川大学出身者の数は107名で日大に次ぐ県内2位、これに対して香川大学の四国全体の社長数は156名。その差は49名。こちらの残り3県の社長数の比率は香川大全体の社長数の31%となり、松山大のそれのほぼ倍である。

同じように、愛媛大について残り3県の社長比率を求めると19%となり、松山大と大して変わらないことがわかる。逆に、徳島大について残り3県の社長比率を求めると34%となる。

大正時代からの旧制高松高商、旧制徳島高工の看板は、少なくとも四国内では今でも有効であることが読み取れる。

これにひきかえ愛媛大・松山大の県外でのブランド力には問題があると言わざるを得ないだろう。もっとも、医学部と教育学部以外は戦後の創立である岡山大学の場合も、同じように地元岡山を除く中国地方の残り4県の社長比率は岡大の中国地方全体数の19%でしかないので、県外における地方国立大のブランド力というのは、普通はこの程度なのだろう。

しかし、新聞に小さく載ったベストテンの情報記事だけを見て、徳島県の受験生が「松山大や愛媛大は四国全体で強い」という印象を受け、誤解して入学してしまえば、就活時に当てが外れて大変な目に合うということである。

 

他大学学生の就活ブログより

(https://ameblo.jp/ssasamamaru/entry-11768322139.html)

 

さて、当てが外れると言えば、1頁めと4頁めの「地域別 社長の出身大学上位」を読めばわかるように、上位30校の中に入っている国公立大学は四国内のたった3校(愛媛大、香川大、徳島大)しかないことに気付く。一方、各県の上位10校に入っているのは自県の国立大学1校だけで、県外の国立大学はまったく入っていないことがわかる。念のために、帝国データバンクが公開する中国地方のデータもチェックしたが、まったく同じ傾向であった。

つまり、「遊学」先として選ばれるのは東京や大阪・京都の私立大学だけで、そこに国立大学は殆ど入っていないことが読み取れる。受験地図では四国から挑戦者の比較的多い対岸の広島大学、岡山大学や近畿圏の国公立大学であるが、企業オーナーの子弟が進学する先にはならないのである。「そんな学力があるのなら、学費の心配はいらないから東京か関西の有名私立大へ行きなさい」ということを親の方からすすめるケースが多いと思われる。

もちろん、他地域の国公立大学からでも卒業後に四国の公務員に採用されたり、民間企業にUターン就職する学生は一定数いる。昔と違って、少子化がすすんだため、故郷にUターンする道を選ぶ学生は結構多い。しかし、高学歴な彼らが就職先に選ぶのは安定した公務員か、地元上場企業。視野を広げてもせいぜい年商が50億を超えるような比較的規模の大きい企業であり、そこで勤め上げてトップにまで上りつめるのはレアケースだということだろう。

 

 

 

《帝国テータバンク高松支店 リリース資料》