朝日新聞社が週刊朝日のムック本として毎年刊行していた「大学の選び方」が、今年誌面を全面刷新した。しかし、はっきり言って改悪である。これまでは、10年以上に亙って全国の国公立と主な私立大学の毎年の就職実績上位10社を一覧表形式で報じていたが、これをやめてしまった。

大学の選び方 2016 (AERA進学ムック)/朝日新聞出版
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たぶん編集が面倒くさかったか、労力の割りに売上げが伸びなかったか、とにかく全国の大学の就職実績を網羅していた貴重な資料としての側面は完全に失われ、単なるスポンサー私立大学の提灯本に衣替えのようだ。正直これには失望した。たぶん発行部数は激減するだろう。ただし、誌面を見ると全国のオープンキャンパス情報とか、たいした情報は載っていないので編集側の投下した労力も激減しており、採算は改善するのかもしれない。
かつて、学研の「高3コース」や旺文社の「蛍雪時代」が年年歳歳「薄く」「中身がなく」なってしまったのと同じ轍を踏むのであろう。書籍の電子化がすすむなか、紙の本の存在価値を失うような誌面刷新は、読書人の端くれたる筆者としてはやってほしくはないのであるが、朝日新聞自体の地盤沈下と連動しているのかもしれない。

別冊 東洋経済 2015年 10 月号 [雑誌]/東洋経済新報社
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さて、話題を変えて、今月、東洋経済新報社から本年度版の新しい「役員四季報」が出たので、これにもとづいて考察してみたい。


まずは、定点観測として岡山県の地方銀行、中国銀行とお隣りの愛媛県の伊予銀行である。


《中国銀行 出身学校別取締役構成 2015年6月末以降》

(取締役数13名=慶応義塾大学3名、早稲田大学3名、香川大学2名、岡山大学2名、明治大学1名、高崎経済大学1名、関西学院大学1名。青字は国立大)


頭取====宮長雅人(早稲田大学法学卒)※代表取締役
副頭取===坪井宏通(慶応大学商学部卒)※代表取締役
専務取締役=青山肇(香川大学経済学部卒)※代表取締役
常務取締役=山本督憲(明治大学商学部卒)
常務取締役=花澤礼志(早稲田大学商学卒)備後地区本部長
常務取締役=浅間義正(香川大学経済学部卒)
常務取締役=福田正彦(高崎経済大経済学部卒)
常務取締役=加藤貞則(早稲田大政経学部卒)
取締役=安東寛倫(慶応大学経済学部卒)
取締役=塩飽和志(岡山大学法文学部卒)
取締役=釣井時和(関西学院大法学部卒)
取締役=寺坂幸治(岡山大学法文学部卒)
取締役=佐藤芳郎(慶應大大学院商学研究科)※社外取締役
〔東洋経済「役員四季報」全上場会社版 2016年版より〕


【注釈】
ここ数年の大きな変更点としては、ようやく地元岡山大学出身の取締役が増えてきたことである。ただし、社外取締役を新設して取締役数は13人と多くなっており、権限は常務取締役以上の8名で構成される「常務会」に集中しているようだ。
常務以上8名の出身校をみると、複数名を出しているのは早稲田大(3名)、慶應義塾大(2名)、香川大(2名)の3校であるが、奇しくも代表権を持つ頭取、副頭取、専務の3名の出身校に集まっているのはご愛嬌である。




伊予銀行
伊予銀行 本店



《伊予銀行 出身学校別取締役構成 2015年6月末以降》

(監査等委員を除く取締役数7名=各大学それぞれ1名。青字は国立大)


頭取====大塚岩男(大阪大学法学部卒)※代表取締役
専務取締役=永井一平(東京大経済学部卒)※代表取締役

常務取締役=宮﨑修一(関西大学商学部卒)
常務取締役=高田健司(関西学院大商学部卒)
常務取締役=藤堂宗昭(香川大学経済学部卒)
常務取締役=飯尾隆哉(岡山大学法文学部卒)
取締相談役=森田浩治(早稲田大政経学部卒)※前頭取

〔東洋経済「役員四季報」全上場会社版 2016年版より〕


【注釈】

伊予銀行というと、四国随一の優良銀行として知られるが、つい10年前まで会長、頭取を筆頭に重役のほぼ半数近くを地元の松山商科大学(旧制私立松山高商、現・松山大学)の出身者で占める特異な銀行としても有名だった。
それが、10年前に松山商大OBだった麻生俊介頭取が会長に退いた後、大きく様変りした。そのあと森田浩治氏(早稲田大政経卒)、大塚岩男氏(大阪大法卒)と頭取が二代変わった結果、監査等委員を含む全重役メンバーから松山商大・松山大OBの姿が消えたのである。(平成18年6月時点では、まだ監査役・取締役をあわせて松山商大・松山大OBが5名いた)これに対して、地元愛媛大は相変わらず新卒の採用数は多いものの役員会では影が薄く、工学部出身の社外の監査等委員がひとりいるだけ。結局、早慶・関関同立と関東・関西・中国・四国の他県国立大のUターン組が常務以上の重役陣7名を独占している。そういう意味では、「普通の銀行」になってきたということだろうか。
なお、今春平成27年3月の愛媛大学法文学部卒業生547名のうち、就職者数のトップは伊予銀行の23名。次が松山市職員の14名、愛媛銀行10名と続く。実に法文学部卒業生のうち4%が伊予銀行に入ったことになる。昼間主だけならその比率はもっと高くなるだろう。
同じ年、香川大学経済学部の卒業生297名(含夜間主)の就職者数トップは岡山の中国銀行の14名(卒業生の4.7%)。次が地元香川の百十四銀行12名(同4.0%)、香川銀行9名(同3.0%)と続く。香川大経済の愛媛出身者は毎年40名前後で、岡山や地元香川出身者よりかなり少ないため、香川大経済から伊予銀行への就職者は毎年5~7名である。このため、取締役数が1名というのは平成18年6月時点(横井和美氏、元いよぎんリース社長)のころと変わりがない。