香川大学解体新書-中国銀行
中国銀行 本店


地方国立大学、それも旧高商系の国立大学は地元の金融機関に強いのは当たり前という声がある。それは一面の真理であるが、それでは隣県についてはどうであろうか。

この頁では趣向を変えて、この問題を、香川県の隣県であり、政令指定都市と沿線に新幹線を持つ典型的な地方県である岡山県について考えてみよう。



《中国銀行 出身学校別取締役構成》


(取締役数15名=慶応義塾大学4名、香川大学3名、明治大学2名、早稲田大学2名、東京大学1名、神戸大学1名、高崎経済大学1名、商業高卒1名)


頭取==永島旭(東京大学 法学部卒)※代表取締役、日本銀行OB

副頭取=泉史博(慶応義塾大法学部卒)※代表取締役

専務==剱持一(神戸大学経済学部卒)※代表取締役

常務==永原正夫(明治大学法学部卒)

常務==宮長雅人(早稲田大学法学卒)

常務==坪井宏通(慶応大学商学部卒)

常務==青山肇(香川大学経済学部卒)

常務==山本督憲(明治大学商学部卒)

取締役=六車稔(香川県立志度商業卒)※四国地区本部長

取締役=花澤礼志(早稲田大学商学卒)

取締役=戸田豊(慶応大学経済学部卒)

取締役=松島輝夫(香川大経済学部卒)

取締役=福田正彦(高崎経済大経済卒)

取締役=大川哲也(慶応大学商学部卒)

取締役=浅間義正(香川大経済学部卒)


〔東洋経済「役員四季報」 全上場会社版 2010年版より〕


上の表は、現在の岡山県の第一地方銀行、中国銀行の取締役会のメンバーを並べたものである。

中国銀行は行員数3100人、総資産5兆6千億円を誇る中・四国地方屈指の金融機関であり、岡山県の指定金融機関である。そして、その堅実経営ぶりは業界でもよく知られている。激しい競争にさらされている地方銀行業界ではあるが、これだけ経営が安定していると、人事構成についてはあきらかな「特徴」が出てくるものと思われる。

筆者が気づいた点は以下の通りである。


1.伝統的に日本銀行とのつながりが強い。

中国銀行の歴代頭取は日銀とのつながりが強い。現頭取の永島頭取もまた日本銀行からの天下りである。しかし、他の取締役については行員からの内部昇格であるため、頭取以外の取締役はすべて岡山・香川の両県出身者で占められている。


2.生え抜きでは伝統的に慶応義塾大が強い。

唯一の旧帝大OBである永島頭取を除けば、慶応義塾大学と香川大学OBとで残りの取締役数14人の半数を占めている。慶応は、生え抜き行員の最高位である泉副頭取と取締役人事部長を抱えており、取締役予備軍の支店長数も多いため、伝統的に慶応色の強い企業といえる。


3.法・経・商学部出身以外の取締役がいない。

高卒も含めて、法・経・商学部出身以外の取締役がいない。

これは、今と違って上記役員たちの採用当時は学際的な学部が少なく、また入社試験で露骨に学部による制限がかけられていたせいでもあると思われるが、同時に地方銀行がその業容の拡大に伴って、入行後も専門知識の自己研鑽を絶えず求められる厳しい職場であることを物語っているとも言えよう。


4.地元岡山大卒の取締役がいない。

上記取締役会メンバーのうち最年少の取締役は、本年6月の株主総会で新任された香川大学経済学部出身の浅間義正氏(本店 資金証券部長)である。氏は昭和32年生まれの52歳であり、同年齢の香川大卒業生には大阪の都市銀行、りそな銀行社長の岩田直樹氏がいる。

今年の株主総会の役員改選ではかなり大がかりな若返りが行われ、代表取締役である頭取、副頭取、専務と高卒で四国地区本部長の六車取締役の4名を除いて、常務から平取締役までは50歳代となった。このため、経営上の激変がなければ、当分はこの顔ぶれが続くはずである。

しかし、不思議なことに、中国地方を代表する一期校の名門であるはずの地元岡山大学からは、ここ何年間ひとりも中国銀行の取締役が出ていない。下の表でわかるように、毎年何人もの学生が入行して、その多くが2004年時点で20人が支店長以上の管理職になっているにもかかわらず、取締役には一人も手が届いていないのである。同じ表の香川大の8人の支店長以上の管理職から、1人の常務、2人の平取締役が出ているのとはあまりに対照的である。この実績の故か、瀬戸大橋の開通後は毎年10人を超える香大生が中国銀行にコンスタントに入行するようになっている。

ここで、岡山大学の名誉のために付け加えると、岡山大卒業生の弁護士や岡山県庁の幹部職員OBが、非常勤監査役(実質的には名誉職である)として、外部招聘されている実績はある。しかし、銀行内部からの取締役としての昇格は、不思議なほどいないというのが実情である。トマト銀行のように、岡山大の卒業生が殆どいない企業ならともかく、昔から毎年10人はコンスタントに就職しているにもかかわらずこの状態である。いったいこれは偶然なのだろうか、非常に興味深い。


中国銀行の管理職(支店長以上)構成〔2004年〕

http://www.geocities.jp/tarliban/chugoku_bank.html




《参考 百十四銀行 出身学校別取締役構成》


(取締役数12名=神戸大学2名、香川大学2名、慶応義塾大学2名、京都大学、岡山大学、高知大学、早稲田大学、同志社大学、関西学院大学 各1名)


会長==竹崎克彦(岡山大学法文学部卒)

頭取==渡邊智樹(京都大学経済学部卒)※代表取締役

専務==林   勲(同志社大学商学部卒)※代表取締役

専務==川村延廣(神戸大学 法学部卒)※代表取締役

常務==長尾重行(香川大学経済学部卒)

常務==三谷和夫(早稲田大学商学卒)

常務==森糸繁樹(関西学院大法学部卒)

常務==藤澤譲二(香川大学経済学部卒)

常務==平尾幸夫(慶応大学経済学部卒)

取締役=泉川貴昭(神戸大学法学部卒)

取締役=福西敏浩(慶応大学工学部卒)

取締役=矢野年紀(高知大学文理学部卒)


〔東洋経済「役員四季報」 全上場会社版 2010年版より〕


【注釈】

百十四銀行は、2009年2月、百十四銀行九条支店が2007年から2008年にかけて返済能力の無い暴力団系の不動産会社に計10億円を融資したことが発覚して支店長が逮捕、監督官庁である四国財務局から業務改善命令を受ける不祥事があった。

そのため、6月の株主総会では同行の実質的オーナーである綾田修作会長(香川大学経済学部卒)が退任して相談役に退き、日本商工会議所副会頭としての財界活動に専念することとなり、事件当時の頭取である竹崎克彦頭取も会社の代表権を返上して取締役会長となり経営の第一線から退くことで人心の一新をはかっている。

新頭取の渡邊智樹氏は、四国電力の千葉昭社長と同じ京都大学経済学部出身の57歳で、同行では戦後二番目に若い頭取の誕生である。


※2011年12月現在時点の新しいデータは、(http://ameblo.jp/ssasamamaru/entry-11016015160.html )に、「隣県での香川大学 中国銀行出身校別取締役構成(2011)」として掲載しています。


(2009.09.19)

(2009.09.23追加)



(2009.10.03推敲)